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2016年04月02日

ギネス世界一の新宿駅、なぜ「サグラダ・ファミリア」よりも早く完成しないのか

1日364万人の乗降客数をこなす駅として、世界一のギネス認定(2007年)を受けた新宿駅。4月4日には「バスタ新宿」がオープンするなど、最近、この駅が大きくリニューアルしているのをご存じだろうか? 何十年も同駅を利用する人は「新宿駅はいつまで工事を続けているのか」と疑問に思われているかもしれない。実は新宿駅の建築年数は、未完の建造物として世界的に有名な「サグラダ・ファミリア」を超えることがほぼ確実となっているのだ。なぜ新宿駅は完成しないのか。一級建築士で、昭和女子大学 生活科学部 環境デザイン学科 准教授の田村 圭介氏に話を聞いた。

(聞き手は編集部 松尾慎司)

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田村圭介氏

新宿駅をテーマにした『新宿駅はなぜ1日364万人をさばけるのか』(SB新書)のほか、渋谷駅(『迷い迷って渋谷駅 日本一の「迷宮ターミナル」の謎を解く』)、東京駅(『東京駅「100年のナゾ」を歩く - 図で愉しむ「迷宮」の魅力』)などの書籍で、いわゆる中核都市のターミナル駅を解題する。『新宿駅はなぜ1日364万人をさばけるのか』は、ゲーム『新宿ダンジョン』の開発者 上原大介氏との共著本であり、上原氏がゲームを作っていく過程をベースに、上原氏の悩みや発見に対して、田村氏が解説を入れていくという展開で新宿駅の謎を解いていく本になっている。


駅の構造を理解すれば「駅は習得できる」

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進化を続ける「新宿駅」

──東京駅や渋谷駅、新宿駅といったターミナル駅の謎解きを書くに至った理由を教えてください。「人が迷う」というところから、なのでしょうか?

田村氏:「迷う」という意味では、その人がどの駅を使ってきたかでどの駅で迷うかがみなさん違います。東京駅の本を書くことになった理由は、渋谷駅の本を出したら、「いや渋谷駅は迷わない、東京駅のほうが迷う」という声があったからです。東京駅の本を書いたら、今度は「いや新宿駅だ」と言われました。わかったのは、どの駅にも迷う人が毎日いる。そして、たとえば渋谷駅を子どもの頃から使っている人は迷いません。駅全体を動物的に習得しているのです。

──駅全体を習得するというのは、駅の構造をとらえるということでしょうか?

田村氏:駅の構造をとらえるポイントは、まずプラットホームの位置です。電車に乗っていて、駅の中で電車から電車に乗り換えるというのは、プラットホームからプラットホームに移動するということなのです。つまり、プラットホームからプラットホームへの移動の仕方を見ていけば、駅全体が見えてきます。

 たとえば、東京駅はある意味最も合理的に計画されている駅だと思いますが、東京駅の連絡通路はすべてプラットホームの下にあります。東京駅のプラットホームがずっと平行に並んでいることを「川」の字に見立て、この構造を「川田十」(カワダジュウ)と名付けました。

 プラットホームからプラットホームへ移動するときは、連絡通路があればいいわけですが、これはプラットホームの下に、プラットホームに直交した連絡通路を作るのが合理的で自然です。そうすれば、階段を降りてプラットホームに対し直交方向に歩いていけます。

 東京駅はプラットホームが長いから、その連絡通路が3本あります。さらに、この3本に対して相互に行き来できる通路を3本直交して、連絡通路が「田」の形になっています。そして、地下では八重洲から丸の内を通路が結びこれに1本が直交し「十」の形になっています。これが理想的な駅の形です。

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東京駅の「川田十」

(出典:『東京駅「100年のナゾ」を歩く、中公新書ラクレ』)


 東京駅の空間構造が理解できると、新宿駅も見えてきます。新宿駅の場合は、プラットホームから下に行くときと上に行くときがあります。下に行くと、地下連絡通路から東口か西口へ行く。南口に行くには跨線橋でプラットホームの上に行かなければなりません。プラットホームからプラットホームへの移動の動線が東西方向に4本あるのが新宿駅です。地下に2本、地上に2本です。地上の1本は今回リニューアルされました。東京駅の3本のうち、1本が新宿駅では地上へ上がり、2本になっていると考えると東京駅と関連付けられます。

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新宿駅の構造

(出典:『新宿駅はなぜ1日364万人をさばけるのか』(SB新書))


 これが大きな構造で、それがわかれば、だいたい新宿駅は把握できるはずです。ただ、東京駅より迷うという人は、新宿駅は乗り換えに上と下があるから迷ってしまう。東京駅で迷う人は、連絡通路がすべて下だから迷う。それぞれ迷い方が違います。


──新宿駅がギネス世界記録(乗降客数364万人/日)を持つということなのですが、新宿という駅がそういうプラットホームとして受け入れられるだけの土壌がある建造物だということなのでしょうか?

田村氏:駅側としても、相当な工夫をしていると思います。新宿駅はずっと工事が続いていて、スペインの「サグラダ・ファミリア」よりも完成が遠いということが確定しました。どうしてずっと工事中なのかというと、要するに、ある程度までは人口増加を予測できるものの、その先はわからないからです。少し先の未来の姿を予測し、それに対して計画して、駅を改良していきます。

 たとえば、プラットホームだったら、最初にこれくらいだろうといってプラットホームとして使うスペースの幅を決めます。それがいっぱいになると、プラットホームの長さを長くしていくしか方法はないですよね。幅がもう決まってしまっているから、幅を変えるときはよっぽどの改良工事で、全取替しないとできないわけです。

 東京駅は「川田十」の構造が真ん中にあるとお話しましたが、川田十の周囲で拡張されました。まわりの都市がどんどん大きくなって、電車を使う人口が増えてくるとそれに対応しなければならなくて、新たに駅に入ってくる路線をどうつなげるかというと、中心が飽和状態だから、周りで対応するしかありません。

──あらかじめ先を見越して、周囲のスペースを確保していたということでしょうか?

田村氏:未来はやはりわからないですよ。東京駅の場合は1914年にできたのですが、その50年後に新幹線が通るなんて誰も予想していなかったと思います。ただ、東京駅の場合はたまたまバックヤードになっていた敷地があったので、そこをあとになって新幹線のプラットホームに使うことができたのです。

 一方、渋谷駅は埼京線のプラットホームがかなり離れた位置にあります。あれは埼京線の駅として使える場所が渋谷駅の中になかったので、苦肉の策として渋谷駅の南にあった貨物用の敷地を使ったからです。

 おもしろいのは代々木駅の山手線の新宿駅寄り。10cmくらいの段差が、総武線と山手線のプラットホームにあります。これは総武線と山手線のプラットホームが伸びるとき、総武線は新宿駅に向かって上る形で伸びたのに対し、山手線はそのまままっすぐ伸びたため生じた段差です。そして一般的には、このように伸びていく方向に解決方法を取るというのが多いと思います。

──なるほど。「プロジェクト」という意味では、ITの世界も建築のナレッジに学ぶことが多いと思います。

田村氏:クリストファー・アレグザンダーがよく引用されますね。アレグザンダーは1960年から70年代の建築家で、建築をシステム的に設定していこうとする手法「パターンランゲージ」を確立した人物として知られています。

 パターンランゲージとは、たとえば設計するとき、椅子とテーブルと人間の最適な関係を「パターン」として定式化します。次に、テーブルと部屋の関係もパターン化します。そうして、たくさんのパターンを組み合わせていけば、最良の建築ができるという考え方です。それがITの文脈で応用できるのではないかということで、いま見直されているのです。

 パターンランゲージはいま見てもすごくおもしろいですし、学ぶべきことも多いのですが、パターンの固定化が難しい。パターン化しづらい他のさまざまな条件もありますし、それを使うのは人間なので。

【次ページ】新宿駅の完成はサグラダ・ファミリアよりも先!?

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