尖閣沖の中国船 挑発やめ真剣な対話を
中国海警局の公船多数が尖閣諸島周辺の領海侵入や接続水域での航行を繰り返し、日本政府が連日、抗議する異常な事態が続いている。こうした挑発は対話の環境を悪化させるだけだ。中国は一方的に緊張を高める行為を自制すべきだ。
中国側は2012年9月に日本が尖閣諸島を国有化した後、周辺での公船の航行を常態化させ、領海侵入を繰り返してきた。日本の実効支配を突き崩す狙いとみられるが、今回はこれまで以上に度を越えている。
公船の周辺では数百隻の中国漁船が操業しているという。日中漁業協定で接続水域を含めた日本の排他的経済水域(EEZ)での操業は認められているが、例年は100隻前後というから、大幅に増えた。
中国は南シナ海における中国の権益を否定した仲裁裁判所判決の受け入れを迫る国際包囲網作りを日本が主導していると反発している。意趣返しの意図や中国国内向けに強い姿勢を示す狙いもあるのだろう。
漁船集結は日中平和友好条約調印4カ月前の1978年4月、約140隻の中国漁船が領海侵入した事件を想起させる。中国が「偶発的」と釈明し、再発防止を確約して条約締結にこぎつけたが、一時は交渉が宙に浮きかけた。同じ動きがぶり返されれば日中関係の基礎が揺らぐ。
6月に中国海軍の艦船が同諸島の接続水域を航行したり、「国際海峡の航行」と称して日本領海に侵入したりするなど東シナ海での活動も活発化している。中国には漁民を編成した準軍事組織として海上民兵の制度がある。大量の漁船の集結に警戒感が高まるのも当然だ。
また、中国が東シナ海で開発を進める海上ガス田の関連施設ではレーダーの配備が確認された。ただちに軍事利用が可能ではないとしても、相互信頼が欠如する中では疑心暗鬼が深まる。
一昨年11月には日中関係改善に向けた4項目合意に基づき、首脳会談が実現した。尖閣問題では「対話と協議を通じて情勢の悪化を防ぐ」ことを確認し、危機管理メカニズムの構築で合意している。これを再確認し、関係改善の動きを改めて軌道に乗せる必要がある。
9月に中国・杭州で開く主要20カ国・地域(G20)首脳会議や年内開催予定の日中韓首脳会談に向け、中国の王毅(おうき)外相の訪日も検討されており、対話の機会はある。中国が自制要求に応じ、事態沈静化に動くか。対応次第で対話への真剣度が測れるだろう。
一方で中国には日本が「中国脅威論」を内政や外交に利用しているとの不信感が根強い。相互不信の解消には日本も本気で関係改善に取り組む姿勢を示す必要がある。