事実知り非核へ 被爆地訪問、世界に促す
長崎は9日、71回目の「原爆の日」を迎え、長崎市の平和公園で平和祈念式典が開かれた。田上富久市長は平和宣言で、核兵器の残虐性を強調し、5月のオバマ米大統領による広島訪問を評価。「原子雲の下で人間に何が起きたのか。事実を知ることこそが、核兵器のない未来を考えるスタートラインだ」と述べ、各国の指導者や市民らに被爆地を訪れるよう促した。
式典には被爆者や遺族、市民ら約6200人が出席。核兵器保有国の米露英仏中を含め、過去2番目に多い53カ国の代表が参列し、原爆投下時刻の午前11時2分、黙とうをささげた。
田上市長は平和宣言で、米軍による原爆投下直後の惨状や、現在も続く放射線による被害に触れ、「核兵器は人間を壊す残酷な兵器」だと繰り返した。その上で、今年始まった、核兵器禁止に向けた法的枠組みについての国連作業部会での議論に参加しようとしない核保有国に対し、議論に参加するよう求めた。
日本政府に対しては「核兵器廃絶を訴えながら、核抑止力に依存する立場をとっている」とし、その姿勢が「矛盾」していると批判。非核兵器地帯の創設などでリーダーシップを発揮することを期待した。
さらに被爆71年を迎え、「被爆者のいない時代」が近付いていると指摘。「戦争や被爆の体験をどう受け継いでいくかが、今、問われている」として、若い世代への継承に力を入れる必要性を強調した。
一方、昨年は「慎重で真摯(しんし)な審議」を求めた安全保障関連法や、憲法改正を巡る動きには直接言及せず、憲法の平和の理念に触れた上で「ふたたび戦争をしないために、平和国家としての道を歩み続けなければならない」と述べるにとどめた。
被爆者代表として「平和への誓い」を読み上げた長崎県被爆者手帳友の会会長の井原東洋一(とよかず)さん(80)は、安保関連法を「憲法に反する」と批判し、廃止を求めた。
式典では、この1年間で死亡が確認された原爆死没者3487人の名前を記した原爆死没者名簿4冊が新たに奉安された。奉安された死没者の総数は17万2230人となった。【加藤小夜】