愛媛県伊方(いかた)町の四国電力伊方原発3号機がきのう再稼働した。新規制基準のもとでは、九州電力川内(せんだい)1、2号機(鹿児島県)と関西電力高浜3、4号機(福井県)の計4基に続く。

 高浜は大津地裁の仮処分で停止しており、プルトニウム・ウラン混合酸化物(MOX)燃料を使うプルサーマル発電としては、唯一の稼働となる。

 しかし川内や高浜で指摘された多くの課題は伊方でも積み残されたままだ。再稼働は見切り発車であり、賛同できない。

 伊方で特に問題視されるのは、万一の際に周辺住民がスムーズに避難できるかだ。

 伊方原発は東西40キロ、最大幅6キロ程度の細長い佐田岬(さだみさき)半島の付け根にあり、原発の西に約5千人が暮らす。原発のそばを経て内陸部へ通じる国道が命綱だ。周辺自治体と国がまとめた避難計画では、国道が通れなければ半島の港から主に船舶で避難することになっている。

 だが、多くの集落は海ぎわの傾斜地にあり、土砂災害で孤立する恐れがある。伊方町内には放射線防護対策を施した施設が7カ所あるが、うち4カ所は土砂災害警戒区域にある。

 町民の4割超は65歳以上だ。町は地区ごとに避難支援態勢を練っているが、町民からは「複数の災害が重なれば、どうしようもない」との声が聞かれる。

 原発から5~30キロ圏の住民は自宅や公共施設への屋内退避が原則だ。だが2回の震度7で建物に大きな被害が出た熊本地震が、複合災害の脅威を突き付けた。愛媛県も南海トラフ地震などで強い揺れが予想されるが、防災拠点となる公共施設の耐震化率は全国ワースト3だ。

 避難計画は原発の単独事故が主な想定だ。地震や土砂災害の同時発生もより深く考慮し、それでも住民の安全を守れるかを検証するのは最低限の責務だ。

 先月就任した三反園訓(みたぞのさとし)・鹿児島県知事は、熊本地震後の県民の不安に応えるとして、九電に川内原発の運転停止を求める意向だ。新たな懸念材料が出ているのに、四電が再稼働に踏み切ったのは残念だ。

 使用済み核燃料も問題だ。3号機に加え、2号機も動かせば燃料プールは6~7年で満杯になるが、新貯蔵施設の建設はめどが立たない。使用済みMOX燃料は再処理のあてもない。

 電力需給は今夏も余裕がある。四電は年250億円の収益増を見込むが、いま再稼働する理由としての説得力は乏しい。

 電力会社や国、自治体は、課題にほおかむりしたままの原発再稼働はもうやめるべきだ。