相模原事件 医療だけでは防げない
相模原市の知的障害者施設で19人が殺害された事件で、植松聖容疑者が事件前に病院の精神科に措置入院していたことについて、厚生労働省は退院の時期や退院後のフォローが適切だったのか検証を始めた。
どこかで防げなかったのかと誰もが思うだろう。安倍晋三首相からの要請も強く、国民が納得できる改善策を厚労省は迫られている。その結果、安易な隔離収容策の強化につながりはしないか心配だ。
そもそも植松容疑者を精神障害と決めつけるのは早計だ。同じ患者でも医師によって診断が違うことはよくあり、後に精神障害でないことが判明するケースもある。あわてて精神科医療に原因や改善策を求めても本当の解決にはつながらず、精神障害への偏見を招く恐れもある。
植松容疑者は2月に障害者の殺害を「予告」する手紙を衆院議長あてに書き、施設や警察にも同様の発言を繰り返したため、同市内の精神科に措置入院となった。
自傷他害の恐れがある場合に都道府県知事や政令市の市長らの権限で患者を強制入院させる制度で、2人の精神保健指定医はそれぞれ「大麻精神病」「妄想性障害」などと診断した。尿検査で大麻の陽性反応が出たが、大麻取締法には単純使用に対する罰則がなく、医師が警察へ通報する義務もない。12日後に医師が「他人に危害を加える恐れがなくなった」と診断したため退院となった。
措置入院は全額公費で賄われ、かつ人権の制約が大きいことから、入院期間は短縮する傾向にある。明確な精神症状がなくなれば入院させておく理由はなく、退院後に患者を強制的に通院させたり、24時間監視したりすることもできない。
ただ、地元自治体には退院後に相談支援や福祉サービスにつなぐ制度はある。今回の事件で医療と警察や福祉との連携に問題はなかったのだろうか。厚労省の検討会の焦点でもあり、徹底した検証が必要だ。
一方で、「妄想性障害」のような薬物治療が効かないとされる人を一般の精神科医療の対象として入院治療を施しても、効果は乏しいとの意見も根強い。
2001年に大阪・池田小で児童8人が殺害された事件では、容疑者の男が精神障害と診断され措置入院の経験があった。だが、正式な精神鑑定の結果、精神障害を偽っている「詐病」だと判断され、後に死刑が執行された。
植松容疑者についても詳細な精神鑑定を経て慎重に検討すべきだ。
相模原事件では動機の形成や事件に至る経緯で未解明なことが多い。先入観を排して事実を積み上げ、地域福祉の役割も含めて総合的な再発防止策を検討すべきである。