韓国造船大手の大宇造船海洋を再建させるため、4兆2000億ウォン(約4000億円)の血税が投じられるという。アジア通貨危機直後の2000年、大宇グループ全体が破綻(はたん)したときも大宇造船海洋の前身である大宇重工業は2兆9000億ウォン(約2700億円)の公的資金を「輸血」され、起死回生した。世界が構造的な低成長期に差し掛かり、競争力を伸ばした中国企業が韓国勢のすぐそばまで追い上げてきている状況にもかかわらず、天下り経営者と強気の労働組合が自分たちの利益だけを追い求めているような企業に、再び血税で巨額の支援を行うというのだ。これは、韓国が今なお大企業中心の経済構造パラダイムから全く抜け出せずにいることを示している。
大宇造船海洋を支援せずに潰してしまえば、下請けメーカーや労働者、金融機関、地域経済はみな不利益を受けるだろうか。中小企業中心の経済構造パラダイムで見ると、全く違った姿が描かれる。破綻した企業から追い出された熟練技術者たちは、生きていくため起業に踏み切るだろう。労組に安住していた労働者たちも、労組が幅を利かせていない企業に入って汗を流すだろう。彼らの努力で地域経済は活気を取り戻すに違いない。生き残るために全力投球する中で、経営改革や労働改革といった成果も当然出てくるだろう。小説の中の話ではない。フィンランド経済を牛耳っていたノキアがスマートフォン(スマホ)革命への対応を誤り業績が悪化して以降、フィンランドで実際に起きたことだ。
私たちは今よりもっとうまくやれるはずだ。世界でも高水準の自営業者率に潜む「起業DNA」と、夜を徹して働く勤勉さに宿る「労働DNA」を結合させれば、世界最高レベルの起業家精神を発揮できる。これによって、すでに寿命の尽きた大企業に代わる「強小企業」が次々に生まれるはずだ。もちろん、これは放っておいても実現するものではない。しっかり準備した上で起業に踏み切れるよう、起業インフラを構築せねばならず、構造変化の衝撃を最小限に抑えるための緩衝装置やセーフティーネットも必要だ。
こうした変化は、大企業中心の経済構造ではなかなか起きない。切羽詰まってこそ変化に向かう動力が生じるが、大企業中心のパラダイムにはその切迫感が全くないためだ。不振の大企業が淘汰(とうた)され、その空席を実力ある強小企業が埋めることができるよう、パラダイムとシステムを変える努力が切実に求められている。