親の貧困は子どもに遺伝する…貧困の連鎖を断ち切る学習支援

いま日本では、子どもの貧困が深刻化しています。子どもの貧困は、子ども時代だけの話ではありません。300万人以上にのぼる子どもの貧困への対策が、子どもの未来、そして日本の今後に影響してきそうです。

子どもの貧困|6人に1人が貧困

「子どもの貧困」と聞いて、どういったことを思い浮かべますか?最近、日本では貧困問題や格差社会の問題が浮かび上がるようになってきました。生活保護などで生計を立てざるを得ない大人たちがいる一方で、子どもの貧困というのも深刻な問題としてあります。

貧しさや格差の話をすると、本人の努力の結果が人生を決めるんだ、いい職につけなかったのは自己責任だ、と思うひとがいるかもしれません。それは本当なのでしょうか?

貧しさに苛まれる子どもたち

日本では、6~7人に1人の子どもたちが貧しい家庭で暮らしています。データについては後述しますが、まずは子どもの権利を実現するNGO団体「Save the Children」が2010 年 7 月から 2011 年 2 月にかけて行った調査で寄せられた、子どもたちからの悲痛な声が寄せられています。をご紹介します。

「塾行きたくても行けない。勉強したくても出来ない。」(小 6・11 歳・女子)

出典: www.savechildren.or.jp

「ほっときゃ治るやろってめっちゃ言われた。胃腸が悪くて、病院行くときもなんか治
るみたいな、そんなん行かんでいい、お母さんかって我慢してんねんから、みたいな。」
(17 歳・女子)

出典: www.savechildren.or.jp

「あたしの友だちが、修学旅行とかになんか、お金がないから行かれへんって子がおっ
た。」(高 3・女子)

出典: www.savechildren.or.jp

「お母さんとお父さんとか、仕事行ってるとして、お金ないからずっと働いてるやん。
朝とかに帰ってきたりして。ずっと家の中でもひとりぼっちとか。学校でもひとりぼっ
ちやし家でもひとりぼっちやし。」(中 1・女子)

出典: www.savechildren.or.jp

「正直なんか良い学校に行こうと思ったら学校の勉強だけじゃ足らない部分って絶対
あると思うし、塾に行こうと思っても行けれへんかったら、良い学校行けれへん、就職
も出来ひんみたいな。極端かもしらへんけど。」(中 3・15 歳・女子)

出典: www.savechildren.or.jp

データから見る:子どもの貧困は深刻化している

出典: http://www8.cao.go.jp/youth/whitepaper/h27honpen/b1_03_03.html

貧しい家庭の子どもが全ての子どもの何%か、というのが「子どもの貧困率」です。

OECDが発表した「よりよい暮らしの指標2015」によれば、日本の子どもの貧困率は15.7%で、OECD加盟36カ国の平均13.7%を上回っています。

各国の子供の幸福度を評価したところ、日本は貧困率や自殺率が先進国のなかで悪い順位だった。

出典: www.nikkei.com

また、2012年の厚生労働省調査によれば、子どもの貧困率は16.3%で調査開始から過去最低を更新しました。これは、6人に1人、人数にしておよそ325万人の子どもたちが貧困であることを示しています。

国民生活基礎調査で、平均的な所得の半分を下回る世帯で暮らす18歳未満の子供の割合を示す「子供の貧困率」が、2012年に16.3%と過去最悪を更新したことが分かった。前回調査の09年から0.6ポイント悪化した。

出典: www.nikkei.com

つまり、1クラス40人とすると、うち6~7人が貧困であるということです。実はこの子どもの貧困率は、1990年代に入ってから大きく上昇しています。

’95年は12.7%だったのが、’98年14.2%、2001年には15.2%となっており、上昇率は他のどの世代よりも大きいのです。

出典: www.manabinoba.com

そして、1985年の統計開始以来はじめて、大人の貧困率よりも子どもの貧困率が上回ったそうです。大人よりも子どものほうが貧困にさいなまれている現状。大人ならば自助努力でなんとかできることも、18歳未満の子どもにはその手立てがありません。

同省は「母子世帯が増えており、働く母親の多くが非正規雇用であることも影響したのでは」と指摘している。

出典: www.nikkei.com

子どもの貧困を引き起こすのは親。そして子どもは親を選べません。今の日本は、生まれによって将来が左右されてしまう社会といわざるを得ないようです。

参照元:OECD(2016年3月時点、著者調べ)

2012年、厚生労働省から子どもの貧困率についての調査の概要が発表されました。そのデータから見ると、現在の日本で貧困状態にある子どもは16.3%とのこと。6人に1人が貧困状態であるとされています。日本の未来を担う子どもたちに今何が起きているのでしょうか?

日本の貧困

ここ数年で顕在化されてきた貧困問題

かつて、日本社会では貧困問題は重要視されていませんでした。社会全体で「貧困問題はない」という認識を共有していたとも言えます。しかしOECDのような国際機関では、2000年代の前半から日本の子どもの貧困を問題視していました。

2009年9月に民主党を中心とする政権ができて、貧困率が公表されました。それ以前の日本政府は、貧困率を計算することはしていませんでした。

出典: www.nhk.or.jp

それまで貧困率を計算していなかったことからは、貧困問題がないという前提で政府が動いていた、見て見ぬふりをしていたとも言えるかもしれません。貧困や格差が課題として扱われるようになってからは、生活保護やシングルマザーなど、貧困と密接にかかわりのある問題が社会的な課題となっています。

データから見る:日本の貧困世帯

ここまで貧困についてお話してきましたが、もしかすると、「貧困」という言葉を聞いて「日本で貧困?」と疑問に思うかもしれません。

たしかに、食べるものがなくて飢えている人、着る服がなくて凍え死にそうな人というのは、日本にはあまりいないかもしれません。それは「絶対的貧困」といって、「人間として最低限の生活を営むことができない」ことで定義されます。絶対的貧困は世界的に重要な問題ですが、主に発展途上国で起こってしまうものです。具体的な指標としては、「1日に1.25ドル未満」で生活することを指します。

一方で、ここで言う貧困とは、OECD(経済協力開発機構)が定義する「相対的貧困」のことです。相対的貧困とは「等価可処分所得が国民の所得の中央値の半分に満たない」と定義されます。ざっくり言うと、平均年収の半分以下ということです。

2012年の厚生労働省国民生活基礎調査によれば、この相対的貧困に陥っている人は、国民のおよそ16.1%存在します。

社会全体の1人当たり所得の中央の値は、2012年には244万円、その半額は122万円でした。
2012年には人口全体の16.1%の人々の所得が、この122万円という貧困基準を下回っていました。

出典: www.nhk.or.jp

世帯単位に換算してみると、親と子1人ずつの一人親世帯(2人世帯)で年額173万円、月額約14万円、親子4人世帯で年額244万円、月額20万円余りにしかすぎない

出典: www.sankei.com

子どもの教育には、どうしてもお金がかかります。義務教育であっても、たとえば教科書は無償配布ですが、副教材は実費だったりします。ひとり親で月額14万円となると、苦しい生活になることが想像できます。

参照元:厚生労働省(2016年3月時点、著者調べ)

参照元:CSR Magazine(2016年3月時点、著者調べ)

データから見る:子どもの教育にかかる費用

小学校の学校教育にかかる費用の例として、文部科学省の子どもの学習費調査(2012)による、以下のようなデータがあります。

授業料 0円
修学旅行・遠足・見学費 6019円
学校納付金等        9154円
図書・学用品・実習材料費等 1万7957円
教科外活動費         1763円
通学関係費 1万6978円
その他 3326円

出典: allabout.co.jp

また、学校だけでなく学外での活動もあります。学校外活動での費用については以下のようになっています。

家庭内学習費  1万3752円
家庭教師     1万4998円
学習塾費     5万7176円
その他        1492円
体験・地域活動   5023円
芸術文化活動  3万5167円
スポーツレクリエーション活動 5万3109円
教養・その他  2万7853円

出典: allabout.co.jp

これらの年間およそ25万円以上の費用を、貧困世帯では負担することができるでしょうか。もし、捻出できないとなると、子どもたちは、周りの友達と同じような子ども時代を送るのは難しいのかもしれません。

貧困の連鎖とは|貧困は子ども時代だけでは終わらない

こういった子どもたちは、貧しい子ども時代を過ごします。小学校では友達の話についていけない。中学校では修学旅行に行けない。高校では進学塾に通えない。中学を卒業したら働きに出る。そうやって子ども時代を過ごし、彼らはやがて大人になります。

十分な教育を受けられなかったり、人間関係を築く練習ができなかった子どもたちは、どのような大人になるでしょうか?

貧しくても勉学に励み、大人になってから大成した人というのも、きっといるでしょう。しかし、そういった人たちは一部でしかありません。また、貧困層でなかった人と比べると、並々ならぬ努力をしていると想像できます。住み込みで新聞配達をしながら学校に通う人と、私立の学校に通う人を比べたら、やはり環境による影響は何かしらあると思うのが自然です。

「貧困の連鎖」の定義

「親が貧困だとその子どもも貧困になる」ことを、「貧困の連鎖」と言います。重要なのは、単に子ども時代に貧困であるだけではなく、「大人になっても貧困のまま」であることです。貧困によるさまざまな”不利”は、大人になってからも一生付きまといます。

要するに、親の所得や職業が、やがて子どもの所得や職業を決定してしまうのです。今の日本は、子どもの将来が、生まれ育った環境によって左右されてしまう社会であると言えます。

「貧困の連鎖」の現状

厚生労働省の調査による生活保護世帯に属する子供の大学等進学率のデータあります。このデータによると、2014年4月1日現在、生活保護を受給する世帯の子どものうち大学等へ進学するのは31.7%%です。一方で、文部科学省、平成25年8月報道発表による2014年の高校卒業者全体の大学進学率は、70.2%です。

生活保護受給世帯の子どもと、子ども全体との間に40ポイント近くの差が生まれているのが現状です。

参照元:厚生労働省(2016年3月時点、著者調べ)

参照元:文部科学省(2016年3月時点、著者調べ)

データから見る:貧困は連鎖しているか

ここまで貧困について述べてきました。貧しい家庭の子どもは資金的・知識的な援助が不足し、なかなか親と同じような所得・階級から脱することができないというのは、想像にたやすいことのように感じますが、実際にどれだけの割合で、貧困は連鎖しているのでしょうか?

道中先生の論文から明らかになったのは、生活保護を受給している母子世帯の約40%が子ども時代に生活保護を受給しているという事実です。

出典: cfc.or.jp

また、貧困の世代間連鎖の実証研究(2007)では、以下のようなことが分かっています。

・父の所得が低層(下位25%)で子の所得が低層(下位25%)になる割合は31%
・父の所得が高層(上位25%)で子の所得が高層(上位25%)になる割合は38%

・父の所得が低層(下位25%)で子の所得が高層(上位25%)になる割合は20%
・父の所得が高層(上位25%)で子の所得が低層(下位25%)になる割合は16%

このデータからも分かるように、所得の低い家庭の子どもは将来的にも低所得層になる割合が比較的高く、反対に所得の高い家庭の子どもは高所得層になる割合も比較的高いと言えます。総じて、貧困の連鎖だけでなく富裕の連鎖がおきていることからも、日本では親の所得などが子どもに遺伝するといえるかもしれません。

また、所得の低い家庭から高所得層になる子どもに比べ、所得の高い家庭から低所得層になる子どもの割合は低いことからは、富裕層が貧困になることは比較的少ないということがわかります。反対に言えば貧困層から富裕層に逆転するチャンスもなくはないとも見ることができます。

参照元:日本労働研究雑誌(2016年3月時点、著者調べ)

貧困の連鎖が起こる原因|カギとなる「教育」

貧困の連鎖についての様々な研究から、親の貧困が子どもに継承される要因は複数あると考えられています。中でも、最も強い要因として挙げられるのが「教育」です。学歴とも言えますが、すなわち子どもへの教育投資の格差の影響が大きいようです。この点については、政府も重視して対策を考えているようです。詳しくは後述したいと思います。

次に重要なのが、「職業」だといわれています。たとえば農家や不動産を営む家庭は子どもへとそれを継承することが多いですよね。企業の経営者も、子どもに跡を継がせたり一定の地位を用意することがあります。また、医者の子どもも将来医者になることが多いと思います。そこまで極端な例でなくても、子は親の背中を見て育つというように、親の職業や働き方が子どもの将来に影響するというのはうなずける話かと思います。

さまざまな対策|貧困の連鎖を断ち切るために

2013年6月に成立した「子どもの貧困対策の推進に関する法律(子どもの貧困対策法)」、および2013年12月に成立した「生活困窮者自立支援法」において、貧困世帯の子どもに対する学習支援が制度化されました。

子どもの貧困対策法に基づく「子供の未来応援プロジェクト」

出典: http://www.kodomohinkon.go.jp/policy/

貧困の連鎖を断ち切るためには、貧しい家庭の子どもを支援する必要があります。貧困家庭であっても十分に勉学に励むことができれば、将来的に親よりも高レベルな職業や階級につくことができ、貧困の連鎖は断ち切れるといえます。

政府が貧困の連鎖を断ち切るために行っている対策として、子どもの貧困対策法に基づいた「子供の未来支援プロジェクト」があります。この支援は4つの柱で成り立っていて、<教育><経済><生活><就労>の分野での支援となっています。

●教育支援
・スクールソーシャルワーカーやスクールカウンセラーの配置
・各教育段階における教育費負担の軽減
・塾などの学習支援の推進

●経済支援
・貸付金等の父子家庭への拡大
・養育費の確保に関する支援

2016年度予算では、低所得のひとり親世帯に給付される児童扶養手当が36年ぶりに拡充される予定だ。第2子への給付は月額5千円と子どもの食費も賄えない額だったが、16年度からは最大で1万円に、第3子以降は3千円から最大6千円に引き上げられることが決定した。

出典: www.nikkei.com

●生活支援
・保護者、子どもの生活支援
・関係機関が連携した支援体制の整備

●保護者に対する就労の支援
・ひとり親家庭の親への就労支援
・ひとり親家庭の親の学びなおしの支援
・ひとり親家庭の在宅就業支援

参照元:政府(2016年3月時点、著者調べ)

生活困窮者自立支援法による「生活困窮世帯の子どもの学習支援」

平成27年4月の生活困窮者自立支援法施行に基づいて、厚生労働省によって「生活困窮者自立支援制度」が創られました。この制度では、生活保護家庭や就学援助受給家庭といった生活困窮家庭に対して、様々な支援メニューを総合的に行うことを自治体に求めています。

その中でも貧困の連鎖を断ち切るために、子どもの学習支援を行うことが組み込まれています。仕組みとしては、自治体が学習支援事業を実施すると、それにかかる費用の2分の1を国が補助するようになっています。

この制度で特に力を入れているのは、高校を卒業することです。生活保護を受給する世帯の子どもの高校進学率の向上と、中退の防止を目指して、各自治体でへ教育支援をスタートさせています。

無料塾などの学習支援により、学力は向上することが期待されます。しかし一方で、学習塾で勉強するだけの支援では不十分という声もあがっています。勉強により「学力」が向上して進学できたとしても、その後も塾で懇切丁寧に教えられなければ勉強できないのであれば、継続的な効果は見込めません。高校に進学してから、または卒業してからのその先を見越して、「自力で学ぶ力」を養えなければ、長い目で見て貧困の連鎖を食い止めるには、あまり効果がない場合もあるのかもしれません。

参照元:厚生労働省(2016年3月時点、著者調べ)

困っていることがあるなら相談を

もし、いまご家庭で貧困に悩んでいるならば、さまざまな支援がありますので相談してみましょう。政府や自治体でも支援を推進んしていますし、民間団体でも各方面で取り組みがあります。

厚生労働省(2016年3月時点、著者調べ)

参照元:NPO法人 キッズドア(2016年3月時点、著者調べ)

参照元:認定NPO法人 Teach For Japan(2016年3月時点、著者調べ)

参照元:厚生労働省(2016年3月時点、著者調べ)

参照元:厚生労働省(2016年3月時点、著者調べ)

日本の子ども貧困率は先進国でもかなり高く、2012年の調べでは16.3%と実に6人に1人の子供が貧困状態にあり、特に一人親世帯の貧困率は54%以上を占めているそうです。お腹を空かせてティッシュペーパーを口にしたり、野草を食べたりして飢えを凌ぐ子供も…。貧困世帯の人も、支援したい人も何かできることはないか考えてみました。

最後に

貧しい子どもたちや、生活保護で生計を立てざるを得ない人々がいることは、社会的な課題です。現代社会ではどうしても、お金がないとできないことが多く存在しています。「やりたいことがあるのに経済的な問題から叶わない」という状態は、何らかの形で解消していく必要があると思いますし、生きるのにも困難な状況であれば援助を受ける必要があります。

ただ、お金があることが幸せに直結する、とも限りません。お金によって豊かになる人もいれば、反対に心が貧しくなる人もいます。お金があってできることもあれば、反対にできなくなることもあるでしょう。大切なのは、お金があったとしてもなかったとしても、豊かな心や人間関係を育んでいくことなのかもしれません。

「幸せにお金って関係あるのだろうか?」この問題について、現代の生活環境から考えてみました。さぁあなたはどう感じますか?

関連するまとめ

こんなまとめも人気です♪

「あ、お金おろすの忘れてた!」でも安心。即時&手数料安くで引出せる銀行まとめ

「あ、お金おろすの忘れてた!」でも安心。即時&手数料安くで引出せる銀行まとめ

金1gの価値は?お金豆知識|10万円金貨大量偽造事件から考えてみた

金1gの価値は?お金豆知識|10万円金貨大量偽造事件から考えてみた

お金の単位、全部言える?意外と知らない|お金の豆知識|

お金の単位、全部言える?意外と知らない|お金の豆知識|

あなたに合った方法を見つけよう!金の増やし方に成功した体験談

あなたに合った方法を見つけよう!金の増やし方に成功した体験談

破れたお金はどうする?知っておくと便利!紙幣が破れた時の3つの交換基準

破れたお金はどうする?知っておくと便利!紙幣が破れた時の3つの交換基準

キーワードからまとめを探す

このまとめのキュレーター

カテゴリ一覧

内容について連絡する

運営会社 | UpInについて | お問い合わせ | プライバシーポリシー | ご利用上の注意 | 会員規約

UpIn[アップイン] | くらしのお金をデザインする