再び世界に衝撃を与える1勝だった。リオデジャネイロ五輪の7人制ラグビーで男子日本がニュージーランドから挙げた金星。英国のメディアには、昨年の15人制ワールドカップ(W杯)で日本が南アフリカを破った一戦と重ねる言葉が並ぶ。「日本はラグビーの神だ」という大げさな表現。「Brave Blossoms」(勇敢な桜たち)という15人制日本代表の愛称にちなんだのだろう。「Brave Bonsais」(勇敢な盆栽たち)なる珍名まで贈られた。
ニュージーランドの立場からすると、過去16戦で全勝していた相手に、最も大事な五輪で敗戦を喫したことになる。「ラグビー王国」の誇りの故か、当地の新聞には、「7人制代表を(ニュージーランド代表の愛称である)オールブラックスと呼ぶのをやめよう」との記事まで出た。
金星の一因がニュージーランドの側にあったのは事実。初の五輪という緊張感からか、動きや状況判断に精彩を欠いた。珍しく落球が多発。ボールを持って無理に外で勝負、タッチラインに押し出されたラストプレーに象徴されるナイーブさものぞかせた。試合中に負傷者が2人も発生。1人が倒れている時間帯に日本に同点トライを奪われる不運もあった。
15人制と比べ、7人制ははるかに番狂わせが多い種目でもある。それでも、気まぐれな勝利の女神の前髪をつかめた最大の要因は、日本の準備のたまものだろう。
「チームでこだわっていることが3つある」と桑水流裕策主将は大会前に話していた。(1)倒れたらすぐに立ち上がること(2)左右の2人と連係しての守備(3)姿勢の低さ――。その全てをピッチで表現できた試合だった。攻守において、日本の選手が地面にはいつくばる時間は短かった。攻撃では、味方がタックルされると、直後に2人目がボールを守る。守備でもタックルしたらすぐ立ち上がり、防御ラインに戻る。
体格、スピードで勝るニュージーランドの選手を日本がタックル1発で百パーセント倒しきるのは不可能。実際、前半5分には3人がかりでタックルに行ったのにボールをつながれ、トライを奪われた。個々で勝負しないための、周囲で囲い込む守備は全体的に機能。失トライ2本というのは、計画通りの数字だった。
タックルや、密集でのサポートプレー時の姿勢の低さも、試合を通じて継続できた。体格に勝るニュージーランドにボールを奪われる回数が少なく、テンポの良い攻撃を続けられたのは、その成果だろう。
桑水流主将が挙げた3点は、昨年のW杯で15人制日本代表が注力していたこととも似ている。日本が世界に勝つための共通の要素ということになるのだろうか。
ただ、日本が奪った2本のトライを見れば、7人制ならではの戦術や選手起用がはまったこともわかる。1本目は、ラインアウトから準備していたサインプレーで決めた。昨年のW杯南ア戦で五郎丸歩が決めたトライを思い起こさせる、連係の妙。
後半の同点トライのシーン。自陣の中央やや左でスクラムを組んだ3人は、それまでと違う顔ぶれだった。フィジー出身のトゥキリ・ロテと副島亀里ララボウラティアナラはこの位置が本職だが、もう1人のレメキ・ロマノラバは本来はバックスの選手。パワーのある3人でスクラムを組んだことで、きれいにボールを確保できた。