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なぜ、出世すると友達が減るのか

プレジデント 8月11日(木)6時15分配信

■昇進することで変化する関係性

 昇進には代償が伴うことがあります。それまで親しくしていた職場仲間が急によそよそしくなる、あるいは足を引っ張ろうとしているのではないかとお互い疑心暗鬼になる、というのは日本でも欧州でも変わりません。

 ではそもそも友情とは何か、どのように友人ができるかという点を考えてみましょう。多くの場合、私たちは何か似たところがある人を選んで友人となります。価値観や道徳観念が似ている、あるいは年齢が近い、同じ性別だとか、共通の趣味がある、といったことですね。

 しかし、一方が昇進すると以前ほどの共通点が見られなくなります。友情は本来対等で、パワーバランスが変われば変化が起きます。価値観が変わるし、収入が違ってくることで生活が変わることもあるでしょう。友情を維持しようとしたら、そういった変化を乗り越えねばなりません。しかし、仕事だけが友情にヒビを入れる原因となるわけではありません。友人の結婚、あるいは子供ができて疎遠になったという経験は誰しもがあるのではないでしょうか。

 もう一つ忘れてならないのは昇進によって、それまでとは違う責任が発生することです。それまで友人だった部下の提案やプランを上司として却下することもあれば、配置転換、あるいはリストラで解雇することすらあるかもしれません。かつてとは違う権力がともなったことで、関係性に変化が生まれ、それまでと同じ友情を維持することが難しくなることもあります。さらに片方が先に階段を上ったことにより競争意識が煽られることもあるでしょうし、取り残された側に嫉妬心が芽生えることも少なくありません。妬まれて嬉しい人はいませんから、上司になった側も、それまで友人だった部下に対して警戒心や不信感を抱くようになります。

■職場の外で友人をつくるメリット

 こうして上司としての役割と、友人としての役割の間に摩擦が生じることになります。残念ながら、常に上司と友人の役割を両立させられるとは限りません。それぞれの役割において求められる振る舞いや言動は違うのです。こうして、お互いに新しい関係性の中で適応することができず、今までの友情にヒビが入って関係が疎遠となっていく例は珍しくありません。

 友情と職場の人間関係を切り離すことは可能なのか、という問いがあります。もちろん不可能ではありませんが、職場で上司と部下という関係になった2人が職場の外で全く別の関係を築くことは困難といわざるをえません。幸いにして私自身は、昇進のために友人を失ったという経験はありません。というのも、私の友人の大部分は全く違う分野にいる人たちばかりだったからです。友情と職場の人間関係が衝突する事態そのものがないわけです。

 職場の外で友人をつくることには数多くのメリットがあります。いつも職場の人たちと一緒にいると、結局一日中いつまでも仕事を引きずることになりますのでストレスが増え、燃え尽き症候群につながることも多いのです。体にもよくありませんし、精神衛生上もいいはずがありません。

 いつも似た地位や職業の人たちとばかり付き合っていたら発展も成長もありません。全く違うライフスタイル、考え方、職業を持つ人たちと付き合うことにより、ものの見方が大きく広がり、お互いに助け合い、ネットワークを広げることが可能になります。結局、女性が男性より昇進において後れをとるのは、この「顔の広さ」で差をつけられているという側面が大きいのではないでしょうか。

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心理学博士 浦上ヤクリン
ドイツ出身。米国へ交換留学、英国でインターンを経験、2002年シェムニッツ工業大学で博士号取得、同大学で准教授。03年来日し、慶應義塾大学および多摩大学で非常勤講師を務める。専攻は心理学・人間工学。
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心理学博士 浦上ヤクリン タカ大丸=構成 小川 聡=撮影

最終更新:8月11日(木)6時15分

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