東京新聞のニュースサイトです。ナビゲーションリンクをとばして、ページの本文へ移動します。

トップ > 社説・コラム > 社説一覧 > 記事

ここから本文

【社説】

伊方原発再稼働 住民は誰が守るのか

 四国電力伊方原発の再稼働に、住民は特に不安を募らせる。そのわけは周辺を歩いてみれば、すぐ分かる。それはあってはならない場所にある。

 日本で一番再稼働させてはいけない原発の一つ−。伊方原発をそう呼ぶ人は少なくない。

 その根拠は特殊な立地にある。

 伊方原発は、日本一細長い愛媛県の佐田岬半島の付け根のあたり、瀬戸内海に面したミカン畑のふもとに立つ。

 原発の西には四十の集落が、急な斜面に張り付くように点在し、約五千人が住んでいる。小さな急坂と石段の町である。

 四国最西端の岬の向こうは、豊予海峡を挟んで九州、大分県だ。

 八キロ北を半島とほぼ平行に、中央構造線が走っている。最大級の断層帯だ。発生が心配される南海トラフ巨大地震の想定震源域にも近い。

 「日本三大地滑り地質」とも呼ばれ、「急傾斜地崩壊危険箇所」などの標識が目立つ。二〇〇五年には、半島唯一の国道197号の旧名取トンネルで地滑りの兆候が見つかり、崩落の危険があるとして廃止されたこともある。

 このような土地柄で、巨大地震と原発の複合災害が起きたらどうなるか。専門家であろうがなかろうが、想像には難くない。

 大小の道路は寸断され、トンネルは崩落し、斜面の家は土砂崩れにのみ込まれ…。

 それに近い光景が四月の熊本地震で展開された。その震源とは中央構造線でつながっているらしい。住民の不安は増した。

 四国電力が五月から六月にかけて実施した半島の“お客さま”への調査でも、「地震・津波への不安」を訴える人が増えている。

 たとえ国道が無事だとしても、西側の住民は、原発の前を通って東へ向かうことになる。

◆造ってはならないもの

 県と愛媛県バス協会が交わした覚書では、運転手の被ばく線量が一ミリシーベルトを上回ると予測されれば、バスは動かせない。

 海路はどうか。港湾施設が津波の被害を受けたらどうなるか。放射能を運ぶ海陸風から、船舶は逃げ切れるだろうか。

 県は先月、広域避難計画を修正し、陸路も海路も使えないケースを明示した。要は屋内退避である。避難所には、学校や集会所などの既存施設が充てられる。

 コンクリートの建物で、耐震は施されているものの、傾斜地に暮らすお年寄りたちが、そこまでたどり着けない恐れは強い。

 「半島の多くの住民が、逃げ場がないという不安を感じ、生命の危険を押し殺しているはずだ」

 「伊方原発をとめる会」事務局次長の和田宰さんは言う。

 そもそも伊方原発は、住民の安全が第一ならば、建ててはいけないところに建っているとはいえないか。

 原子力規制委員会は、避難については審査しないし、かかわらない。誰が住民を守るのか。

 やはり伊方原発は、動かすべきではないというよりも、動かしてはいけない原発なのである。

 大規模な避難訓練が必要になるような原発は、初めから造ってはならないものなのだ。

 伊方原発だけではない。3・11の教訓を無駄にしないため、文字通り原発を規制するために生まれた規制委が、その機能を果たしていない。

 規制委は今月初め、始動から四十年の法定寿命が近づいた関西電力美浜原発3号機の運転延長を了承した。同じ関電高浜原発の1、2号機に続いてすでに三基目。延命はもはや例外ではないらしい。

 政府の原発活用路線に沿うように延命の審査を急ぐ規制委は、独立した審査機関とも言い難い。

 「コストさえかければ、四十年を超えて運転できる」と明言する姿勢には驚かされた。

◆危機感が薄れる中で

 熊本地震を経験し、この国の誰もが地震の揺れに敏感になっている。それなのに、地震の専門家である前委員長代理の「地震の揺れは過小評価されている」という重い指摘も規制委は顧みない。

 住民の暮らしは、命は、誰が守るのか−。

 日本一危険とされる再稼働に際し、特に自治体や規制委にあらためて問いかけたい。

 最低限、避難の有効性がしかるべき機関に保証されない限り、原発は動かすべきではない。

 

この記事を印刷する

PR情報