今週のお題「映画の夏」
今から6年前の2010年、和歌山県太地町のイルカ漁のことを描いたドキュメンタリー映画『ザ・コーヴ』がアカデミー賞を受賞した。
『ザ・コーヴ』は、要は『反捕鯨』を訴える内容で、太地町の伝統的なイルカ漁の手法『追い込み漁』の隠し撮りをはじめ、イルカ肉は水銀に汚染されていて、地元の子どもたちはその水銀に汚染されたイルカ肉を給食で食べている等、イルカ漁を残酷行為、非人道的行為として描いている。
私はドキュメンタリー映画が好きなんだけれど、私の好きなドキュメンタリー映画はいつも必ず、ひとつのことがらを多角的にとらえていて、明確な正義も明確な悪も存在しないし、その事実を見てどう感じるかは、観客にゆだねられ、制作側のメッセージを感じさせない。
ちなみに、今まで見たドキュメンタリー映画の中で1番好きなのは『プージェー』。
社会主義から民主主義へと移り変わるモンゴルの中で、その波にのまれて消えた1人の遊牧民の少女に密着したドキュメンタリー。
そういう意味では、『反捕鯨』というメッセージが込められている時点で、私にとって『ザ・コーヴ』はドキュメンタリー映画とはいえない作品。
イルカ漁の映像があるからか、PG-12指定。
だったら肉食反対デモやらイルカ漁反対デモやら毛皮反対デモなんて明らかにR-15+だろうに。早く規制しろよなー。
『ザ・コーヴ』の公開をきっかけに、毎年イルカ漁の解禁の季節になると、太地町にはアメリカやオーストラリアの捕鯨反対運動の人たちがはびこり、悪質な嫌がらせや漁の邪魔をするようになってしまっている現実がある。
引用元:2014年「シー・シェパード」11入国拒否 日本で反日活動
そしてよりによって、日本の動物愛護活動家さんたちは、そんな彼らの行為を支持している。同じ日本人として本当に情けない!
あ。
前置きが長くなったけど。
そんな反捕鯨映画に対抗してつくられたのが、ドキュメンタリー映画『ビハインド・ザ・コーヴ』。
『ザ・コーヴ』と違って、中立的な内容だっていう前評判で、期待していました。
以下、正直な感想文です。
前半はよかったんです。
確かに中立性が守られていました。
シーシェパードの人たちは、意地悪とかじゃなく、本当に価値観の相違から、イルカ漁に反対しているんだということ。
捕鯨は日本の、というか、太地町の人たちにとっては本当に大切な伝統だということ。
ここまで反対活動がひどくなってしまったのは、反論をしない日本側にも非があるということ。
実際、踏ん張りどころでちゃんと反論したノルウェーなどは、その後一切の反対活動に合ってないということ。
シーシェパード側を悪者にすることなく、双方の相容れない根本的な価値観の違いから生じている対立で、それに対し日本政府は言いなりになり、太地町の伝統を守ろうとしてこなかったことが、現状を招いた最大の原因だということが、交互に映し出される双方のインタビューから読み取れました。
映像の情報はあっちこっちにとび、ついていくのが大変で、もうちょっとわかりやすく編集できないものかなとは思ったけれど、それでも、理解しようと、座席から身を乗り出して見ていました。
ここでおわれば、この映画の印象はとてもよかったと思います。
なのに突然、雲行きが怪しくなった後半。
スクリーンに唐突に映し出された、原爆で全身焼けただれた人や、縄で縛られ目隠しをされて膝をつき、泣き叫ぶベトナムの少年。
そして、アメリカ側が、日本に対して捕鯨反対を国をあげて主張するのは、第二次世界大戦での原爆投下や、ベトナム戦争での民間人虐殺など、自国の残酷行為から国民の目を背けさせるためだとか、トンデモ論が展開。
前半の中立性が台無し。
さらに、大画面いっぱいに、長時間に渡り、何枚も何枚も映し出され続ける戦争の残酷写真。
私は、イルカやクジラの屠殺や解体映像を見る心の準備はしてきましたが、そんな、目を覆うような戦争の残虐映像を見せられるなんて思っていなかったし、それも1枚や2枚じゃなく、何枚もだなんて。
まるで街中で唐突に、肉食反対デモに遭遇してしまったような心境でした。
そしてあらためて、あのデモの悪質さを身をもって知りました。
なぜここで、そんな何枚もの残酷写真を、大きなスクリーンいっぱい使って、長時間に観客に見せる必要性があるのか?
100歩譲って、その陰謀論?が真実だったとしても、ここで大量の残酷画像を垂れ流さなくてもじゅうぶん説明できるのでは?
何この演出。
突然始まったこの時間何?
執拗に、強制的に残酷画像を見せつける演出。
私には、アメリカへの嫌悪感を植え付けるための洗脳のように感じました。
なんていうんだっけこういうの。
プロパガンダ?
プロパガンダ(羅・英: propaganda)は、特定の思想・世論・意識・行動へ誘導する意図を持った、宣伝行為である。
そう!!プロパガンダ!!
ちなみに残虐映像が映し出されている間、ナレーションは英語で、字幕が出ていたんだけれど、私はとてもじゃないけどスクリーンを見続けることができなくて下を向いていたので、字幕は一切読めず、意味がわかりませんでした。
金返せ的な。
どうやらそれは、なんだっけ?捕鯨反対活動は、国民の意識をそらすための陰謀だ?っていう証拠を示した現地インタビューだったらしいです。
帰宅後、このサイトで知りました。
その和訳の字幕、嘘らしいけど。
ビハインド・ザ・コーブっていう映画見たんだけど「捕鯨問題を米国が提起したのは、ベトナム戦争から世界の目を逸らさせるためで、米国の極秘文書にも書いてある」って結論なんだけど、僕も持ってるその文書、そんなこと一言も書いてないけどなぁ。 pic.twitter.com/HHpoNUF3QQ
— 真田康弘 (@Sanada_Yasuhiro) 2016年2月21日
前半がよかっただけに、後半の、反アメリカ思想に誘導するような演出に(しかも唐突に残虐写真見せつけられて、今でも思い出すだけで気分悪くなるトラウマだし)、心底白けてしまいました。
さらにエンディングでは、捕鯨船に乗る漁師さんを過剰に英雄みたいに称える演出。そんな漁師さんに憧れる子供とかね。
アメリカ人を散々落とした後の日本人上げとか、同じ日本人でも興ざめですよ。
後半全カットでよかったんじゃないですか?
前半50分だけ上映すればよかったのに。
さっきも書いたけど、ものごとって明確な正義と明確な悪なんて本当はなくて、それぞれにある背景や事情や立場が複雑に絡み合ってて、それを映し出すのが、私はドキュメンタリーの醍醐味だと思ってるんです。
そういう意味では、『ザ・コーヴ』も『ビハインド・ザ・コーヴ』も同じ。
メッセージ性が強すぎて、ドキュメンタリー映画とは言えないと思う。
と、いうことで。
私は『ザ・コーヴ』や、イルカ漁の妨害活動をする愛誤家さんも嫌いだけど
アメリカを悪者に仕立て上げるようなプロパガンダ的演出が目立つ『ビハインド・ザ・コーヴ』も同じくらい好きじゃない。
それでもまぁ、一応買った映画のパンフレット。
パンフレット内の『捕鯨の歴史』っていう年表は興味深かったし、クジラ図鑑みたいになってるのもよかったけど、このパンフレットに寄稿してる某小説家さん、何を見て『中立的立場を貫く傑作ドキュメンタリー』だと思ったのか。ほんとに見たのかさえ怪しく思っちゃうよ。
ちなみに、監督の八木景子さんは、全公演、あいさつに回ってるらしい。
私は後半の過剰演出に白けちゃってたのと、唐突に残酷映像見せられた腹立ちとで、話は最後まで聞いたけど素直にうなずけなかったし、拍手もできなかった。
お子さんをもつお母さんという立場で、この映画の撮影のために長期間家を空けてたというエピソードにも、私は正直、好感を持てなかった。
この上映を成功させて次につなげたいっていう野心も見え隠れしてたけど、私は、捕鯨反対とか捕鯨賛成とか肉食反対とか、自分なりの答えをすでに持ってる人は、ドキュメンタリー映画の製作に向かないと思う。
それは去年、映画『犬に名前をつける日』を見たときにも感じたこと。
むしろ、答えを見いだせず、考え続けてる人にこそ、その混沌した世界を淡々と撮ってほしい。
でもまぁ一応、サインだけはもらったわけだけどね。
サインもらっておいてスミマセン。
ということで。
ドキュメンタリー映画『ビハインド・ザ・コーヴ』。
今また横浜で上映されているようなので、もし興味があればぜひ。
特に告知がなくても、たぶん、監督あいさつも来てくれると思います。
あ、R-15+だと思っていった方がいいよ。
戦争写真ほんとうにひどいから。
私は最初の都内の公開でタイミングが合わなくて、名古屋まで見に行こうとまで考えてたんだけど、その後また都内でやってくれたので行かずに済みました。
交通費かけて名古屋まで見に行ってたら、もっとひどい記事書くところでした。
あぶなかった。
以上。
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同じ問題を扱ったドキュメンタリーとしては、こっちの映像のの方が秀逸。
なんか近年、なんちゃってドキュメンタリー増えたなぁ・・・