時代の正体〈372〉「改正」の真意 二転三転

自民改憲草案を問う(4)

  • 神奈川新聞|
  • 公開:2016/08/07 10:18 更新:2016/08/11 00:37
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倉持麟太郎弁護士(左)と船田元自民党憲法改正推進本部長代行

倉持麟太郎弁護士(左)と船田元自民党憲法改正推進本部長代行

 自民党の船田元議員と倉持麟太郎弁護士の対談。最終回は、あるべき憲法改正論。そもそもなぜ「改憲」なのか。政府・与党は最新の報告書の中で、武力攻撃や自然災害などについて、現行法の運用で対応できると結論付けている。改憲項目はこれまで二転三転し定まらない。具体的必要性を欠く中、なぜいま改憲なのか-。

 倉持 私の考えでは、国家権力の担当者たちが政策を表現する手法として法律がある。その法律が憲法に抵触する可能性があるというとき、解釈ではどうにかならないかと検討する。それでも無理ならば、憲法改正の議論が必要となる。つまり、法律レベルで問題が片付いている場合、基本的に憲法を改正する必要はないだろう。

 実は、2015年3月に関係副大臣会合があり、その中で「政府の危機管理組織の在り方について」という最終報告書が出されました。緊急事態について▽武力攻撃事態等(戦争)▽新型インフルエンザ等(世界的大流行)▽自然災害(地震など)▽原子力災害-の四つについて対応を網羅的に書いている文書で、これが現状、政府の最新の報告書となっている。

 3~4月ごろ、安倍晋三首相、中谷元防衛相、河野太郎防災担当相の3人が言及しています。「15年の副大臣会合での最終報告書以上のことをアップデートする必要はありますか」との質問に対し、3人は「全て運用と各関係機関の連携で対応できる」「いま既存の法律を変える必要は一切ない」と答えました。

 つまり法律レベルで全部対応できるわけです。

 自分たちで現行法の運用で対応できると言っておきながら、緊急事態への備えのために改憲が必要だと繰り返すのは、もはや「憲法改正」が自己目的化してしまっているのではないか、と感じてしまう。まっとうな改憲議論をすっ飛ばし、「1文字、変えようぜ」ということになりかねない。

「私は少数派」


 船田 いま衆参で3分の2を取っていて、確かに「追い風」ではあるが、しかし「神風」ではない。改憲ありきで進めてはいけないと思っています。また「改憲勢力」の中には、改憲に慎重な姿勢の公明党もいます。仮に公明が賛成し、あるいは、おおさか維新の会も加わり3分の2を超えたとしても、野党第1党である民進党とはしっかり議論する必要がある。

 倉持 民進党が「イヤイヤ」政党になっています。「議論に乗らない」となったとき何か策はありますか。

 船田 秘策はございません。例えば「北風と太陽」の話で言えば太陽でやるしかない。

 倉持 古色蒼然(そうぜん)としたものに対して熱狂的な価値観を持った一部の人たちや、政権の近くにいる人たちが、強い求心力と推進力を持っているように見えます。

 そうした人たちが、とにかく1文字でも変えたいと動いたとき、船田さんのようにこれはまずいと感じてる議員は自民党の中にどれだけいるのでしょうか。

 船田 私は党内議論をオープンにしていきたいと思っている。いかに自民党の中で強硬な勢力が増えたといっても、内部で反対の意見を十分に聞き、議論を尽くすのがわが党の伝統だ。その伝統を盾にとって大いに議論するということを心掛けていきたい。

 450人ほどの自民党議員の中で、私のような考えを持っている人は少数派です。希望的には100人くらいいてほしい。その議員がさまざまな会合の場で、きちんと意見を言えば、皆さんが不安に思っているようなことは回避できる。

 倉持 今後の議論は具体的にどう進められていきますか。

 船田 9月の半ばから始まる臨時国会から、本格的な議論が始まるでしょう。ただ原案を決めるには相当時間がかかる。決して慌ててはいけない。二つくらいの国会を経て原案を煮詰めていきたい。

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