【対談】さくらインターネット田中邦裕社長 ブロックチェーンは破壊的イノベーションであり、社会は既に変化し始めている
この記事の読了時間: 約21分2016年3月4日、ビットコインを法的に定義する新規制法案を含む改正案が閣議決定され、5月25日に可決した。これを契機に、国内でも大手企業が続々と参入表明を行うなど、本市場はますます盛り上がりの兆しを見せている。
本連載では、ビットバンクの廣末が聞き手となりビットコインとブロックチェーンの市場に参入表明を行なっている企業、または既に参入している企業にインタビューを行っていく。この領域に取り組む企業が、どのような背景から関心を抱き、市場参入を決めたか。そして、この技術を通じてどのような将来を描いているか。「ビットコイン/ブロックチェーン×事業」をテーマに、仮想通貨に挑む企業の狙いを全8回の対談で明らかにしていく――。
第六弾は、さくらインターネット株式会社<3778>の田中邦裕代表取締役社長にお話を聞きました。同社は2015年12月、国産ブロックチェーン「mijin」を有するテックビューロ社と提携し、翌年1月より同社のクラウドサービス「さくらのクラウド」でブロックチェーンの実証実験環境「mijinクラウドチェーンβ」の提供を始めています。
初回の参加申し込み企業の数は259件、15カ国から申し込みがあったとも報じられており、現在は2次募集も受け付け中。ブロックチェーン推進協会(BCCC)の理事にも任命された田中社長は、ブロックチェーンの未来に何を見ているのでしょうか。
廣末:まず、貴社のコアビジネスの概要についてお聞かせください。
田中:端的に言えば、コンピュータのリソースを提供するっていうところをわれわれが生業としてるところです。具体的には、ホスティング、レンタルとしてのWebサーバー、サーバーを丸ごとお貸しする専用サーバー、サーバーを置く場所をお貸しするハウジング、CPUやメモリなどを仮想化し展開するクラウド・VPS事業があります。
共通して言えるのはCPU資源と、メモリ・HDDといったストレージ、それにネットワーク。いわゆる処理をする部分、貯める部分、転送する部分という、この3つを提供している会社です。そのための手段として、例えばデータセンターを持っている、インターネットのバックボーンを持っているというところです。
弊社の立ち位置としては、付加価値を付けるというよりは、基本的なコンピューティング資源を提供するところに焦点を当てております。コンピュータで処理をするものはこれからもどんどん増えていきますし、蓄積量もどんどん増えていきますから、ここが増えれば弊社もずっと成長できると考えてサービスをやっております。
廣末:データ量の増加は、むしろこれから加速していくところでしょうから。直近の決算説明会用資料も拝見させていただきましたが、御社の収益も着実に座布団型で非常にステーブルかつ、きれいに成長しているように思います。
田中:ただ、ちょっと私にとっては成長率がやっぱり甘いなというか。
廣末:なるほど。
田中:グローバルで見るとクラウドの会社ってすごく伸びてるんですよね。というのも、コンピューティングの量はどんどん増えてるんで。AIとかIoT、FinTech、ブロックチェーンにしても、とにかくコンピューティング資源を使ってビジネスをされるというのがすべての業界で一般的になっているわけです。IT業界だからサーバーが必要だという話ではもはやなくて、すべての産業がコンピューティング資源を欲しがっていると。
そうなってくると、グローバルでこれだけ伸びてるのに、日本で伸びないわけがないと。最近だとPonanza(ポナンザ)という将棋のAIを、弊社の石狩データセンターで動かしてたんですが、人間に勝ちましたよね。ああいうのは特に膨大なコンピューティング資源を使うんです。そういうところが増えれば増えるほど我々のビジネスが伸びるはずなので、そう考えると今の成長率はちょっと甘いんじゃないかと思うわけです。
廣末:まだいけると。
田中:まだいけるというふうに考えてます。
廣末:素晴らしいですね。その流れで、今回ブロックチェーンへの取り組みということで、テックビューロさん、インフォテリアさんと提携し、ブロックチェーンの開発環境を提供するということをやられています。これはやはり、ブロックチェーンを動かすアプリケーション、それを繋げるミドルウェア、その基盤になるコンピューティング資源をセットにすることで、テクノロジーを広めようという狙いなのでしょうか。
田中:おっしゃる通りです。われわれはアプリケーションを開発する会社ではありませんが、アプリケーションを増やす努力は必要なんですね。そのためにAIやブロックチェーンでも利用していただける基盤を作っています。これは間違いなく爆発的に伸びる領域ですから。
最近流行りのプライベートブロックチェーンに関して言えば、そこにポイントを載せるシステムを作りたいとか、もしくはスマートコントラクトを使いたいとか、ブロックチェーンを使いたい方々はこれから確実に増えます。なので、アプリケーションをわれわれが作らないものの、その寸前まではお膳立てをしよう、準備をしておこうと。
廣末:本当におっしゃる通りだと思います。これからどんどん伸びていく市場ですので。
田中:一時期、クラウドが騒がれていましたが、その中でもいろんなタイプが出てきてますよね。昔は柔軟性や利便性というところにフォーカスを当ててきたと思うんですが、今、コンピューティング資源という観点が出てきた時、やっぱり早いものが必要になってくるわけです。
ブロックチェーンで言うならば、ノードは少しくらい落ちてもいいけど、とにかく速い、安いサーバーが欲しいわけです。であれば、弊社は元々データセンターやインターネットのバックボーン、いわゆる本当に低いレイヤのインフラから自社で作ってきた会社なので、そこは大きな強みなんじゃないかなと。ブロックチェーンの考え方は我々と非常にマッチしているんですよ。
あとは完全なスプリットブレインが起きた時、ネットワークが2~3日完全に分断されたらブロックチェーン・ノード間の情報共有をどうするんだという話もよく出てきますよね。ここは大きな心配ごとだと思うんです。その時、どこにサーバーがあって、どういう構成になっているかというのが理解できるというのは非常に価値があるんですね。
廣末:御社はデータセンターをご自身で持っていて、長い運用経験もおありになる。そういった意味では心配ごとも少しは減ると。
田中:今、中身が知らなくても使える世界っていうのが今どんどん広がってますよね。一方で、それだからこそ中身がわかるサービスをつくる会社が少なくなってきてるんですよね。今はデータがどこにあるかわからないんですよ。当社であれば、当社のデータセンターにある。そういった意味で「中身のわかるサービス」、それが弊社の強みなのかなと。
廣末:素晴らしいですね。
ビットコインは合理的
廣末:田中社長は、ビットコインについてはどう思われているのでしょうか。
田中:素晴らしいテクノロジーを作ってくれたなと。
廣末:それは何故でしょうか?
田中:例えばの話ですが昔、セカンドライフってあったじゃないですか。
廣末:ありましたね。
田中:セカンドライフでは土地をリンデンドル(L$)で売れたんですよね。でも問題があって、いくらでも土地が増やせてしまったと。現実であれば、土地は限りあるから値段が上がるわけで、神様みたいなのが土地をどんどん増やすというのもありえないですよね。それと同じで、ビットコインも数学的に上限をはっきりと決めて、希少価値を持たせていると。アルゴリズムを勝手に変えて、勝手に発行するということが出来ないわけです。
だから私は、ビットコインは素晴らしいテクノロジーだと思っているんですよ。何故かと言うと、根拠があるということ。例えば金も地球上の埋蔵量には限りがあって、毎年掘り出される量も予想しやすいですよね。採掘にも相応のコストが掛かります。つまり、採掘のコストと、全体の埋蔵量の2つを皆が信用しているから価値があったわけです。昔、金本位制で通貨が金にペッグされていた時代がありましたが、これは金が信用できるから通貨の価値を信用できるという構図になっていて。
そう思うと、今の通貨は金本位制でもないので、信用だけで成り立っていて、実はビットコインよりもよっぽど信頼性がないはずなんですよ。だからビットコインの方が胡散臭いというのは、合理的ではない気がします。
廣末:まったくその通りだと思います。
田中:ロジカルに考えれば、すぐにわかることなんですよね。ただ、たった1つ問題があるとすれば、今ビットコインの値段は上がっていますけど、やっぱりビットコインは使う人がたくさんいるからその希少価値に意味があるのであって、使われなくなれば意味をなさなくて、暴落するわけです。今、新しいブロックチェーンを作ろう、仮想通貨を作ろうみたいな動きがあるじゃないですか。今後そういうのがたくさん出てきて、利用が分散していくと発行上限まで使われることがなくなり、希少価値に意味がなくなるんじゃないかという心配はありますね。
廣末:ただ、われわれの業界でよく出てくるハイエクから引用すると、要するに国家による独占的な通貨ではなく、民間による通貨によって、むしろ競争させることで健全な通貨ができるんだという説が言われてまして。ですから、ビットコイン以外の仮想通貨が新しくできて、競争力のあるものであればより健全なものになっていくだろうし、必ずしもビットコインではなくてもいいんじゃないかなと思うところもあります。それはそれでありだよねと。
田中:そうですね。おっしゃる通りです。それでいうと、ビットコイン自体の価値が下がる可能性はあるわけですね。
廣末:そう思います。
田中:通貨の価値という観点で言えば、結局、日本円なら円で買えるからやっぱり価値があるんだと思うんですよね。ビットコインで買えるんであれば、多分その価値は残るんだと思うんですよ。マイルにしても、15,000マイルでANAに乗れるってわかってるから、皆15,000マイルに価値を感じるわけで、そのレートが途端に下がったりすると、その価値も下がったりするということなので、結構シンプルな話なんだと思います。なので、今ビットコインの価格が上がっているのは、使う人の方が増えているということなのかなと。
この間上海に行ったんですけど、向こうだとビットコインはもう普通ですよね。例えば中国からアメリカに送金する時とかに、当たり前に使うんですよ。日本ではまだまだ使う人は少ないですが、意外と世界では普通になっているんですね。
廣末:そのとおりだと思います。
田中:freeeの佐々木さんがこの間、いいことをおっしゃってたんですよ。要するに、海外のショップで何か買い物をしても、今はそれこそ翌々日ぐらいに届くわけですよ。40数時間ですかね。一方で、海外送金をすると、下手すると1週間くらいかかる。つまり、モノよりもカネの方が移動に時間がかかる。
廣末:それ面白い切り口ですね。
田中:はい。これは「なかなかやな」と思って。それを発展させて「ヒト・モノ・カネ」っていうリソースを考えた時に、ヒトが1番早く動ける。モノがその次に動けて、カネが1番遅い。おかしくないですか。
廣末:最悪ですね。
田中:普通に考えたら、ヒトが1番時間かかりそうな気がするわけですよ。でも現実では、カネが1番時間がかかる。
廣末:面白い。
田中:これは使えるんじゃないかなって。
廣末:使えますね。それ、すごく説得力がありますね。
田中:そうなんですよ。
廣末:お金っていうのは元来インフォメーション、つまりデジタルなものであって本来は最も早いはずなんですよね。なのに、それが長い時間かけて作ってきたレガシーな仕組みのせいでヒトやモノのスピードに追い越されてしまった。もはやマネーというものが、化石化してしまっているのが現状であると。
田中:そうですね。やっぱりマネーの信頼性、安全性を信用だけで担保しようとすればするほど、コストが高くなると思うんです。なのでビットコインは仕組みがとてもシンプルですし、希少価値というところに根拠がある。これはやっぱり、革新的だなと。
廣末:おっしゃる通りだと思います。
田中:ところで、ビットコインの送金がフェイル(失敗)する可能性はあるのでしょうか? 以前、一年に何度か起こるということを聞いたことがあるのですが。
廣末:ビットコインの決済業者を使った場合、トランザクションの検知や承認がされずに1時間経ったりすると、決済失敗と見なされる可能性はあります。当然、その場合は後で届けば事業者さんの方から返金されますが。あとは、トランザクションとして認められない場合も弾かれますね。もっとも、殆どはそもそも不正な送金だったりするんですけど。
田中:それはそうですね。ということは、送金に関しては確実にできるもんなんですかね。
廣末:確実性は高いです。
田中:高いというと、駄目なこともあるんですか?
廣末:例えば相手の送金先を間違っちゃうみたいな。
田中:ああ、それはありますね。
廣末:やっぱり人によっては、送金の取り消しが効かないのが非常に使い勝手の悪いっていう人もいるんですね。
田中:組戻しができないと。
廣末:はい。メールの送信の取り消しができないのと同じで、リアルの世界のように「ちょっとごめん。待った。やっぱなし」っていうことができなくなるっていうことに抵抗がある一定層がいますと。確かに、そう思う人がいるのもわかりますし、うちのかみさんなんかだと、そう言いますね。なので既存の仕組みには利点もあるんですよね。
田中:そのとおりで、ほんの少数の人たちに対応するために、とてつもないコストを掛けるということが世の中にはたくさんあるわけです。それが今のマネーのコストの高さを産んでるのか、もしくは別のことなのか。法律かはわかりませんが、少なくともビットコインのコストが安いのは事実じゃないですか。
これを考えると、銀行送金の例で国内なら高くても数百円、タダもできます、海外だと何千円も掛かります。これには何か理由があるわけですよね。そういう背景があって、ビットコインにメリットがあるんだとすれば、ビットコインと通貨で何の違いがあるんだろうと、体系建てて話さないといけないですよね。
廣末:おっしゃる通りだと思います。マネーの本質的な価値や従来の仕組みといったところは、やっぱりこの業界にいるとよく考えるところですね。必ずしも今のビットコインが完全だとは思いませんが、少なくとも新しい問題提起をしてくれたなと思います。
「mijin」提供の狙い
廣末:今、色々なブロックチェーンソリューションが出てきていると思うんですが、テックビューロさんと組まれて「mijin」の実証実験環境のインフラとしてさくらのクラウドを提供した背景はどのようなところにあるのでしょうか。
田中:進めるのが早かったからですね。
廣末:まず第1号だと。
田中:やっぱり、世の中にテクノロジーが出てきた時に、誰でもすぐに使えるというのが非常に重要だなと。フィンテック推進室とか、IoT推進室とか、計画に何ヶ月もかける会社さんも多いですけど、チームがあって、やりたい事業を始めて、その後に部署ができる。お客様に真っ先にインパクトを与えられるのであれば、そういう高速なサイクルが大事ですよね。そこで、既に動くものがあったのが「mijin」と。
廣末:ベンチャーですね、やっぱり。
田中:最近、そういう路線に変えたんです。
廣末:素晴らしい。
田中:当社も低成長になってましたけど、成長し続けるためにはやっぱり。
廣末:スピードですね。
田中:はい。まずやる、が重要ですね。
廣末:なるほど。1月から「mijinクラウドチェーンβ」の取り組みを始められて。申し込みをされたお客様のリストを公開されてらっしゃったと思うんですけど、多岐に渡ってたくさんの会社が参加されていましたよね。
田中:そうですね。とにかく試したい人が多いんだっていうことがびっくりでした。ニッチなテクノロジーだと思ってましたから、数件くらいは来るのかなと。正直、あんなに市場が反応するとは思わなかったですし、件数もくるとは思わなかったんですけど、蓋開けてみたらすごいたくさんの方が来られて。やっぱり可能性がある領域なんだなと改めて感じましたね。
ただ、まだまだ様子見の方は多いですし、最近ようやく三菱東京UFJ銀行さんが独自の仮想通貨を作るという発表も出てきました。なので、我々としてはようやく動き始めたというところで、あと数カ月様子を見たらすごく世界観変わるかなと。
廣末:どこの会社さんも、ブロックチェーンに強く期待してらっしゃると。
田中:そうですね、お客様のモチベーションがすごく高いですし。それと、ビットコインとはまた違ったかたちで認識され始めている。ブロックチェーンとビットコインの区別があんまりついてない人も結構多いじゃないですか。なので、ブロックチェーンというところにフォーカスをして、コンピューティングを貸してほしいというお客様が増えてきてるのは当社の本業ど真ん中ですから。我々としても、すごく期待しています。
廣末:御社のレイヤーでいうと、おそらくマイクロソフトさんが競合になると思います。御社の場合、そこをどう差別化していくかみたいなところはあるのでしょうか。
田中:基本的に競争とか差別化っていう言葉が古いかな、って最近思ってまして。要は、普及すれば全部が使われていくんだろうと。結局、同質化していく中で無理やり差別化して付加価値をつけていくという考え方はあまり意味がないと考えているんですよ。元々、我々は付加価値よりも基本的価値を磨くという方針でやっているので。
無理に差別化をせず、自分たちができるベストを尽くす。お客様に一番使ってもらえそうだと思うものを、確信を持って作るだけだと思います。その他の要因としては、認知度。これを上げることの方が、差別化としては重要なんだと思います。どこのサーバーの品質が一番いいということも結局、測れないですから。結局、皆が使っているサーバーが一番いいという話になるんですね。ですから、そのポジションをいち早く、グローバルに確立していく。それが重要なのかなと。
産業への適応可能性
廣末:今回ブロックチェーンのテスト環境を提供された中で、おそらく色んな会社さんが試されて、その可能性を吟味して本格的に使っていこうということになっていると思います。田中社長としては、今後ブロックチェーンの適用事例が出てきて、色々な市場に波及していくということを考えた時、どういったかたちで産業に適応していくイメージがあるのでしょうか?
田中:いわゆる、横串で影響していくんだろうなと思います。特定の業界で適用して改善があったということではなく、色んな業界のいたるところで使われるようになるだろうと。例えば、金融業界でなら仮想通貨や決済として使われるでしょうし、IoTになると、データの記録という点で改善があるかもしれない。バックオフィスなら、事務作業をスマートコントラクトを使って自動化する、という話もありますよね。とにかく、どの業界に対してもインパクトを与えうるというのが、ブロックチェーンの面白さですよね。
廣末:それは技術者という視点から見てもそういうふうに思われるんですか?
田中:技術面でも、とにかくハードルが低いんですよね。導入するにしても、それほど手間がかからない。ましてやクラウドサービスとして加わればすぐに始められる。今までのように、何千万もかけてやっていく必要もないですしね。
廣末:意地悪な質問かもしれませんが、例えば今世界中のスタートアップがやっているオープンソースの、既にコスト安のインフラをあえてブロックチェーンに置き換えることにそこまでメリットがあるのかという疑問はあります。まったく新しいもの、IoTのマイクロペイメントをはじめ今ないものを作るためには使えると思いますが。
田中:そうですね。例えば、新しい何か技術革新がくるとですね、前の技術に比べるとすばらしい部分もあるんですけども、欠けてる部分もあるんです。
そこで欠けてる部分にフォーカスするか、優れてる部分にフォーカスするかによって、人の行動って全然変わると思うんですよね。その意味でいうと、『イノベーションのジレンマ』っていう書籍があるんですけど、いわゆる破壊的イノベーションと持続的イノベーションの対比。やっぱり持続的に成長してるイノベーションのほうが確実なんですよ。
人の必要とする要求レベルがこのあたりにあるとすれば、破壊的イノベーションはそれよりも低いんですよ。ただ並行してイノベーションが進んでいくと、古くからの技術、ユーザーのニーズが新しい技術とクロスしちゃうことがある。「もしかして、新しい技術の方がいいんじゃない?」となると、爆発的なリプレースが起きるんです。スマホなんかもそうですよね。ノートパソコンがタブレットに置き換わったのもそう。タブレットも最初は、これじゃ作業できないよとなってたわけです。
廣末:確かにそうでしたね。
田中:そうなんですよ。タブレットで置き換えられるわけがないと。もっというならカメラがいい例ですよね。デジカメが出てきた時は、品質も悪いし、JPEGで汚い画質でした。これならフィルムカメラの方が綺麗だしいいよねと。それが、だんだんと技術が改善されていったことで、ある瞬間を境に急激にリプレースが起きました。
それでまた、デジカメもいつしか持続的イノベーションになっちゃいまして。携帯のカメラは汚いし使いにくいから駄目だって言われていたのに、技術革新でまたクロスしたんですよ。2~3年前ですかね、デジカメがやっぱり売れなくなってきちゃったと。
ブロックチェーンに関しても、既存の技術よりも駄目なところはたくさんあるんですよ。ですが、使っているうちにどんどん改善されて、いつのまにか大丈夫じゃないかとなる。すると、今までの技術が一気にリプレースされますよね。既に取り組んでいた人たちは、爆発的な需要の恩恵を受けることができるわけです。ブロックチェーンは間違いなく破壊的イノベーションなので、何が起こるかわからないし、失敗することもあると思います。
廣末:田中社長としては、このテクノロジーが破壊的イノベーションであるということは確信されていると。
田中:おっしゃる通りです。あと、テクノロジーって存在するだけではイノベーションにならないんですよね。テクノロジーがイノベーションになるとき、それは実際に世の中を変えるときだと思うんです。
それでいうと、決済に中央管理を必要としないということを実現した新しいビットコインというテクノロジーが既にある。つまり、社会がビットコインというテクノロジーによって既に変わり始めた、イノベーションに変わり始めたということに他ならないと思っているんです。その瞬間を、ビットコインが生まれてからの6年で見つけたという感覚があります。
廣末:非常におもしろいです。なかなかこういう話は聞けないので。
−−−田中社長は実際にブロックチェーンを触ってみて、技術者の視点でどう思われましたか?
田中:これは簡単だなと。
廣末:何と比較して簡単だなと思ったんですか?
田中:要は、プログラミングをする観点ですよね。ソフトウェアも作ったことがありますけど、いろんなものをつくるじゃないですか。
廣末:ええ。
田中:その時はやっぱり適応が難しいものや、簡単なものがあるんですよね。はじめてデータベースを使った時、SQLを覚えるのが大変でしたから。その点ではブロックチェーンはそんなに難しくないんですよね。APIもありますし、それを素直に叩けばトランザクションが作れる、チェーンが伸びると。他の技術に比べると、非常にわかりやすいストラクチャだと思います。
廣末:なるほど、ありがとうございます。今回インタビューさせていただいて、非常に楽しかったです。
僕らは、ビットコインの技術に感激しちゃって、これはもう第2のインタ-ネットでしょと思いながら日々ワクワクしながらやってるわけですけど、なんかこう怪しげな企業のように思われることがまだあって。(苦笑)
田中:インターネットも最初、うさんくさいと思われてたんですよね…。
廣末:いや、本当そうです。インターネットの初期を考えると、女子が寄り付かないから逆に市場的に発展余地あり、みたいなところもあったりして。完全にオタクの世界です(笑)。いや、本日はありがとうございました。
田中:ありがとうございました。
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