経済を良くするって、どうすれば

経済政策と社会保障を考えるコラム


 *人は死せるがゆえに不合理、これを癒すは連帯の教え

異次元緩和のマクロ経済的な検証

2016年08月14日 | 経済
 日銀は、9月の金融政策決定会合で「異次元緩和」の総括的な検証を行うらしい。まさか、「一気の消費増税を始めとする緊縮財政で消費が減退し、2年で2%の物価目標は達成できませんでした」という、正直かつ正当な表明がなされるとは思われない。せめて、消費増税を間に挟み、異次元緩和ⅠとⅡを分けて、功罪を論じてもらいたいところだ。

………
 企業活動は、需要を見ながらなされているため、追加的な3需要、すなわち、住宅、公共、輸出が景気の先行きを左右する。3需要が景気を先導し、設備や人材への投資がなされ、所得が増え、消費が伸び、それらの需要が更に企業活動を刺激する。これが実際の経済のメカニズムであり、経済運営の要諦は、3需要による景気の起動と、需要の好循環の実現による景気の展開を図ることにある。

 金融緩和は、ローンの低下を通じて住宅に、自国通貨安を通じて輸出に効く。したがって、金融緩和が成功したか否かは、これらを検証すれば良い。前回の図で分かるように、異様な円高のために、2012年春から下り坂にあった輸出は、2013年に入ると反転した。2013年4月の異次元緩和Ⅰ前後の円安による功績と見て良かろう。加えて、海外旅行の国内への移行、外国人旅客の増大も挙げられる。

 住宅は、2013年春頃から急増している。多分に消費増税を見越した駆け込みの始まりだろうが、金融緩和の功績に数えることも可能だ。こうした輸出や住宅の動向を見れば、異次元緩和Ⅰは成功だったと評価できる。並行して、財政出動による公共の増大も景気を浮揚させており、これを低金利で支えてもいる。ここまでは、アベノミクスは順調だった。消費増税の春を迎えぬうちは。

(前回の図)



………
 物価は、需要が供給より強いときに上がる。そんな教科書のイロハを無視し、一気の消費増税で需要を抜いておいて、物価が上がると思う方がどうかしている。あとは、このデフレ要因を覆すほどの事象が起こり得るかである。既に、公共と住宅は、執行や供給が困難なくらい伸び切っていた。したがって、本コラムは、2014年に入っても大幅な輸出拡大が見られないことをもって、アベノミクスの失敗を予言し、実際、そのとおりとなった。

 日本だけが消費増税で不況になるのは変だとの声も聞くが、日本の場合、住宅にも課しており、これが駆け込みと反動以上の景気変動のうねりを生む。同じ図で分かるように、今回も急落し、景気の足を引っ張っている。その際、これに抗するように、2014年夏頃から、公共と輸出の増が支えになったことは幸いだった。それらで持ち堪えていなければ、1997年のようなデフレ・スパイラルが勃発しかねなかった。

 こうして迎えた、2014年10月末の異次元緩和Ⅱは、どう評価すべきか。住宅は、2014年末に底入れしたから、自律的な動きとしても、効果なしとは言えまい。問題は、輸出で、急増したものの、すぐに崩れている。おそらく、急な円安をチャンスと見て、春節前に生産と輸出を急増させ、その反動が出たと思われる。つまり、攪乱させただけだった。その後、異次元緩和Ⅱは、輸入物価を上げて、消費に悪影響を与え、そうこうするうち、2015年末の米国のゼロ金利解除を受け、無理な円安水準は、年明けに瓦解する。結局、功なしと判ずべきであろう。

 なぜ、日銀は、異次元緩和Ⅱを断行したのか。そこには、追加の消費増税を実現させようという不純な動機がある。これに肉薄したのが、元TBS記者の山口敬之さんが書いた『総理』である。今にして思えば、増税なんぞしていたら、輸出の崩れと合わさり、相当、悲惨なことになっていただろう。円安株高に幻惑されず、増税路線を排除できたことは、大きな岐路であった。

………
 消費増税後、日本経済は、消費が減っただけでなく、成長もしなくなった。そこで、景気を先導する3需要の指数を合成したものと、消費総合指数を重ね合わせてみよう。合成は、GDPでの規模(住宅:公共:輸出=1:1.6:6.8)で重み付けして足し上げ、適当な数(9.2)で割ったものだ。下図のとおり、その動向は、1か月前の消費と非常に一致していることが分かる。1か月のズレは生産してから輸出するためだろう。

 異次元緩和Ⅱ後の輸出の急増と崩れ、2015年秋の公共の減退と、消費増税後も、経済は揺さぶられどうしである。「3需要で景気を牽引せよ」とまでは言わないが、せめて、攪乱するようなまねをせず、安定させる必要がある。変動リスクにさらされれば、設備や人材への投資は加速しないし、好循環は、ただでさえ消費税や社会保険料の自動ブレーキが重いため、望みがたくなる。

 消費、そして、経済の低迷は、心理や天候を持ち出さなくても、追加的な生産活動の動きで理解可能だ。活発になれば、収入が増えて消費が伸び、消沈すると、収入が減って消費が萎む。ごく単純な理屈である。金融政策について言えば、ひたすら緩和して、やたらと円安にすれば良いというものでなく、頃合いが肝要であったと評せよう。その意味で、異次元緩和は、ⅠとⅡに分けるべきなのだ。

(図)



(今週の日経)
 研究開発の投資総額は2.3%増どまり。マイナス金利で3000億円減益・金融庁。消費者物価0.1%押し上げ・基準改定。やむなく非正規含むと失業率は8%台。機械受注7~9月5.2%増。天皇陛下 生前退位を示唆。配偶者控除、夫婦に転換。街角景気・持ち直しの兆し。
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