英通貨ポンドが9日、1カ月ぶりの安値を付けた。英中央銀行イングランド銀行(BOE)の金融政策委員が、追加的な量的緩和が必要かもしれないと示唆したためだ。
ポンドは営業日ベースで19日ぶりに節目となる1ポンド=1.30ドルを割り込み、0.4%安の1.2982ドルを付けた。英国の欧州連合(EU)離脱を決めた国民投票以来、ポンドが1.30ドルを下回ったのは4回しかない。
金融政策委員のマカファーティー氏は9日、英タイムズ紙に寄稿し、英国の景気減速が続けば追加的な量的緩和が必要になりそうで、段階的にではあるが、政策金利が限りなくゼロ%に近づく可能性があるとの見方を示した。
今回の下落でポンドは5日連続安となった。ドルはポンド以外の通貨に対しても上昇した。5日に発表された7月の米雇用統計で、非農業部門の雇用者数が市場予想を大きく上回り、米連邦準備理事会(FRB)の年内の追加利上げシナリオに追い風となったからだ。とはいえ、1.30ドルの節目はポンドにとって大きな意味を持つ。
スイスのユニオン・バンケール・プリべ(UBP)のマクロ経済・為替ストラテジスト、クーン・チャウ氏によると「一般的に、ポンドがある水準を繰り返し割り込み、特に前回の節目となる安値に達すれば、企業の財務担当者は注視する」という。
「ポンドが1.30ドルを割ると、企業が一段安に備えて積極的に為替ヘッジに動くため、ポンドには一段と下落圧力がかかりやすい」
BOEが8月初旬に開いた金融政策委員会では、カーニー総裁を含む9人の委員が政策金利を0.25%引き下げて0.25%とすることを全会一致で支持し、量的緩和も再開した。その後もBOEが一段の利下げと量的緩和策を検討しているような兆候があった。
マカファーティー委員は量的緩和の再開には反対した。9人の委員のなかでもタカ派寄りの1人だとみられている同氏が、今回ハト派色の強い発言をしたことは特別な重みがある。
一方、9日は6月の貿易収支も発表された。125億ポンド(約1兆6500億円)の赤字で、単月の赤字幅としては過去最大だ。
英国の6月の製造業生産高も、前月比減少率は若干縮まったが、減少が続いている。
英国のEU離脱決定による経済的な影響は、これらの6月の数値とともに、年後半に発表される経済統計で確認できるだろう。
ドイツ銀行のドミニク・コンスタム氏は「他の先進国中銀とは違い、BOEがマイナス金利政策をとらないと示唆していることから、恐らく国債の購入枠を増やさざるを得ないだろう」とみる。
他の通貨で目立ったところでは、南アフリカの通貨ランドが、地方選の結果を受け10カ月ぶりの高値を付けた。野党が著しく得票を伸ばしたことが投資家に好感された。
By Michael Hunter, Nathalie Thomas & Mehreen Khan
(2016年8月10日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)
(c) The Financial Times Limited 2016. All Rights Reserved. The Nikkei Inc. is solely responsible for providing this translated content and The Financial Times Limited does not accept any liability for the accuracy or quality of the translation.