第23回 セリフとは、はみ出した「キャラクター世界」である

小池一夫のキャラクターマンPiP!(ピッピ) ~全員集合!~

第23回 セリフとは、はみ出した「キャラクター世界」である

2016年8月10日

小池一夫です。
今日は「セリフ」の話をしましょう。

1. セリフは「読ませてはいけない」

漫画の場合、僕はよく
「字画同一」(じがどういつ)
を心がけなさい、と言っています。

漫画においては、《フキダシ》の中のセリフもまた、《画》であると考えましょう。
それを「字画同一」という言葉で表しています。

これは一体、どういうことでしょうか?

漫画のセリフは「読む」ものではありません。
パッ、パッ、パッとテンポよく、一瞬で画(え)と一緒に「視(み)」て、次のコマに進めていくものです。

一生懸命、一文字ずつ考えながら読まなくてはいけないような《説明セリフ》はダメです。
文字に頼りすぎてはいけない。
できるだけ《画(え)》で表すのです。
セリフで語りすぎず、目に見える視覚情報《画(え)》で、語りましょう。

そのためには、表情、しぐさ、服装、持ち物、姿勢、周囲の状況などで表すのです。

「カズオ! こんな雨の日に泥だらけになりながら、泣きながら学校から帰ってきて、どうしたんだ」

と、こんなバカなセリフを書く人はいないとは思いますが、悪い見本です。
全部視覚情報、《画(え)》で表現できることです。

ただ、ここで「カズオ!」と名前を呼んでいることは、無駄ではありません。
とてもいいことです。
キャラクターが現れた時、何者かわからない間は読者の中で、そのキャラクターはモヤモヤと宙に浮いている状態ですから、特に冒頭では名前を会話の中で出してやることは重要です。
その際、字幕で文字を出すのはあまり、よくありません。
初登場の時、あるいは久しぶりに登場した時には、自然な会話の中で、そのキャラクターの名前を読者に印象づけるのは重要なことです。

それから、読めない漢字や、わかりにくい文章表現も、読者のテンポを崩してしまいます。
これは編集者の仕事でもありますが、漫画家の段階で、読みにくい漢字にはルビを振るようにし、改行や、文字の区切り、ひらがな・カタカナと漢字のバランスにも気を使ったほうがよいでしょう。
読みにくい漫画は、読者にとって、ストレスになります。
誰も、ストレスを感じるために漫画を読むわけではありませんから、読者のほとんどは、ストレスがたまったら、そこで読むのを止めてしまうでしょう。
(これは、画も同じで、わかりにくい構図、混乱するキャラ配置などは避けなければなりません)。

キャラクターの言葉をのせる《フキダシ》ですが、これにも細やかな気遣いをしてほしいと思います。
キャラクターの性格や、その時の感情、セリフの内容によって、フキダシの形は当然変わります。
フキダシとは、外界にはみ出したキャラクターの心です。心がイガイガしていれば、イガイガしたフキダシになるし、ホンワカしていれば、ホンワカしたフキダシになります。

フキダシの中の文字も、昔は漫画の書体といえば種類が限られていましたが、今日ではデジタルでいろいろな字体が使えますので、どのような字体があるのか、また、どのようなシチュエーションでどういう書体が使われているかを意識しておくとよいでしょう。

2. 《受けゼリフ》を言わせない

高橋留美子のインタビューを読んだら、「劇画村塾で習った『受けゼリフ』を言わせないという技法は、今でもとても役立っている」と言っていました。
これは、とても重要なことです。

「いい天気ですね」
「そうですね」
「ところでキミ、結婚したらしいね」
「はい。そうなんですよ」

現実には、よくある会話です。
しかし、漫画では(映像作品や小説でも)要らないセリフです。

「はい。そうなんですよ」
「そうですね」
「ええ。そのとおりです」

相手の意見に同意するだけのセリフ、あるいは、ありきたりのセリフは《受けゼリフ》といいます。

この《受けゼリフ》は、なぜダメなのでしょうか?

誰にでも書けるセリフだからです。

そして、
面白くないセリフなんです。

作品を面白くしたいのであれば、このような《受けゼリフ》をキャラクターに喋らせてはいけないのです。
もちろん、それをわかった上で、何らかの効果を狙って、演出として自覚的にやることはあります。

あるいは、売れること、ヒットすることを目的としたエンタメ的な作品ではなく、限られた「分かる人にわかればいい」という姿勢で書かれた、アート的な作品もありますが、そのような作品については、ここでは除きます。

人を楽しませたい、エンタメの作品を目指すならば、ダラダラとした《受けゼリフ》を排除しましよう。

初心者のネームには、この《受けゼリフ》がやたらと出てきます。
リアリティとか、《間》とか、《雰囲気》とか、そういう効果を狙ってのことかもしれませんが、限られた紙数の中で、物語を進めなければいけないのに、そんなスカスカなことで使ってしまってはもったいないのです。(もちろん、効果を狙っての場合は別ですが……)。

フキダシは、口からはみ出したキャラクターの心であり、セリフとはキャラクターの《内面》、いわば《キャラクターの世界》が、口の中から吐き出されたものです。

AというキャラクターのセリフにはAの世界があり、Bというキャラクターの中にはBの世界があります。

面白くするためには、A=Bであってはいけません。

Aのセリフに続くBのセリフは、Aのセリフに乗っからず、誰にも予想できない、真っ向から体当たりするセリフや、全く違う世界を提示するセリフにすれば、面白くなります。

つまらないセリフを吐くキャラクターは、つまらないキャラクターなのです。

主要なキャラクターである、主人公・ライバルをイエスマンにしてはいけません。

口から吐き出された《世界》と《世界》がぶつかり合い、撃墜し、踏み台にしてジャンプする。《世界》と《世界》の空中戦です。

当たり前の会話をさせず、言葉と言葉を戦わせる。

「腹減ったな。ラーメンでも食いに行くか」
「うん。そうだね」

では面白くありません。
仲良くラーメンを食べて終わりです。

「腹減ったな。ラーメンでも食うか」
「いいよ。俺は芋を食うから」
「なに、お前、その芋は俺の芋だ! 返せ!」
「うるせえ、芋で殴ってやろうか!」

と、くれば、全く《受けゼリフ》になっていません。
次が予想できず、キャラクターとキャラクターの個性のぶつかり合いがあって、面白いわけです。
対立しろ、とか、ケンカしろ、ということではありません。
発想と発想のぶつかり合い。
セリフとセリフのかぶせ合い。
世界と世界の果たし合い。
剣戟やサーカスのようなセリフの空中戦をするのです。

喧々囂々、侃々諤々、丁々発止。
魅力的なキャラクターたちには、チャンバラ活劇のように、カンフー映画のように、切れ味のあるセリフのバトルをさせましょう。

《受けゼリフ》をするな、というのを覚えておきましょう。

それでは。

筆:小池一夫
(次回8月17日掲載予定)
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小池一夫
作家・漫画原作者
 中央大学法学部卒業後、時代小説家・山手樹一郎氏に師事。70年『子連れ狼』(画/小島剛夕)の執筆以来、漫画原作、小説、映画・TV・舞台等の脚本など幅広い創作活動を行う。  代表作に『首斬り朝』『修羅雪姫』『御用牙』『春が来た』『弐十手物語』『クライング・フリーマン』など多数。多くの作品が映像化され、その脚本や主題歌の作詞なども手がけている。  また、1977年より漫画作家育成のため「小池一夫劇画村塾」を開塾。独自の創作理論「キャラクター原論」を教え、多くの漫画家、小説家、ゲームクリエイターを育てる。  主な門下生としては、『うる星やつら』の高橋留美子、『北斗の拳』の原哲夫、『バキ』の板垣恵介、『サードガール』の西村しのぶ、『軍鶏』のたなか亜希夫など多数。  ゲームでは『ドラゴンクエスト』の堀井雄二、『桃太郎電鉄』のさくまあきらなど。

 2000年以降は学校教育でのクリエイター育成に力を入れ、大阪芸術大学、神奈川工科大学の教授を歴任。現在は大阪エンタテインメントデザイン専門学校でクリエイターの育成を行う。  また、『子連れ狼』は最も早くに海外でヒットした日本漫画の一つであり、2005年、漫画界のアカデミー賞といわれる「ウィル・アイズナー賞」の「漫画家の殿堂入り」(The Will EisnerAward Hall of Fame)を受賞。  現在も漫画原作を書きながら、コミックコンベンションや講演会などで、日本国内や海外を飛び回っている。

小池一夫先生の著書

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