自白偏重の捜査は許されないことを、警察と検察はあらためて肝に銘じるべきだ。

 大阪市東住吉区で95年、小学6年生の女児が焼死した火災で、殺人罪などで無期懲役が確定後、再審公判に臨んでいた母親の青木恵子さん(52)と、同居していた朴龍晧(たつひろ)さん(50)に、大阪地裁はきのう、無罪を言い渡した。

 注目すべきなのは、有罪の根拠とされた2人の自白を証拠から排除したことだ。

 「最初から犯人扱いし、相当な精神的圧迫を加えた」「取調官による誘導の疑いがある」。地裁は取り調べについてそう指摘した。自白に偏った予断捜査を厳しく戒めたといえよう。

 一方で、判決は誤判の原因には言及しなかった。

 2人は保険金目的で自宅に放火したとされた。しかし裁判のやり直しの過程で、車のガソリン漏れによる自然発火の可能性が高いことが、弁護側の再現実験で明らかになっていた。

 当初の捜査で自然発火の可能性を詰めなかったのはなぜか。自白通りならやけどをしているはずなのに、それがないのを裁判所はなぜ見逃したのか。

 再審開始決定時から指摘されてきたこうした疑問に、判決はこたえていない。裁判所もこの誤判にかかわった当事者であることを忘れてはならない。

 2人とも公判では無実を訴え続けた。しかし一審・大阪地裁は「不合理な弁解を繰り返している」と判断した。以後も有罪は覆らず、2人が自由を奪われた月日は約20年に及ぶ。検察側の直接証拠は自白以外になく、より慎重な吟味が必要だったのではないか。

 大切なのはなぜ捜査当局や司法が誤ったかを明らかにし、共有することだ。ふつうの市民が裁判員になる時代だからこそ、どこに落とし穴があるのか、みんなが知る意義は大きい。

 日本弁護士連合会は、冤罪(えんざい)の原因究明のため、捜査機関や裁判所から独立した第三者機関を国会に置くよう11年に提言している。英米のように州政府や国が調査委員会を設け、再発防止を提言する例も参考になる。

 「裁判の独立」を守る必要があるため、どんな検証方法が適切か、検討すべき課題は多いが、戦後発生し、死刑か無期懲役が確定後に再審で無罪となるのは今回で9件目だ。

 自白偏重を改めるため、今春、取り調べの録音・録画(可視化)を義務付ける法改正がなされた。だが、対象は限定されている。このままで十分か、さらに検討が必要だ。