大渋滞、報道バスがあわや大惨事“ずさん運営”にイライラ 砂田弓弦氏、リオ五輪の現地取材をレポート
リオデジャネイロ五輪の自転車競技取材のため現地入りしているフォトグラファー、砂田弓弦さんから取材現場の様子を伝えるリポートが届きました。自転車レースに関する知識がほぼ皆無な運営体制によるゴタゴタや、神経を使う盗難対策など、通常のレース取材では考えられないストレスフルな取材環境を強いられているようです。
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フォトグラファーのポジションがむちゃくちゃ
今、リオ五輪に来てます。初めての五輪取材です。これまでアジア大会を二度取材しているので、大体の予想はついていましたが、実際に現場に入ってみると予想とかなりの違いがあります。まず会場に入るのに、けっこう厳しいセキュリティチェックがあります。これは世界的にテロが多発しているせいもありますが、飛行に乗るのと同じくらいの検査です。水のボトルも一度開封していると持ち込み禁止。その場で破棄させられました。
さて、自転車の世界選手権だとUCI(国際自転車競技連合)が仕切っています。またツール・ド・フランスだとASO(アモリ・スポル・オルガニザシオン)です。運営者側は、いわば自転車で食べているプロフェッショナルの集まりです。一方、この五輪はご存知IOC(国際オリンピック委員会)の管轄です。UCIのルールでレースは運営されるものの、UCIは運営面でタッチしません。そうすると、自転車に関する知識はほとんどない人ばかりなのです。実際、フォトグラファーのポジションがむちゃくちゃだったりして、かなりのストレスを感じます。
またロードのコースも2カ所にサーキットコースがあるという非常に変わった設定です。石畳も含まれていて、それぞれ見所のある良いコースなのですが、実際に写真を撮る側は非常に困ってしまいます。会場にはフォトグラファーを運ぶバスがあるのですが、2つあるサーキットのために変則的で、しかも途中から選手が走るコースを外れるのです。
渋滞にも必ずと言って良いくらい巻き込まれます。女子のレースではゴールに間に合わないくらいになり、一般道を猛烈な勢いで走って、信号を無視して横断歩道を渡っていた歩行者数人をはねる寸前で急ブレーキがかかりました。乗っていた人たちの顔もひきつり、運転手の無謀運転に対し、罵声が飛びました。
結局ゴールに着いた時には選手がすでにラスト2kmまで来ているというありえないようなことが起きてしまいました。ゴールにはなんとか間に合いましたが、こうした運営には本当に怒りたくなってしまいます。
神経を使う盗難対策
今、悪い面から話しましたが、良い面はプレスルームに紙によるインフォメーションや結果の配布がいっさいないことです。自転車レースの会場ではいまだ実現していないのですが、やはりエコの面からは避けて通れないでしょう。ツール・ド・フランスを例にとると、近年A4の紙に両面印刷して節約はしていますが、紙による情報提供がなくなるのはもはや時間の問題でしょうし、そうあるべきだと思います。もっとも、これはインターネット環境が整っているところでしか実現できないのですが。
心配された治安問題ですが、今のところ僕自身は危険な思いはしていません。しかし、一般の交通機関を使って移動することも多いので、気が抜けません。一度、バックパックのファスナーが開いていると一般の人から注意された時には「やられた」と思いましたが、自分の閉め忘れでした。注意してくれた地元の男性は「気をつけなさい。本当に危ないから」と言って去って行きました。
さて、プレスルームはメイン会場と各競技場にそれぞれあります。メイン会場にはキヤノンとニコンのデポがあって、膨大な数のフォトグラファーに機材を貸し出したり、修理したりしてくれます。キヤノンの受付のところに、これまでフォトグラファーが盗まれた機材の一覧表が貼ってあるのですが、最新のものは自転車会場で盗まれたものです。
チェーンにつないであったフォトグラファーのカメラバッグが盗まれたとあります。チェーンが切ってあったそうなので、おそらくプロの仕業でしょう。撮影と移動に追われ、毎日睡眠時間を削ってやっていますが、こうした盗難対策でもエネルギーを使わないといけないので、ますます神経を使う毎日です。
砂田弓弦(すなだ・ゆづる)
1961年9月7日、富山市生まれ。大学卒業後にイタリアに渡り、1989年から自転車競技の取材・撮影に携わる。世界のメジャーレースで、オートバイに乗っての撮影を許されている数少ないフォトグラファーの一人。多くの国のメディアに写真を提供しており、ヨーロッパの2大スポーツ新聞であるフランスのレキップ紙やイタリアのガゼッタ・デッロ・スポルト紙にも写真が掲載されている。