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豪、電力公社の外資売却阻止 「国益に反する」

2016/8/11 20:09
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 【シドニー=高橋香織】オーストラリア政府は11日、国内最大都市シドニーなどで送電を手がける電力公社オースグリッドの外国企業への売却を阻止する予備決定を下した。中国と香港の企業2社が買収を競っていたが「国益に反する」と判断した。豪州の基幹インフラに手を伸ばす中国を巡り、安全保障上の懸念が高まっていることが背景にある。

 モリソン財務相は同日記者会見し、オースグリッドが「企業や政府機関に重要な電力や通信を提供している」と説明。現在の応札企業に対する売却は「国家安全保障上の利益に反する」として認められないと述べた。

 オースグリッドはニューサウスウェールズ州で最大の送電網を持ち、契約数は約160万に上る。同社株を100%保有する州政府は、99年間にわたり50%超の株式を貸与する民営化を計画し、入札を実施。買収額は100億豪ドル(約7800億円)以上と見込まれていた。

 応札企業は非公開だが、現地メディアは中国国有の送電大手、国家電網と香港のインフラ大手、長江基建集団が競り合っていると伝えている。

 モリソン氏は「安全保障上の懸念は特定の国に関するものではない」と強調したが、電力インフラの中国企業への売却には慎重さを求める声が政権内外から上がっていた。中国のサイバー攻撃に利用されるとの懸念に加え、南シナ海での中国の海洋進出への警戒が高まっているためだ。

 豪州は日本や米国と共に中国が南シナ海で進める軍事拠点化を批判している。南シナ海での広範囲な中国の主権主張に根拠がないとした仲裁裁判所の判決を無視すれば「重大な国際法違反となる」(ビショップ外相)と述べ、中国に判決順守を呼び掛けている。一方、反発する中国は豪州批判を強めている。

 ターンブル首相は親中派とみられているが、7月2日の総選挙で予想外の苦戦を強いられ、指導力の低下が否めない。政権運営のためには「中国の植民地になる」などと極端な外資脅威論を掲げる無所属議員の動向も無視できない情勢だった。

 今回の判断は、昨年10月に北部の要衝ダーウィン港を地元政府が中国企業の嵐橋集団に99年間にわたり貸与したことが教訓となっている。当時、地元政府による民営化は、民間企業同士のM&A(合併・買収)で必要となる外国投資審査委員会(FIRB)の審査が不要だった。

 米海兵隊が巡回駐留する同港が中国の手の内に入り「豪軍や米軍の動きが筒抜けになる」と批判が噴出。豪政府は今年3月、地元政府による基幹インフラの売却についてはFIRBの審査対象とするよう制度を改めた。

 昨年末に発効した自由貿易協定(FTA)を追い風に、中国企業は豪州の不動産や農業分野などへ投資攻勢をかけている。豪政府は外資受け入れには積極的な姿勢を維持しつつも、中国に関しては今後も国益との兼ね合いで難しい判断を迫られそうだ。

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