焼死再審無罪 自白偏重を繰り返すな
大阪市東住吉区で1995年に小学6年女児が焼死した火災の再審で大阪地裁は、殺人罪などで無期懲役が確定した母親と内縁の夫だった男性に無罪判決を出した。検察は上訴権を放棄し無罪が即日確定した。
有罪認定の根拠となった直接証拠は捜査段階での2人の自白だけだった。判決は自白全てに信用性だけでなく任意性も認められないとして証拠能力を否定し、自白偏重の捜査を批判した。冤罪(えんざい)の再発防止のため大阪府警と大阪地検は捜査の問題点を徹底解明すべきだ。
判決は取り調べの過程を丹念に調べ、自白を証拠と認めなかった。男性は首を絞められて恐怖心を抱いたり、母親が自供したという虚偽の事実を告げられるなどの心理的強制を受けたりして虚偽自白した疑いがあると結論付けた。放火の実行方法という核心部分は捜査員が誘導した疑いがあるとも指摘した。母親も大声で追及されるなど過度の精神的圧迫を受けて衰弱し、うその自白をした疑いがあると認定した。警察と検察はまず2人に謝罪すべきだ。
自白を強要する取り調べに歯止めをかけるため、取り調べの録音・録画(可視化)が法的に義務付けられた。裁判員裁判対象事件と検察の独自捜査事件に限っているが、今回の自白の経過を見れば全事件に広げる必要性を強く感じる。
密室の取り調べ内容が公判で明らかになったのは、再審請求の段階で大阪府警の取り調べ日誌が証拠開示されたからだ。通常の刑事裁判は裁判員制度導入に伴い、公判前整理手続きでの証拠開示が進む。しかし再審では「新たな証拠」が必要なのに法制化は見送られ、裁判長の判断に任されている。真相究明のため制度の拡大を検討すべきではないか。
死刑か無期懲役の判決が確定した戦後の事件で再審は9例目で、いずれも無罪が確定した。最近はDNA鑑定が決め手のケースが目立つが、今回は弁護側による燃焼実験だった。自白の通りに放火すれば大やけどをして実行不可能という実験結果が無実の証明につながった。
捜査段階で同様の再現実験をしていれば不当逮捕を防ぐことができたのではないか。自白に頼らず、客観的証拠の積み重ねが重要であると捜査機関は肝に銘じてもらいたい。
判決は誤判の原因に言及しなかったが、うその自白を見逃し続けた裁判所の責任も重い。
公判で2人が無罪主張したのに対し、自白は具体的で信用できると認めた1、2審判決が最高裁で確定した。再審開始を認めた昨年10月の大阪高裁決定で釈放されるまで2人は約20年間自由を奪われた。裁判所も自白偏重を繰り返してはならない。