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タイ連続爆発、軍政の体面に傷 国民投票直後、テロか

2016/8/13 0:54
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 【バンコク=小谷洋司】軍事政権下のタイを連続爆発事件が襲った。11日午後から12日午前にかけて中部や南部の5県で断続的に起きた爆発で少なくとも4人が死亡、34人が負傷した。代表的な観光地が標的となり、外国人も死傷した。タイでは7日の国民投票で軍の影響力を残す新憲法草案が承認されたばかり。それに批判的な反軍政勢力による広域テロの可能性もあり、治安維持が最優先だとして強権を振るってきた軍政は体面を傷つけられた。

 王室の保養地として有名な中部の観光地フアヒンの繁華街で短時間に2度の爆発が起きたのは11日夜。捜査当局によると植木鉢に仕掛けた爆弾が携帯電話の遠隔操作で爆発した。フアヒンでは12日朝にも再び2度の爆発が発生。計4度の爆発でオランダ人女性ら2人が犠牲になった。

 12日朝は南部のプーケット県やスラタニ県でも相次ぎ爆発が起きた。11日午後にトラン県で起きていた小規模な爆発から数えると、爆発は約18時間で少なくとも9カ所・10回に及んだ。死傷者は外国人10人以上を含む計40人近くに上った。

 7日に国民投票が行われた新憲法草案は民主主義の後退につながる内容だったものの、6割超の賛成多数で承認された。2014年5月のクーデター以降の政情安定を多くの国民が支持したとみられる。その直後に起きた連続爆発は、軍政の威信を失墜させる意図がうかがえる。12日はシリキット王妃の84歳の誕生日。王室護持を訴える軍政にとって手痛い失態だ。

 12日夜時点で犯行声明は出ていない。当局は事件に関与した疑いでタイ人2人の身柄を拘束したが背景は不明。広域を舞台に計画的とみられる今回の連続爆発は、背後に大がかりな犯行グループの存在をうかがわせる。

 タイには対立の火種がいくつもある。一つはタクシン元首相派と反対派の政治対立。10年にはバンコクでタクシン派のデモ隊を治安部隊が強制排除し、90人超の死者が出た。先の国民投票でもタクシン派は軍主導の憲法草案に反発していた。

 12日午後に記者会見したタイ警察のチャクテップ長官は「(爆発は)先の国民投票で賛成に回った地域で起きた」と指摘。同日夜にテレビ演説したプラユット暫定首相は「タイ社会に邪悪な者がいることを示す」と国内犯の犯行とみていることを示唆。国民に冷静な対応と連帯を呼びかけた。

 宗教対立も根深い。仏教国のタイだが、イスラム教徒が多い最南部では分離・独立をめざす武装勢力のテロが頻発してきた。実際、最南部3県は国民投票でそろって憲法草案に反対し、反軍政色が浮き彫りになった。

 当局は過激派組織「イスラム国」(IS)の関与を早々に否定したが、国際的な組織が背後にいる可能性は無視できない。1年前の15年8月にはバンコクの繁華街で大規模な爆弾テロが起き、外国人観光客を含む20人が死亡した。中国・新疆ウイグル自治区から逃れてきたトルコ系イスラム教徒ウイグル族の強制送還に反発したテロとの見方が有力で、タイとトルコを結ぶ10人以上の人的ネットワークも浮上した。

 ただし軍政はウイグル族とみられる2人の男を逮捕しただけで捜査終結を宣言。強制送還という判断が問題視されることを避けるため、幕引きを優先させたとみられる。

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