<いがらし・くにあき>
群馬県生まれ。群馬高専で電気工学を学んだ後、北海道大学に進学し応用物理学を専攻。社会人となってからはプログラマ一筋にキャリアを重ね、新聞社向け画像管理、SONY製品のプログラム開発などに従事、次第にRubyに特化した開発を手がける。2012年から2年間一橋大学にて非常勤講師でRubyとRailsを教える。2013年(株)spice lifeに入社し現在に至る。
■PC-98に興味を持った少年時代。Rubyとの出会い
Q.技術との出会いはいつ頃だったのでしょう。
A.父親が持っていたPC-98に初めて触れたのが小学生の頃でした。BASICでプログラムが書けたので、雑誌にのっていた手本を打ち、動作を確認するような遊びごとを中学生の頃まで行っていましたね。ただ自分でプログラムを書くようなことはしませんでした。進学した群馬高専では電気工学を学び、大学では物理学を専攻していましたから、本格的にプログラムを学んだのは社会人になってからです。
Q. 新聞社の画像を管理するプログラム開発をされていたと聞いています。
A.ええ。ただ、プログラミング半分、残りの半分は顧客先をまわり、プログラムをインストールするといったSE的な仕事もしていました。先輩はいろいろと教えてくれましたし、他のメンバーにも恵まれていましたが、次第にプログラミングに集中したいと思うようになったんです。また、この頃から趣味の範疇ですが、Rubyに興味を持つようになっていきました。
Q.それで、ソニーのグループ会社に転職されたと。
A.先の会社も含め、仕事で使う言語はC/C++がメーンでした。当初は動画を編集するライブラリなどを担当していましたが、仕事で使うプログラムをテストするためのプログラムをRubyで書くなど、徐々にRubyの存在が自分の中で大きくなっていきました。
Q.Rubyを使うようになったきっかけは何だったのでしょう?
A.tDiaryというRubyで書かれた日記を書くシステムがあり、一ユーザーとして使っていました。そのうちRubyのコミュニティや会議に参加するようになると、集まっている人たちの雰囲気がとても心地よくて。「こんな人たちが大勢いる職場で働きたい」と思うようになったんです。汎用的な知識も身につけたいと考え、Ruby、Ruby on Railsに特化した開発を行っている(株)万葉に移りました。先のソニーのグループ会社も万葉さんも働きやすい会社でしたが、受託ではなく自主サービスを手がけたいと思い、2013年に今の会社に転職します。

■クリエイティブなTシャツを手軽に制作
Q.現在手がけている事業についてお聞かせください。
A.Tシャツに関するサービスを行っています。1つ目はオリジナルTシャツが手軽に作れる「TMIX」。もう1つは作ったTシャツを販売する方向けの「STEERS」で、この2つが当社のメーン事業になります。そのほか、ニューヨークのベンチャーと一緒にやっている「DCF」というサービスもあります。こちらは世界で活躍する現代アーティストの作品をTシャツにデザインできるというサービスで、日米両国で展開しています。
Q.事業のテーマというか方向性のようなものはあるのですか。
A.共通しているのは「カスタマイズ」できることです。カスタマイズを通して、お客様の人生にちょっとしたスパイスを与えたい――。それが私たち、スパイスライフの目指すものであり使命だと考えていま
Q.技術的な開発環境はいかがでしょう。
A.Ruby on Railsが基本で、JavaScriptのライブラリは最近React.jsを導入しました。AWS(Amazon Web Services)にサーバーを置き、BigQueryにログデータなどを保存するようにしています。BigQueryはSQL的な言語で取り出せるので、フロントエンドに見える化ツールのRe:dashを使いグラフ化しています。当社にはエンジニア以外にもSQLを扱えるメンバーが多いので、このような環境整備により、日々の売上などを多くの社員で共有・確認できています。
Q.技術の選定は五十嵐さんがされているのですか。
A.いえ、メンバーに任せています。あがってきたものを確認し、問題がなければそのまま認める、という流れです。私はRubyには強いですが、JavaScriptに関してははるかに詳しい者がいますし、これは他の言語でも同じです。メンバーの中で詳しいエンジニアを中心に議論を重ね、まとまった技術を採用するというスタンスです。
Q.現場のエンジニアに任せているとモチベーションは上がるでしょうね。
A.エンジニアのモチベーションが上がると生産性も上がるので、その部分にはとても気を使っています。ただ導入コストや工数があまりにかかる場合には悩みますが……。私自身新しいものが好きですし、仕上がりから考えれば全部採用したいのが本音です。ただCTOとして経営的な立場からも判断するようにしています。

■自分より優秀なエンジニアを採用する
Q.技術的な面以外でのCTOとしての役割や活動をお聞かせください。
A.入社したときは私を含め2人のエンジニアしかいなかったので、特に1年目はエンジニアを増やすための採用活動に力を入れていました。
Q.ベンチャーにとって採用は特に悩みの種だと思います。うまくいったのですか。
A.普段から参加しているコミュニティで直接エンジニアと会い、タイミングがあった方を採用するという手法をとりました。たとえば、Rubyのカンファレンスで素晴らしい発表をしていた方と挨拶した際に次の職を探していることを知ったことがありました。その後もいろいろと話しをして、ラッキーなことに当社に入社してもらうことができました。このような活動を1年ほど続けた結果、かなりの人材が集まりました。やはり直接会って話すと、その人のバックグラウンドやエンジニアとしての能力がつかみやすいですからね。最近入社したメンバーに関しても、まずはバイトとして一緒に働いてもらってから、採用の判断をするようにしています。
Q.コミュニティはRuby以外にも参加されるのですか。
A.PythonやRubyなど他の技術と横断するJavaScriptのNode学園などにも行きますがRubyの集まりがほとんどです。ただ当社に入るエンジニアは、あくまでRubyは趣味でやっていたという人が半数で、入社後に仕事になるという感じです。採用時に意識していることは、自分より優秀な人材を迎え入れることです。
Q.CTOの技術力が一番ではなくてもよいと?
A.ええ。今では先のJavaScriptも含め、インフラやほかの面でも私より詳しいメンバーがいます。そのような優秀なメンバーの判断を聞くこと。その機会を繰り返していくのが、開発という仕事ではないでしょうか。

■自由な場所で仕事ができるリモートライフ制度
Q.マネジメントも含め、CTOとして意識されていることを引き続きお聞かせください。
A.エンジニア一人ひとりの能力がしっかりと発揮できる環境づくりがCTOの仕事だと思っています。「大きいディスプレイがほしい」「椅子をより良いものに変えたい」といった要望があれば、応えています。リモート、オンサイトどちらの方が能力を発揮できるかも、それぞれのエンジニアに考えてもらっています。
Q.こうしてお話をお聞きしていると、ベンチャーマインドに溢れ、自由度の高い組織だと感じます。五十嵐さんがそのような考えに至った経緯やきっかけはあるのですか。
A.当社に入ってから、もっと言えば受託開発から自社サービスに移ったことがきっかけだと思っています。受託開発はゴールが見えているというか、作るものがある程度決まっているので、開発スピードが早いんです。一方、自社サービス、特にWebサービはスピード感の早さは同じですが、結果が読めません。自信を持って発表したコンテンツが当たらないことも当然あります。MVPみたいな一番小さいものを作って、素早く失敗して、次の手を打つ、みたいな開発スキームです。このあたりの細かいPDCAをどんどん回すイメージで、仕事を進めています。自社開発の魅力は受託開発に比べ自由度が高く、工夫できるところがたくさんあることです。というより、こういった工夫をしないと生き残れません。でもやっていて楽しいですし、できること、効果のあったことは全部やろうと思っています。
Q.リーンスタートアップを意識されているわけですね。
A.受託、自社開発どちらでも技術は重要な要素です。ただ自社開発に関しては技術以外の不確実性要素が多く、そこをどうマネジメントするかがポイントです。エンジニアはただプログラムを書けばいいわけではありません。それ以外の部分をマネジメントするのが自社開発会社CTOの仕事だと思っています。
Q.挑戦もかなりされてきたのでしょうね。中でも「リモートライフ制度」は社外からの反響も大きかったと聞いています。
A.リモートライフ制度は、最大期間1カ月、費用の上限が10万円で、自分の好きな場所で働ける制度です。沖縄に行ったメンバーが2名、ちょうど今もシアトルに1人行っていて、現地カンファレンスへの参加も絡めて、この制度を利用しています。もとは私が花粉症で、その時期にパフォーマンスが落ちるのが嫌で花粉のない場所で仕事がしたい、というのが出発点でした(笑)。
Q.素晴らしい制度とは思いますが、仕事がきちんとまわるのか不安だと、他社には映るのではないでしょうか。コミュニケーションであったり、CTOの場合はマネジメントとか。
A.当社はふだんからリモートライフまでいかないですが、リモートワークを導入しています。esa、Idobata、Googleハングアウトといった情報共有やチャット系のツールを使い慣れていて、環境面も整っています。裁量労働制でもある。私が不在になるとマネジメントがむずかしいのは確かですが、私のいない分を他のメンバーががんばってくれることが分かり、メンバーの成長につながるという気づきもありました。
