ここから本文です

相次ぐ赤字ローカル線廃止、地方「切り捨て」の足音が聞こえる

ビジネス+IT 8月10日(水)6時10分配信

養老鉄道は上下分離方式で存続

 地方のローカル鉄道は地域の人口減で乗客が少なくなり、便数が減少、さらに乗客が減るという悪循環に陥っている。主に利用しているのは運転免許を持たない高校生や高齢者。通学時間を除けば車内は閑散とし、空気を運んでいるところが少なくない。

 経営が困難になれば、バス転換か、第三セクターによる運営が一般的だ。しかし、路線バスは大量輸送や観光客誘致に向かない。第三セクターの鉄道運営は自治体の負担が大きすぎる。

 そんな中、注目を集めているのが「上下分離方式」だ。自治体などが土地や施設を保有し、運行会社が列車の運行、車両の維持だけを受け持つ。富山県の富山地方鉄道、三重県の伊賀鉄道、青森県の青い森鉄道など導入例が増えてきた。

 JR北海道も路線見直しに際し、転換候補に挙げている。ローカル鉄道の赤字の多くは施設保有の経費。これを自治体が受け持つことで赤字路線の多くが黒字転換する可能性があるからだ。

 三重県と岐阜県を結ぶ養老鉄道(桑名-揖斐間57.5キロ)も、毎年10億円ほど計上してきた慢性的な赤字克服のため、公有民営の上下分離方式で再スタートが決まった。沿線7市町が出資する新会社が線路など施設を保有、養老鉄道が運行する形式で、2017年度中に移行したい考えだ。

 養老鉄道活性化協議会の事務局を務める岐阜県大垣市生活安全課は「代替バスでは需要を賄いきれず、現状ではこの方式がベストだと判断した」としている。

自治体に求められる将来を見越した交通計画

 ローカル線の存廃を事業者に任せれば採算性で判断される。観光列車の運行で息を吹き返したところもあるが、成功例はあくまで少数派。今後の人口減少を考えると、状況は厳しさを増す一方で、経営悪化は避けられそうにない。

 しかし、自治体の財政はどこも火の車。特に財政力の弱い過疎地の自治体には上下分離方式も荷が重い。西藤准教授は「事業者任せでも行政任せでもローカル鉄道の維持はうまくいかない」と指摘する。

 公共交通機関の役割は沿線の住民を希望する目的地へ運ぶことにほかならない。「そのためには廃止の方針が打ち出されて慌てることがないように、普段から住民のニーズを把握し、将来を見越した交通計画の立案が自治体に求められる」と西藤准教授。

 中長期目線でのまちづくりとそれを支える公共交通網のあり方について、沿線住民を交えて合意形成を図るしか赤字ローカル線問題の解決策はないのかもしれない。

政治ジャーナリスト 高田 泰(たかだ たい)

3/3ページ

最終更新:8月10日(水)6時10分

ビジネス+IT

記事提供社からのご案内(外部サイト)

ビジネス+IT

SBクリエイティブ

年2500本超のビジネス・IT系セミナー情報掲載
様々な著名人の話が生で聞ける!
500本超の独自記事も掲載!
他で読めないビジネスとITのヒントがここに。