海外メディアは8日、天皇陛下のビデオメッセージ公表を相次いで速報した。女性・女系天皇容認をめぐる論争が再び高まる可能性や、安倍晋三首相が掲げる憲法改正との関わりへの指摘が目立った。

 米CNNは「日本の天皇が異例の演説」との見出しで速報。スペインのエルムンド紙や仏ルモンド紙は、第2次大戦終戦時の昭和天皇の「玉音放送」や、東日本大震災直後のメッセージなどを引き合いに、極めて異例なものだと強調した。

 またイタリアのコリエレ・デラ・セラ紙(電子版)は、天皇陛下が最後の「現人神」だった昭和天皇の子息で、国民へのメッセージは極めて異例だと紹介。「力の衰え」を理由に、2013年に約600年ぶりに生前退位した前ローマ法王ベネディクト16世を思い起こさせると伝えた。

 英BBCは「天皇を一言で表すなら」と尋ねる日本での街頭インタビューをサイトに掲載。「心」「国の顔」などの回答を伝え、「天皇は日本国民に幅広く人気がある」と伝えた。

 ニューヨーク・タイムズ(電子版)は、皇室典範改正などで退位が実現すれば「皇室にとって戦後の大きな転換となる」とし、「女性への皇位継承容認をめぐる論争が再燃する可能性がある」と指摘。10年前の皇室典範改正論議の際に安倍首相を含む自民党保守派が強く反対したとも伝えた。

 英フィナンシャル・タイムズ紙(電子版)も、「時代遅れ」と批判のある1947年制定の皇室典範の改正につながり、女性や女系皇族の皇位継承の議論が再燃する可能性がある、と指摘した。

 ベルギーのルソワール紙(電子版)は、「天皇の生前退位を巡って、安倍首相がジレンマに直面する」との解説を掲載した。生前退位を認める方向に動けば保守層の支持を失いかねず、そうでなければ人気が高い今の天皇の意向に反するとして国民の支持を失うと分析。ただ、生前退位を今の陛下だけに認める特別法を制定すれば、保守層の反発を招く女性天皇の議論を回避しながらジレンマを解消し、政権の課題である憲法改正に取り組めるとも指摘した。

 中国でも、国営メディアが速報した。国営新華社通信は、天皇陛下の歩みを伝える中で、戦後70年の節目となる15年の元日に「満州事変に始まるこの戦争の歴史」を学ぶ大切さを述べたことなどを紹介。「日本国のシンボルとして、誇りに感じる源泉となっている」と強調した。

 中国外務省は朝日新聞の取材に対し、「日本の内政であり、コメントはしない」と述べた。ただ中国政府は、安倍政権の歴史認識や、憲法改正の動きを強く警戒。生前退位の意向が今後の憲法改正論議にどう影響するのか注視している。

 韓国では、朝鮮日報が、メッセージの発表から約2時間後に韓国語訳の全文をサイトに掲載。関心の高さをうかがわせた。

 文化日報(電子版)は「平和を強調してきた日王(韓国での天皇の呼称)が、安倍政権の改憲議論を阻止、遅延させるために生前退位問題を作り出したのではないかという分析も出ている」と伝えた。また東亜日報(電子版)は、皇室典範改正の議論が本格化すれば「安倍首相が戦争可能な普通の国を狙う改憲議論を思い通りに進めるのが難しくなる」と伝えた。

 台湾でも、中央通信が速報した。同通信は「生前退位への賛成が約7割に上っている」などとした日本の世論調査の結果も伝えた。