ここから本文です

<大阪女児焼死無罪>16年半後に日誌を開示

毎日新聞 8月10日(水)22時24分配信

 大阪・東住吉の女児焼死火災を巡る10日の無罪判決。再審判決は大阪府警などの捜査を非難する一方、裁判所による誤判の原因には触れなかった。裁判所は2人を無期懲役とした確定審の段階で、なぜ早く捜査の矛盾点を見抜けなかったのか。主な争点になった「自白」と「出火原因」をキーワードにたどった。

 ◇存在答えず

 再審判決は2人に関する府警の取り調べ日誌について、自白の任意性を判断する重要な証拠と位置づけた。

 「真実は一つ。いくらメッキをしても鉄は鉄。金にならんのや」

 青木さんの日誌には、取調官が何度も大声で迫る様子が記されていた。西野裁判長は朴さんの内容にも触れ、「心理的強制や誘導による取り調べがちゅうちょなく行われた」などと指弾した。

 弁護団は確定審の段階から取り調べ状況が分かる書類の開示を求めたが、検察側は長年、日誌の存在を明確に答えず、裁判所も開示を促さなかった。

 日誌の存在は2012年6月、弁護団の求めに応じた大阪高裁の勧告で初めて明らかになった。青木さんらの裁判開始から16年半が経過していた。

 ◇内容不足の実験

 府警は朴さんを逮捕した直後、約7リットルのガソリンをまき火を付けたという「自白」の確認実験を行った。だが、実験では詳細な現場は再現されず、ガソリンも少なめにまかれた。それでも、建物はすぐ火の海になった。

 「朴さんが無傷で外に脱出できるはずがない」。実験結果を見た弁護団は自白内容の不審点を訴えていた。

 01年4月、大阪高裁で開かれた朴さんの控訴審公判。裁判長は「自白内容と火災の初期状況とは相当程度の開きがある」と指摘、検察側に説明を求めた。

 弁護団は、この段階で自白と捜査の矛盾点を見抜けたはずだと指摘する。警察がこの直後にした再実験も、最初の確認実験と同じ結果が出たが、高裁は判決で「(そもそも)忠実な再現実験は不可能」と判断。朴さんらの訴えは見過ごされた。

 再審請求後の11年5月、弁護団は現場を忠実に再現した独自の燃焼実験を実施。約7リットルのガソリンをまき終える前に建物は猛火に包まれ、自白との矛盾の証明にかかった時間は「20秒」だった。

 弁護団の青砥洋司弁護士は「裁判所はもっと早く捜査の矛盾点を洗い出せた。捜査機関の証拠に寄りかかり過ぎた責任は大きい」と批判した。【向畑泰司、三上健太郎】

 ◇英米は第三者が検証

 将来の誤判を防ぐため、どんな対策が必要か。冤罪研究が専門の成城大の指宿(いぶすき)信教授は「第三者が誤判を徹底検証する機関の創設が、日本にも必要だ」と指摘する。

 指宿教授によると、陪審制を導入するカナダや英米では、誤判に対して裁判官や検事、遺族らがメンバーに入った独立した調査委員会があり、公に検証を行うシステムが確立している。結果をもとに、証拠の全面開示など誤判を防ぐ制度改革が実現している。指宿教授は「それと比べ、日本は冤罪から教訓を学び取る意識が欠けている」と警鐘を鳴らす。

 今回の女児焼死火災で、2人が無期懲役となった確定審に関わった元裁判官も「将来の刑事司法のために誤判の検証は必要だ」と話すが、裁判所が検証作業に乗り出す動きは今のところない。

 こうした中、日本弁護士連合会は2011年1月、警察や検察、裁判官を調査する第三者機関の設置を政府などに要望。日弁連の特別部会は原発事故を巡る国会事故調査委員会をモデルに、国政調査権を持たせた機関を国会に創設する要綱案をまとめた。

最終更新:8月10日(水)22時24分

毎日新聞

蛯名健一の魔法の体
蛯名健一は人間の骨格からくる制約を超え、常人ではなし得ない体の動きを紡ぎ出す。ブレイクダンスとヒップホップダンスにパントマイムの要素を合わせた、精緻かつ流れるような魔法の体をご堪能あれ。