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タイ新憲法 軍主導では安定しない

 タイの国民投票で新憲法案が承認された。2014年のクーデターで権力を握った軍事政権から民政復帰するための新憲法だというが、民主的とは言えない内容だ。

     新憲法は、軍が政治に関与する余地を大きく残している。

     上院(250議席)は、軍が議員を指名する。下院(500議席)の総選挙は来年後半にも行うが、中小政党を優遇する制度とされた。軍の対抗勢力となりうる大政党の出現を阻むことを狙っている。

     新憲法案と一緒に承認された追加条項によって、首相の選出方法も変わる。従来は下院議員だけの投票だったが、新憲法施行から5年間は上院議員も投票する。軍が、票の3分の1を握るということだ。

     新憲法の主眼は、選挙に強いタクシン元首相派の封じ込めにある。

     タクシン派政党は、01年に行われた民主的憲法の下での総選挙に勝利した。支持基盤である貧しい農村部を優遇する政策を進めたタクシン政権に、軍や官僚に代表される都市エリート層は「ばらまきだ」と主張して強く反発した。

     軍は06年のクーデターでタクシン政権を崩壊させた。その後、タクシン派に不利な内容を盛り込んだ憲法を作って民政復帰したにもかかわらず、タクシン派は選挙に勝って復権した。

     そして軍は14年に再びタクシン派政権を力で倒した。タクシン派は依然として農村部を中心に強い支持を誇るが、軍は、今度こそ復権を許さないつもりなのだろう。

     タイ社会に深刻な分断と混乱をもたらしているのは、タクシン政権下で政治意識を強めた農村部や貧困層と、それまで既得権益を独占してきた都市エリート層の対立だ。10年には、タクシン派デモ隊を軍が鎮圧する過程で日本人カメラマンを含む約90人が死亡する惨事が起きた。

     新憲法案承認の背景には、そうした混乱を避けたいという思いがうかがえる。そのためには、不十分な内容でも民政復帰を急ぐべきだという現実的な判断があったとみられる。

     しかし、そもそも今回の国民投票はとても公正とは言えず、今後に大きな不安を残すものだった。

     国民投票では、政府機関が賛成を呼びかける以外のキャンペーンは禁じられ、反対の立場を取ったタクシン派のテレビ局は放送停止を命じられた。新憲法案を批判するパンフレットなどを配った学生や政治家が拘束される事件も起きた。

     新憲法でタクシン派を封じ込めようと考えるのは過ちだ。民主化を求める動きを力で止めてはならない。軍主導の「民政復帰」で対立を解消することはできない。

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