沖縄県・尖閣諸島沖に大量の漁船が現れ、中国の公船が領海侵入を繰り返している。漁船と公船が大規模に行動している点で、これまでにない動きだ。

 東シナ海の緊張を高める危うい事態である。岸田外相がきのう、程永華(チョンヨンホワ)・駐日中国大使を呼んで抗議したのは当然だ。

 外務省は前日まで4日連続で実務級の抗議をしたが、事態は変わらなかった。抗議のレベルを閣僚級に上げたのは異例だ。

 このままでは日中関係に悪影響を広げかねない。中国は即刻この動きを止めるべきだ。

 程大使は「事態が複雑化、拡大しないように双方が冷静に努力するべきだ」と記者団に述べたが、問題をこじらせているのは明らかに中国側である。

 夏の出漁時期を機に漁船を動員し、多くの公船を伴わせる。それで自国の権益があるのだとアピールしているようだ。

 東シナ海の日中中間線近くのガス田でも最近、動きがあった。中国がつくった構築物に、艦船を監視するレーダー装置を設けた。これも、見過ごせない一方的な振るまいである。

 中国が主権を主張する海域に公船を出し、拠点をつくり、じわじわと実効支配に向けた既成事実化をはかる。それは、南シナ海での経緯と同じだ。

 オランダにある常設仲裁裁判所は先月、南シナ海で中国が唱える権利を認めない判決を出した。その後、中国は爆撃機による監視飛行などで、判決に屈しない姿勢を強調している。

 米国とともに国際法の順守を訴える日本政府に対し、中国側は反発しており、今回は東シナ海を舞台に報復的な牽制(けんせい)を仕かけてきたとの見方もある。

 だが、そうした中国の対外姿勢が政権内のどのレベルで決められたのか、意図や目的が内外に明かされることはない。

 そうした中国の不透明さ、予測の難しさという性質こそ、周辺国にとって深刻なリスクであり、アジアの安保環境を不安定にさせる要因だ。

 日中両政府は2年前、4項目の合意文書を交わした。尖閣など東シナ海の緊張状態について「対話と協議を通じて、情勢の悪化を防ぐ」と明記した。

 両国間には複雑な問題があるが、対立より協調を探ることが互いに利益となると確認したはずだ。あの合意に立ち返って、早く事態を収拾すべきだ。

 中国は9月に杭州でG20サミットを開く。だが、このまま近隣の安定を脅かすようでは国際的な信頼も得られまい。自らを責任ある大国というならば、それにふさわしい行動を望む。