2016年8月9日
蝉と踊る八月
お嬢様、おぼっちゃま、ご機嫌麗しゅうございます。新山でございます。
先日、夜の散歩の途中で雄のカブトムシを捕まえました。やはりサイズは小さめですが、東京にも生息してるのだなと、少し嬉しくなりました。
折角出会った縁ですし私の部屋でもてなそうと連れて参りましたが、このカブトムシ、舌が肥えているのかちょっと値の張る黒糖を使った黒蜜でないと口にしません。おのれ虫けら。
黒糖好き、ということで名前は「こくとう執事」と命名。イントネーションはご想像にお任せします。
まあ少しの間、共に夏を過ごそうと存じます。一寸の虫にもほにゃららら。飛んで火に入るなんとやら。なり。
夏と虫、といえば忘れられない思い出がございます。
遠い夏の日に、蝉の声を聞きました。
みんみんじわじわ、いつものやかましいそれではなく、深くてか細い哀しい声です。
私の小学生の頃のあだ名は、「29番」でした。
小学生ですし、あだ名はころころと変わりましたが、悪い意味で一番印象に残っているあだ名です。
私は東京の学校に入学して、その後すぐに転校、四年生まで群馬で過ごし、五年生の夏前に再び東京の同じ学校に転校しました。入学時、戻って来た時、どちらも出席番号は29番。それがそのまま私の呼び名。
入学してから三ヶ月程で転校した私には、東京に戻ってきても再会を喜ぶ友人も居らず、少しの間は肩身の狭い思い。
一ヶ月経つと、トモダチも出来てなんとか一つのグループにひっつくことになりました。文字通りひっつくこと、ですが。
所詮はよそ者。扱いはとても友達、と呼べるものではありませんでした。いわゆる軍団の下っ端要員。使いっぱしり。表面上のトモダチ。
それでもただただ、ひっつくことだけ。
転校で友達を失った私には、一人になることは寂しすぎました。嫌われなければ良い、一人になるよりは全然良いのだと、言い聴かせます。
少し時が流れ、夏休みが終わる頃。小学校だと、夏休みの間にプールの講習があります。プールを終えたその帰り。
ともだちは皆で遊びに行く様子。当然誘いはありません。付いて来られるのも迷惑と、集団で固まってさっさと帰って行きました。
明るいは俺達、暗いはお前。白は俺達、黒はお前だけ。そんな声が聞こえた気がしました。
一人で歩く帰り道。その途中に見つけた、道に転がる蝉の死体。カブトムシと違って別段珍しくもありません。夏ももうじき終わります。
一匹の野良猫が蝉に近づきます。死体でお手玉でもするのでしょうか。
猫が触れると突然、ジジジジ!と蝉が動きました。びっくりしました。まだ息があったようです。
アスファルトを転がって逃げる蝉。追いかける猫。ジグザグに動く不恰好なダンス。
すると、次の瞬間でした。
蝉が車道の真ん中に逃げ、追いかける猫。車のエンジン音。
危ない!と思って間も無く、車が目の前を通りすぎます。
道路には死体が二つ、ではなく蝉だけが残っておりました。
猫はどうやら間一髪逃げられたようです。
ジジ…、と弱々しい蝉の声が途切れました。
きっと偶然です。でもその時、蝉が狙ってやったように思えました。自分だけは嫌だ、と。連れていこうとしたかのように。
車道に横たわる蝉の暗い目が、私が来るのを待っている。その時の私には、そう思えたのです。
怖くなって、慌てて逃げて帰りました。
眠っても眠っても、その時の光景は焼きついて消えません。
そしてまた、プールに行って、帰る日々。あの道は暫く、通ることありませんでした。
「おい、29番。」
夏休みも残り2、3日。いつも通りプールの帰り。トモダチから遊びに誘われました。
時々、気まぐれに遊びに誘われるのですが、行ったところで楽しくはありません。
ゲームの順番はいつまでも来ない、鬼ごっこではいつも鬼、時には待ち合わせ場所に行っても誰もいないこともありました。
でも、誘われたらいつも頷いて付いていくのです。一人はいやだったから。
「行かない。」
はっきりと言いました。
頭の中では、あの光景。恐怖と、あと何か弱々しい強いモノ。
「は?」
まるで外国人にいきなり話しかけられたかのような反応。本当に分からない、といった表情。
「つまんない。友達じゃないトモダチと遊んでも。」
蝉が踊っています。ジグザグに。不恰好に。
「お前…、何いってんの?」
分からない。ただ、一緒に踊ってるだけです。ジグザグに。不恰好に。あとは、死ぬだけ。
こうして一度、全てを失いました。
あとは、また手に入れるだけです。
前を向いて歩き出します。後ろでは、誰か達がボソボソ言っておりましたが、無視です。蝉だけに。いえ、なんでもないです。
あの道を通って帰りました。当然ですが、蝉はもういません。お礼などは言いません。別に勇気を貰った訳でなし。ただ、踊らされて、踊っただけです。
お前の所為だ、と文句の一つでも言いたかったですけれど。
その後、普通に友達もできて楽しい日常を過ごせました。失ったものは大して多くもなかったみたいです。
あのグループは仲違いから勝手に分裂し、その中の数人とは改めて友達になりました。
あと、少し強くなりました。それから、少しお腹が黒くなりました。
あの時に感じたモノの正体は今でも分かりません。元々、そんなものあったのかどうかも。
ただ、感情、衝動、何でも構わないから、何かがあったのだと、私は信じたいです。
でないと、私は一人で強くなったみたいで、何故か寂しさを感じてしまうので。
皆様も夏の終わり、横たわる蝉にはお気を付けくださいませ。
夏が来ると思い出します。
こんな思い出があったような、なかったような。
今日もいい日でありますように。
新山
先日、夜の散歩の途中で雄のカブトムシを捕まえました。やはりサイズは小さめですが、東京にも生息してるのだなと、少し嬉しくなりました。
折角出会った縁ですし私の部屋でもてなそうと連れて参りましたが、このカブトムシ、舌が肥えているのかちょっと値の張る黒糖を使った黒蜜でないと口にしません。おのれ虫けら。
黒糖好き、ということで名前は「こくとう執事」と命名。イントネーションはご想像にお任せします。
まあ少しの間、共に夏を過ごそうと存じます。一寸の虫にもほにゃららら。飛んで火に入るなんとやら。なり。
夏と虫、といえば忘れられない思い出がございます。
遠い夏の日に、蝉の声を聞きました。
みんみんじわじわ、いつものやかましいそれではなく、深くてか細い哀しい声です。
私の小学生の頃のあだ名は、「29番」でした。
小学生ですし、あだ名はころころと変わりましたが、悪い意味で一番印象に残っているあだ名です。
私は東京の学校に入学して、その後すぐに転校、四年生まで群馬で過ごし、五年生の夏前に再び東京の同じ学校に転校しました。入学時、戻って来た時、どちらも出席番号は29番。それがそのまま私の呼び名。
入学してから三ヶ月程で転校した私には、東京に戻ってきても再会を喜ぶ友人も居らず、少しの間は肩身の狭い思い。
一ヶ月経つと、トモダチも出来てなんとか一つのグループにひっつくことになりました。文字通りひっつくこと、ですが。
所詮はよそ者。扱いはとても友達、と呼べるものではありませんでした。いわゆる軍団の下っ端要員。使いっぱしり。表面上のトモダチ。
それでもただただ、ひっつくことだけ。
転校で友達を失った私には、一人になることは寂しすぎました。嫌われなければ良い、一人になるよりは全然良いのだと、言い聴かせます。
少し時が流れ、夏休みが終わる頃。小学校だと、夏休みの間にプールの講習があります。プールを終えたその帰り。
ともだちは皆で遊びに行く様子。当然誘いはありません。付いて来られるのも迷惑と、集団で固まってさっさと帰って行きました。
明るいは俺達、暗いはお前。白は俺達、黒はお前だけ。そんな声が聞こえた気がしました。
一人で歩く帰り道。その途中に見つけた、道に転がる蝉の死体。カブトムシと違って別段珍しくもありません。夏ももうじき終わります。
一匹の野良猫が蝉に近づきます。死体でお手玉でもするのでしょうか。
猫が触れると突然、ジジジジ!と蝉が動きました。びっくりしました。まだ息があったようです。
アスファルトを転がって逃げる蝉。追いかける猫。ジグザグに動く不恰好なダンス。
すると、次の瞬間でした。
蝉が車道の真ん中に逃げ、追いかける猫。車のエンジン音。
危ない!と思って間も無く、車が目の前を通りすぎます。
道路には死体が二つ、ではなく蝉だけが残っておりました。
猫はどうやら間一髪逃げられたようです。
ジジ…、と弱々しい蝉の声が途切れました。
きっと偶然です。でもその時、蝉が狙ってやったように思えました。自分だけは嫌だ、と。連れていこうとしたかのように。
車道に横たわる蝉の暗い目が、私が来るのを待っている。その時の私には、そう思えたのです。
怖くなって、慌てて逃げて帰りました。
眠っても眠っても、その時の光景は焼きついて消えません。
そしてまた、プールに行って、帰る日々。あの道は暫く、通ることありませんでした。
「おい、29番。」
夏休みも残り2、3日。いつも通りプールの帰り。トモダチから遊びに誘われました。
時々、気まぐれに遊びに誘われるのですが、行ったところで楽しくはありません。
ゲームの順番はいつまでも来ない、鬼ごっこではいつも鬼、時には待ち合わせ場所に行っても誰もいないこともありました。
でも、誘われたらいつも頷いて付いていくのです。一人はいやだったから。
「行かない。」
はっきりと言いました。
頭の中では、あの光景。恐怖と、あと何か弱々しい強いモノ。
「は?」
まるで外国人にいきなり話しかけられたかのような反応。本当に分からない、といった表情。
「つまんない。友達じゃないトモダチと遊んでも。」
蝉が踊っています。ジグザグに。不恰好に。
「お前…、何いってんの?」
分からない。ただ、一緒に踊ってるだけです。ジグザグに。不恰好に。あとは、死ぬだけ。
こうして一度、全てを失いました。
あとは、また手に入れるだけです。
前を向いて歩き出します。後ろでは、誰か達がボソボソ言っておりましたが、無視です。蝉だけに。いえ、なんでもないです。
あの道を通って帰りました。当然ですが、蝉はもういません。お礼などは言いません。別に勇気を貰った訳でなし。ただ、踊らされて、踊っただけです。
お前の所為だ、と文句の一つでも言いたかったですけれど。
その後、普通に友達もできて楽しい日常を過ごせました。失ったものは大して多くもなかったみたいです。
あのグループは仲違いから勝手に分裂し、その中の数人とは改めて友達になりました。
あと、少し強くなりました。それから、少しお腹が黒くなりました。
あの時に感じたモノの正体は今でも分かりません。元々、そんなものあったのかどうかも。
ただ、感情、衝動、何でも構わないから、何かがあったのだと、私は信じたいです。
でないと、私は一人で強くなったみたいで、何故か寂しさを感じてしまうので。
皆様も夏の終わり、横たわる蝉にはお気を付けくださいませ。
夏が来ると思い出します。
こんな思い出があったような、なかったような。
今日もいい日でありますように。
新山
Filed under: 新山 — 10:00