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Fate/ghost night 作者:KURONE
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最後の願い

「まったく……我ながら情けない限りだ」

無限に広がる荒野にて一人の英霊は項垂れる。自分の分身は聖杯戦争の駒として呼ばれたらしいが、それがまずかった。呼ばれた時代が、自らがその戦争に関わり参加したものだったのだ。

記憶は先程、驚くほど鮮明に思い出すことに成功。アーチャーとして呼ばれた自分との死闘やセイバーとの恋。守護者と契約した後の事。

なぜ忘れていたのかと思えるほど濃厚な人生に、さらに呆れてしまった。そして、守護者としての契約があと一時間ほどで終わるという事も思い出す。
思えば長い時間、ここで過ごし、手を血に染め上げてきた。呼ばれた分身が言った様に、あれが偽善でなければ何というのだろう。
もう一度チャンスがあるならば、あの時代へと戻りやり直したいものだ。ま、無理だろうが。

「英霊の座……。やっとセイバーに会う事が出来るのか」

自分が英霊の座に招かれるのは、決定事項。彼女は今の自分を見て何と言うだろうか? それだけが不安だ。

荒野が消えて光の空間が現れる。
時間が来た様だ。

「守護者よ……君の務めは終わりを告げた。改めて礼を言おう。ありがとう」
「お前が礼を言うなど、驚きだな」
「にしては、冷静なようだが?」
「ほっとけ」

黒い球体は英霊を弄る。昔は堅苦しい関係だったが、長い時間がそれを掻っ攫ってしまった。今では親友と言っていい関係だ。
それも今日で終わりを告げるのだが。

「礼……としては小さなものかもしれないが、一人だけ願いを叶えてやろう。勿論、デメリットなどないぞ? それは親友として保証してやろう」
「本当か、それは?」
「本当だ。君の働きはそれに値する」

黒い球体の言葉に疑いを隠せないが、こんなチャンスは2度とないだろう。最後ぐらい夢を見させてほしい。
英霊は願いを口にした。

「……だったら私をある時代に移し、英霊の座にいるアルトリア・ペンドラゴンと人生を歩ませてほしい。それで終わりにしたい」
「あの娘か……、少し待て」

通信か何かをしているようで、黒い球体は数分程静かになる。

「連絡がついた。彼方も了承しているようだ。でも、良いのか? 英霊の座に行けば永遠に違い時間を過ごせるというのに」
「そうだな。昔はそれを願ってもいたさ。だが、疲れた。英霊の座も安泰とは言いにくいと聞く。だったら、もう終わりにしたいのさ」
「ふむ。我が親友ながらよい情報網だ。聖杯戦争が活発になってな、分身では飽き足らず本体を呼び出す事も多くなっていると聞く。人の業とは深いものよ……」

英霊も聖杯戦争が活発になって来ているとは聞いていたが、まさか本体を呼び出す物がいるとは驚いた。噂では精々、力を奪うくらいだっだのだから。

「よし、ならば守護者の願いなんとしても聞かねばならんな。親友をそれに巻き込みたいとは思わん。では、聞くがどの時代に生きたい」
「出来るなら、私が聖杯戦争に巻き込まれたあの時代に生きたい。未来でもいいが、付いていけそうにないしな」
「納得だ。色々疎いお前が過ごして行けるとは思えん」
「酷いな」

自覚はしていたが、ここまではっきり言われると、ショックを隠せない。
そんな様子に黒い球体が笑ったかと思うと、英霊の身体が光に包まれる。どうやら願いを聞き遂げてくれるようだ。

「仕事が早いな」
「これでもお前の主人だったからな。 しかし、本当にすまなかった。ここまで君を酷使し、一度記憶が消えるまでにしてしまった」
「いいさ。これで学んだ事も沢山あるし、これからに生かそう。偽善などは捨てて、自由に生きるさ」
「だといいがな」
「言ってくれる」

英霊の意識は少しずつ薄くなってゆく。黒い球体は最後まで謝り続けていた。だが、そんな事は求めていない。だから、英霊は消える直前に言う事にした。

「ありがとう」

と。

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