出雲大社でお家騒動 まさか!の分社の「独立宣言」
2015.07.13
きっかけは永谷園の広告
〈結局、我ら一線で布教活動をする者たちの訴えは通じませんでした。その上、我らに対する処罰が噂されるところとなり、出雲大社傘下では身の置きどころがなくなったのです。このため、我らは出雲大社から芽を出した苗木として育っていこうと離脱宣言をしたのです〉
日本で天皇家についで長い歴史を持つという出雲大社。その分社が突然「独立」を宣言するお家騒動が起きている。
騒動の当事者である常陸教会(現・常陸国出雲大社)のHPに掲載された『我ら立てり』という記事によると、常陸教会は出雲大社の布教活動を行う「出雲大社教」から離脱し、’14年9月に「常陸国出雲大社」という独立した宗教法人として生まれ変わった。
きっかけはお茶漬けで有名な永谷園が、’13年9月に創業60周年を記念して行った「ご縁があるねキャンペーン」の新聞広告(上写真)だった。抽選で3000名に18金ネックレスが当たるというのが売りだが、それが常陸教会が「祈祷」を施した特別なネックレスだというのだ。広告には「出雲大社常陸教会」と大きくロゴも入っていた。
これに出雲大社が嚙みついた。「『出雲大社』の名が企業宣伝に利用されている」が、こうした活動は「神社本庁」の通達に違反していると常陸教会に猛抗議。広告のストップと、景品を祈禱することをやめるよう要求した。
これに対し、常陸教会が真っ向から反論した。常陸教会は、神社本庁とは別個の宗教法人である出雲大社教の系列組織なのだから、「神社本庁の教えや通達を遵守すべき立場」にはないうえ、ネックレスの祈禱は「通例のご祈祷料をいただいているのみで、神社本庁が通達で詮索なされるような企業活動によって収入を得たということも全くない」とした。
こうした論争の末、’14年3月に出雲大社の宮司・千家尊祐(せんげたかまさ)氏が「遺憾の意」を表明するまでに至った。
さらに、従わないなら「出雲大社」という名称の使用を認めないと宣告。ついに常陸教会が’14年6月に独立を宣言した。
出雲大社側は、「出雲大社」という名称の使用は禁止、また常陸教会に貸し渡していた「霊璽(れいじ)」(分霊)も返還せよという内容証明を送っているが、常陸側は拒絶し、いまに至っている。
「両者の関係は冷え切っています。昨年10月に催された高円宮家の二女・典子(のりこ)さま(26)と出雲大社の権宮司・千家国麿さん(41)の結婚式にも、常陸の関係者は一人も呼ばれませんでした。出雲大社側は、訴訟を検討しているそうです」(出雲大社関係者)
そもそもどちらからのアイデアだったのか。永谷園は本誌の取材にこう応えた。
「縁結びの神様として名高い出雲大社常陸教会様にご祈禱いただくことは、本キャンペーンのテーマである『ご縁』にぴったりだと考え、弊社からお願いしたところ、趣旨にご賛同をいただきました」
宗教行為か、カネ儲けか
ここまで話がこじれてしまった背景を、常陸国出雲大社関係者が解説する。
「常陸教会は、『出雲大社』という名前の入ったお守りなどを出雲大社から仕入れるよう指示されていました。常陸教会はこのシステムに不満をもっていた」
常陸国出雲大社は本誌の取材にこう応える。
「永谷園殿の御祈禱料は、通常の会社祈禱でいただく祈禱料と同じです。それ以外に受けとった金銭、物品などはございません。神社本庁から『やめよ』と言われて沈黙することは、布教の息の根を止められるに等しいのです。当社は今回末端神社の代表として、本庁に対しものを申したつもりです。(出雲大社の名称使用取り止め及び分霊の返還は)いまのところ司法の問題とはなっておりません」
ただし、訴えられれば「堂々と争いたい」と自社HPで宣言している。
対する出雲大社の主張はこうだ。
「出雲大社教との包括関係廃止により、旧常陸教会は出雲大社教の『教会』(支社)ではなくなり、出雲大社教とは何ら関係のない宗教団体になったものと認識しています。また現在霊璽は返還されていません。なお返還に関して提訴しているという事実はありません」
両者の言い分は平行線だが、宗教に詳しいライターの藤倉善郎氏はこう見る。
「もともと宗教法人の活動は、宗教行為と商業活動(収益事業)の判別が難しい面がある。祈禱は宗教行為なので非課税ですが、今回は『祈禱』名目であっても企業広告とのタイアップ絡みに思えます。この類の収入も非課税でいいのかと、宗教法人への税制優遇を見直す議論の火種になる可能性もあります」
どちらの主張に分があるかはさておき、出雲大社に祀られた大国主大神の嘆息が聞こえてくるようだ。
PHOTO:読売新聞/アフロ 時事通信社