大石始と宇多丸 音頭じゃないのに盆踊りで使われる音楽ベスト5

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大石始さんがTBSラジオ『タマフル』にゲスト出演。宇多丸さんと、音頭の曲でもなんでもない曲なのに各地の盆踊りでかけられ、超盛り上がっている楽曲についてトーク。ランキング形式で5曲、紹介していました。


(宇多丸)ということで、ぜひこの『ニッポンのマツリズム 盆踊り・祭りと出会う旅』。これはある意味基本のね、基礎教養としてぜひお読みいただきたいんですが。今日はちょっと変化球ですね。


(大石始)変化球ですね。はい。

(宇多丸)ある意味、全く逆のアプローチということで。こんな面もあるという。J-POPやアニメソング、果ては洋楽など、音頭の曲でもなんでもない曲で盆踊りを踊るという奇っ怪な文化が日本全国津々浦々の夏祭りに存在するそうなんです。しかも、そこに住んでらっしゃる方にとっては、ごくごく普通のことという奇妙な現象。

(大石始)そうなんですよね。

(宇多丸)フクタケさんがDJでしていたような、たとえば洋楽風の曲を音頭にアレンジしたとか、そういうのでもないっていうことですよね?

(大石始)もう、だから音頭的要素、もしくは日本的な要素が一切入っていないのに、なぜか盆踊りで歌われている歌っていうのもが実はあるということなんですね。

(宇多丸)これって大石さんはどこでそれに気づかれたんですか?

(大石始)うーん……まあ、たとえばYouTubeなんかでですね、盆踊りとか音頭とかそういうものをいろいろ検索していると、なんかそういう、ある種エラー的なものに引っかかってくるっていう。「あれ? なんだ、これ?」っていう。

(宇多丸)こう、いろいろ見ていたのに、「あれ? 音頭じゃないのに、あれ? なんで……」。

(大石始)「しかも、これめちゃくちゃ盛り上がっているっぽいな! だけど、なんでこんなので踊っているんだ?」っていう曲がいっぱいあるんですよね。それで、なんでなんだろう?っていうことをどうしても探りたくなっていって、そっち方面でもずぶずぶ行っちゃったっていうところですね。

(宇多丸)ほー。で、いざ現地に行って話を聞いてみたりすると、やっぱりそれぞれに事情があったりとか?

(大石始)そうですね。「もうそういう曲で子供の頃から僕は育っているんですよ」っていう人もやっぱりいると。

(宇多丸)へー!

(大石始)だから、もうそういう人たちにとってはルーツミュージックになっちゃっているっていうのがあるんですよね。

(宇多丸)僕、ちょっと全く、本当にこれこそ全く想像がつかない特集なんで。ちょっと楽しみにしております。ということで、今夜は実際にどんな今日が音頭に使われているのか。あと、実際にどんな風に踊っているのか。だってね、音頭ってあのビート感があるから。「ポポンがポン♪」っつってね、音頭的な踊りになるんだと思い込んでいるんですが……(笑)。そうじゃないビート感の曲でどうやって踊るんだ?っていう。このあたりも、まあちょっとセットでお教えいただければと思っております。ということで、ここからは無駄にランキング形式で発表していくことになっております。音頭の曲じゃないのに音頭で使われている曲ベストヒッツ。意外な第五位は、こちら!

第五位 梓みちよ『二人でお酒を』



(宇多丸)なんでだよ!(笑)。第五位、梓みちよ『二人でお酒を』ということでございます。1974年発売のシングル。その年の日本レコード大賞で大衆賞を受賞した曲。リアルタイムじゃなくても、もう誰でも「ふたり~でお酒を~♪」って、もうね、誰でもわかる曲だと思いますけど……なんで?

(大石始)そうそう。「なんで?」っていう感じなんですが。東京では、西東京市の東伏見商栄会盆踊り大会というのでは、この梓みちよさんの『二人でお酒を』でずっと踊っているらしいと。

(宇多丸)えっ? 東伏見ピンポイントですか?

(大石始)ピンポイントです。

(宇多丸)もう隣に行ったら、「あれ?」っていう感じ?

(大石始)だと思います。

(宇多丸)ふーん。あ、ちなみにこの五位というのは、曲の知名度やインパクト、盛り上がりなどから独自に決めたもので、そこまで深い意味はございません。

(大石始)そうです。深い意味はございません。

(宇多丸)五番目にナントカとか、そういう意味はございません。ああ、そう? 東伏見ピンポイント。これはどうしてこういうことになっていったのか?

(大石始)うーん。で、これがですね、この間、7月30日、31日で行われまして。僕も行ったんですけども。まあ、盛り上がってるんですね。で、MCの方が「みなさん、お待たせしました。みなさん、よくご存知の梓みちよ『二人でお酒を』です。盛り上がってください!」ってバーッて話して、そこで子供からおじいちゃん、おばあちゃんまでがガッと盛り上がるっていう……

(宇多丸)子供。老若男女問わず?

(大石始)そうなんですよ。だから子供がですね、「恨みっこなしで 別れましょうね さらりと水に 全て流して♪」っていう曲で踊るっていう。

(宇多丸)アダルティーな曲で。

(大石始)もう、いいですよね。

(宇多丸)しかも、もう「待ってました!」みたいなことなんだ。

(大石始)そうなんですよ。だから人気の曲らしいんですよ。で、なんでこの曲が使われるようになったか?っていうのがこれがまた謎だというか。わからないと。

(宇多丸)それは結局、東伏見の人に聞いてもわかんない?

(大石始)わからないっていうことなんですね。

(宇多丸)町内会とかの人もわかんないんですか?

(大石始)もしかしたらわかる人、もしくは僕が振り付けをしましたよっていう人がいるのかもしれないんですが。その人に会ってみたいですね。

(宇多丸)えっ? 振り付けということはつまり、この『二人でお酒を』用の盆踊り振り付けがあると?

(大石始)あるんです。ちょっとね、ボックスっぽいステップっていうか。なんて言うんですかね?

(宇多丸)ああ、ボックスっていうのは1、2、3、4で四角く、こうやって……

(大石始)はい。ですね。いわゆる東京音頭みたいな、いわゆる日本舞踊的な振り付けではないんですが、そんな違和感はないなという感じで。

(宇多丸)これ、ちょっと絵面とかあったりするやつ? あ、絵面ないやつ。

(大石始)そうなんです。で、YouTubeにもこれ、上がっていないというですね。体験したい方は来年の東伏見商栄会盆踊り大会にぜひ行ってみてください。

(宇多丸)だって74年だから、そんなさかのぼれないほどの話じゃなかろうに……

(大石始)そうなんですよ。ここがポイントなんですけども。70年代とか80年代に起こっていることなのに謎がたくさんあるっていうのがまた非常に面白いところで。

(宇多丸)まあね。それこそ日本のヒップホップのことだって、90年代のことだってもうよくわかんなくなっちゃっているのもありますからね。そういうもんかもしれないけど。その選曲の絶妙さ込みで、なんかいい意味での引っかかりを残す……

(大石始)そうなんですよね。なんなんだろう?っていうね。引っかかるんですよね。

(宇多丸)東伏見っていうのがまたたまらん位置塩梅ですね。これね。

(大石始)で、この盆踊り自体が非常に盛り上がっているんですよ。で、すごくいい盆踊りなんですが、なぜかこの曲というね。

(宇多丸)ちょっとボックスっぽいのでこうやって踊って(笑)。まあ、ゆったりとこう……?

(大石始)そうそう。色っぽく踊っているんですね。子供とかも。

(宇多丸)へー! それだけ聞くだけでも、ちょっと見たいですよね。すごいことでございます。じゃあこちらちょっと、原因不明ということで、次に行かせていただきたいと思います。音頭の曲じゃないのに音頭で使われている曲ベストヒッツ、第四位はこちら!

第四位 荻野目洋子『ダンシング・ヒーロー』



(宇多丸)なんでだよ!(笑)。荻野目洋子さん、『ダンシング・ヒーロー』でございます。1985年発売のシングル。アンジー・ゴールド『Eat You Up』のカバー。売上30万枚以上を記録した荻野目洋子史上最大の大ヒット。まあ、こちらもね、当然もうみなさん、聞いたことがあるという方はいっぱいいらっしゃることだと思いますけども。なんでだよ!

(大石始)っていう感じですよね。

(宇多丸)こちらちなみに、今回多数、リスナーの方から『ダンシング・ヒーロー』に関してはメールをいただいているんですが。33才の方。(メールを読む)「自分が住んでいた名古屋や東海地区では荻野目洋子の『ダンシング・ヒーロー』を盆踊りで流していました。盆踊りなのですが、曲に合わせて櫓の周りで走って飛んで。もはや櫓を囲んでのサークルモッシュ状態です」というね、こんなメールを多数いただいているそうなんですが。これ、大石さんが採取されたのはどの地域ですか?

(大石始)ええとですね、これはいろいろ……

(宇多丸)各地にある?

(大石始)各地に。まあ、基本的にいちばん盛り上がっているとされているのが東海地区なんですけども。まあ、関東、東京とかでも非常に盛り上がっているし。まあ、「うちの地元でも踊っているよ」という方はたぶんいっぱいいらっしゃると思いますね。

(宇多丸)これはどういうルーツなんでしょうか?

(大石始)これはですね、謎が解けまして。これ、振り付けを付けた方っていうのがいらっしゃるんですね。で、この曲は85年11月に発売された曲ですけども。荻野目洋子さんですね。で、それに86年に名古屋を本拠地とする日本民踊研究会というのがありまして、そこの二代目の当時の会長さんの島田豊年先生という方がいらっしゃいまして。その方が振り付けを付けたらしいんですね。

(宇多丸)へー。じゃあもうすごい。さっそく翌年の夏には付いていたと。

(大石始)付けたらしいです。で、その会長さんの息子さん。いまの三代目の会長さんにこの間、インタビューをさせていただきまして。「どうしてこの『ダンシング・ヒーロー』にそういう盆踊りの踊りを付けたんですか?」っていう話を聞いたんですが。そしたら、その振り付けを付けた島田豊年先生っていうのはもともとモダンバレエとかをやっていたりして。割といろんな音楽に対して関心を持たれていたらしいんですね。それで『ダンシング・ヒーロー』を耳にした時に、「あら、これはいいじゃない。踊れるじゃない」っていうことで振り付けを付けて。で、またその日本民踊研究会っていうのは踊りの指導者の方がいっぱい在籍していて。

(宇多丸)ええ。

(大石始)その方が盆踊りのいろんなネットワークがあると。だからその日本民踊研究会から東海地区に踊りの輪がガーッと広まっていて。

(宇多丸)そのネットワークがある方がそもそも作っていたという。

(大石始)そうですね。で、なんでなのかな?って。ちょっと1個気になっていたのが、その東海地区で爆発的に広がっていったのには何らかの理由があるだろうなと思っていろいろとそのいまの会長さんに話を聞いたんですが、まあその会長さん曰くですね、名古屋っていうのはもともと古い盆踊り歌の伝統がないと。

(宇多丸)ああ、あんまり。そうかそうか。空白地帯だったと。

(大石始)だからこそ、新しい盆踊り歌を作るしかなかったということで、それで『ダンシング・ヒーロー』でそういう風に、新しくどんどんそういう盆踊りのカルチャーを作っていく土地っていうのが名古屋にあると。

(宇多丸)もともとこういうものが音頭だという形が比較的ない地域だったということ?

(大石始)そうですね。で、割と新しいものをどんどん取り入れていくという柔軟な盆踊りカルチャーっていうのが名古屋にはあって。それで、そこから火がついていまではもう全国にだんだん広がっていっているということらしいですね。

(宇多丸)へー。まあその広まるに至るのには、完全に理屈があったということですね。

(大石始)ですね。

(宇多丸)ただしですよ、やはり音頭と言うからにはというか。まあ盆踊りのビート感みたいなのは、なんとなくゆったりしたBPM感というかね。

(大石始)そうですね。ドドンがドンってね。

(宇多丸)ドドンがドンじゃないですか。だから『二人でお酒を』はゆったり感という意味ではまだ理解できたんですけども。『ダンシング・ヒーロー』はやっぱりめちゃくちゃ早いんで。

(大石始)そうなんですよ。だから盆踊り要素がある意味というか一切ない曲なんですけども、まあたぶん恐らくこの曲で子供の頃から踊っていたという方は非常に多いだろうと。

(宇多丸)ここでじゃあ、ネットにあるその『ダンシング・ヒーロー』で踊っている映像をちょっと私、ネット上の映像を拝見しております。こちらは?



(大石始)おん祭という岐阜県の美濃加茂市というところで行なわれている盆踊り大会なんですけども。これ、非常に規模が大きい盆踊り大会でですね。2001年には荻野目さんご本人が出てきて、実際に生歌を披露したと。

(宇多丸)ああ、本当? おおー、そんぐらい?

(大石始)それぐらい非常に盛り上がっていてですね。

(宇多丸)先ほどね、「サークルモッシュ状態」っていうのがありましたけど。まあ一応、パパンがパンっていうような手拍子を打ったり、手をクルクル回して左右に動いたりする盆踊りステップ的な要素はありますね。クルッと回って、ちょい跳ねて、移動して、みたいな。ただこの移動の瞬間にイエーイ! みたいな。

(大石始)そうそうそう。それが入るんですね。で、これいま映っているのは割と若い方が多いですけども。これ、各地の盆踊りでは本当におばあちゃんというか、踊りの先生の方々がこの振り付けで渋く当たり前のように踊っているというですね。

(宇多丸)へー! でもこれちょっと、やっぱりそのパンパンって立ち止まって左右に行ったり来たりした後の、イエーイ! でどんどん場所が入れ替わっていく感じ、ちょっとフォークダンスの楽しさみたいなのも込みっていうか。



(大石始)そうそう。そうなんですよね。たしかにだから、こういう輪になってどんどん踊るものって、たとえばマイムマイムとかそうですけど。割と子供の時からみんな馴染みがあると思うんですよね。まあ、それにつながる感覚っていうのはあると思うんですけど、なにせ曲調がこれですからね。

(宇多丸)いや、でもかなりノリノリに……っていうかもうめっちゃ楽しそう!(笑)。

(大石始)そう。これね、この踊りの輪の中に入ってやってみると、すっごい楽しくて。

(宇多丸)もうみんな、半端ない笑顔ですよね?(笑)。

(大石始)つまんなそうな人、1人もいないですからね。

(宇多丸)あ、こちらですね、番組のTwitterでもURL紹介しておりますので。もしネットを見れる環境の方はリアルタイムでこの多幸感を……えっ、ちょっと僕、でもね、輪に入りたい。これ。

(大石始)そうそう。そう思いますよね。

(宇多丸)で、見よう見まねでもやってみたくなるし。ねえ。来てらっしゃるからもちょっと左右を見ながら恐る恐るやってらっしゃる方もいるし。

(大石始)そうなんですよ。で、いろんな外国人の方もいらっしゃったりとかですね。これ、絶対に楽しいですよね。これね。

(宇多丸)これ、いいなー! ちょっと僕、うらやましくなりました。なるほど。ただ、こうやって映像で見るとたしかに盆踊りだなっていう感じはしますね。

(大石始)そうなんですよ。だから輪になって回るとある程度なんでも盆踊りになっちゃうっていうか。

(宇多丸)輪になって回って。あと、あれじゃないですか。止まってちょっと、二歩進んで三歩下がるみたいな動きがちょっと入ると盆踊り感に入ってくるのかな?っていう気もしますけどね。

(大石始)そうですね。それもありますね。

(宇多丸)はい。ということでまさかの『ダンシング・ヒーロー』、かなり定番化しているということですね。それでは次に行ってみましょうか。音頭の曲じゃないのに音頭で使われている曲ベストヒッツ、第三位はこちら!

Boney M『Bahama Mama』



(宇多丸)はい。ボニー・Mで『Bahama Mama』。1970年代、80年代に活躍したディスコバンド ボニー・Mが1979年に発売したシングル『Bahama Mama』でございます。

(大石始)来ましたね、ついに。お待たせしました。

(宇多丸)お待たせしました(笑)。そ、そうなんすか? そんな感じですか?

(大石始)そんな感じだと思います。

(宇多丸)『Bahama Mama』、こちらはどちらの地域で?

(大石始)ええと、これは関東を中心に割と広いんですね。東京とか千葉とか、割といろんなところで踊られております。

(宇多丸)ボニー・Mだったら他にもっと有名な曲とかある気もするんですけど。なんで『Bahama Mama』なのか?

(大石始)なんでなんですかね? まあ、『怪僧ラスプーチン』で踊るところもあるんですけど。やっぱり圧倒的にこの『Bahama Mama』ですね。

(宇多丸)ああー。まあ、70年代後半とかのディスコブームの時のなにかって、たとえば『ジンギスカン』が運動会でかかるとか。なんかそういう日本人好みのビート感みたいなの、あると思いますけどね。にしても、なぜか『Bahama Mama』。

(大石始)そうなんですよね。で、これもちょっとルーツというか、なんでこういう盆踊りに使われるようになったか?っていうのを絶賛調査中なんですがわからないところがあって。まあ、一説では80年代半ばにですね、千葉県の柏とか松戸とかですね、そのあたりから生まれたんじゃないか? という説とか。あと、米軍基地内の盆踊り大会で『Bahama Mama』に合わせて炭坑節の振り付けで踊っていたという話も、証言もあって。まあ一部の地域ではそのため、この『Bahama Mama』で踊る文化というのは『アメリカン炭坑節』という風に言っているところもあるらしいという……

(宇多丸)すごいね。『アメリカン炭坑節』?

(大石始)もうなんだかよくわからないですよね。

(宇多丸)ねえ。もう毎回僕、こういう話が出るたびに言ってますけども。MAXが売りだされた時のキャッチフレーズ「Jユーロ」っていうね。

(大石始)(笑)

(宇多丸)あれに通じるクラクラ感を感じますね。これね。へー! までもね、曲はノリノリはノリノリですもんね。これはじゃあ、映像は有りなんですか?

(大石始)これはございます。

(宇多丸)ではボニー・M『Bahama Mama』で踊っているネットに上がっている映像をちょっと私、拝見したいと思います。こちらはどちらでしょうか?

(大石始)こちらはですね、東京の墨田区のスカイツリー周辺で行われている盆踊り。

(宇多丸)あ、じゃあ結構バリバリ東京っていうかね。盛り上がっているところ。で、櫓があって、和太鼓を叩いてますよ。

(大石始)そうなんですよ。で、これが太鼓と鐘ですね。それをかなり乱れ打ちしているんですが。この普通の4つ打ちのこのビートにこの太鼓の乱れ打ちっていうのがすごいなっていう。



(宇多丸)この和太鼓のお兄さんは、これ、『Bahama Mama』に乗せているんですか?

(大石始)乗せています。乗せています。もう、ブレイクビーツみたいな感じですね。

(宇多丸)かなり間に、むっちゃくちゃ叩いてるじゃないですか。

(大石始)むっちゃ叩いているんですよ。本当に(笑)。

(宇多丸)めっちゃポリリズムになっちゃってるじゃないですか! ええーっ!

(大石始)そう。ポリリズムなんですよ。で、これをみなさん受け入れながら、みんな踊りの輪を作っていくっていうね。

(宇多丸)ただ、ちょっと先ほどの『ダンシング・ヒーロー』に比べるとちょっと若干輪の一体感が……若干雑な感じが。

(大石始)若干、まあポリリズム感が影響しているのかもしれませんね(笑)。

(宇多丸)あ、でもやっぱり決まった踊りだ。前に。あ、ちょっとだからさ、パラパラチックな感じなのかな?

(大石始)ただでも、これで踊っているのがかならずしも若い人だけではなくて。おじいちゃん、おばあちゃんも『Bahama Mama』で踊るという文化が根付いているところもあるというところなんですね。



(宇多丸)ああー。前に行ったり、後ろに行ったり、クルッと回ってみたいな。でも、通常の音頭よりは早いけど。ここにいるお姉さんなんか、すごい腰つきなんか、結構そこそこの年齢の方だとも思うけども。なかなかの腰つきで。

(大石始)そうなんです。いい感じなんですよね。

(宇多丸)はい。「スカイツリー Bahama Mama」で検索すると出てくるというね。はい。

(大石始)出てきますね。

(宇多丸)ああ、そうなんだ。スカイツリーなんてね、まさに新しい東京の象徴みたいな麓で、こんな奇怪な文化が(笑)。部族文化が生まれているということですね。さあ、いよいよ盛り上がってまいりました。ボニー・Mまで出てしまったら、この後はどんな曲が出てくるのか? 音頭の曲じゃないのに音頭で使われている曲ベストヒッツ、栄光の第二位は、こちらです!

第二位 チェッカーズ『ギザギザハートの子守唄』



(宇多丸)なんでだよ!

(大石始)ですよね(笑)。

(宇多丸)チェッカーズ『ギザギザハートの子守唄』。1983年発売、チェッカーズのデビューシングル。言わずと知れた曲でございます。いよいよディスコですらなくなってきましたよ。

(大石始)ディスコですらないんですよね。

(宇多丸)どういうことなんでしょうか?

(大石始)はい。で、これが踊られているというのが、ブラジルです。

(宇多丸)ん? ブラジル?

(大石始)ブラジルの日系人コミュニティーの中でですね、「マツリダンス(Matsuri Dance)」というカルチャーがあって。マツリダンスっていうのはどういうものか?っていうと、たとえばDJオズマとか、ORANGE RANGEとか、そういう曲に合わせて日系3世とか4世の子たちが和太鼓をその上に乗っけて、それで同じ振り付けで踊るという新しいカルチャー。マツリダンスっていうカルチャーが。

(宇多丸)へー! J-POPに乗せて。

(大石始)そうです。そうです。だからまあ、3世とか4世の方々なので、中には日本語も全くしゃべれない、日本にも行ったことがないという。まあ、そういう人たちがそういうマツリダンスっていうカルチャーをいま、どんどん大きくしているんですね。

(宇多丸)へー! えっ、振り付けってどういう振り付けなんですか?

(大石始)まあちょっとパラパラっぽい感じでもあるんですけども。このマツリダンスの『Roots Of Matsuri Dance』っていう曲があって、これがもうこの『ギザギザハートの子守唄』なんですね。

(宇多丸)えっ、えっ? 別名『Roots Of Matsuri Dance』?

(大石始)はい。『Roots Of Matsuri Dance』。もうみなさんご存知だと思うんですけども。

(宇多丸)いやいやいや(笑)。びっくりしましたけど。マツリダンスの魂のルーツと言えばこちら! 『ギザギザハートの子守唄』!

(大石始)そうです。

(宇多丸)これはどういうことなんだろう?

(大石始)これがですね、ブラジルのパラナ州っていうところがあって、そこのロンドリーナという大きな日系人コミュニティーがあるところがあるんですけども。そこの日系3世、4世の若者たちがこの『ギザギザハートの子守唄』で、これもまた炭坑節の振り付けで踊り始めたらしいんですね。

(宇多丸)ほー。

(大石始)で、それはもともとやはり自分の両親とかおじいちゃん、おばあちゃんの世代が盆踊りを踊っていて。恐らくそのオリジナルの炭坑節とかを踊っていたと思うんですけども。それの子供たちとか孫になると、やっぱり自分たちの新しい音楽で踊りたい、新しいものをやりたいということだったと思うんですけども。かと言って、どうやって踊っていいかわからないので、炭坑節で踊ってみたと。

(宇多丸)ああー、とりあえず合わせてみた。乗せてみた。

(大石始)で、そっからどんどん発展して、いまDJオズマとかORANGE RANGEとか、いろんな曲に発展しているということらしいんですね。

(宇多丸)へー! この『ギザギザハートの子守唄』で踊り始めた時期ってだいたいどんぐらいだったんですか?

(大石始)ええと、これは1990年代だったと思いますね。

(宇多丸)これ、ねえ。90年代にしてなぜこの選曲だったんですかね?

(大石始)それもね、たぶん選曲を「この曲でやろうぜ!」って言った3世か4世のロンドリーナの若者がいたと思うんですが。その人が新しいカルチャーをどんどん作ったと。

(宇多丸)でも想像するに、やっぱりそのおじいちゃん、ひいおじいちゃんたちのルーツにつながるものっていう意識で選んでいくと、この曲のちょっと演歌メロディーというか。向こうから見ればすごくアジアチックなメロディーに聞こえるだろうから。

(大石始)そうなんですよね。あと、この歌ってよく聞くと七五調なんですよね。だから、歌のリズムがある意味音頭に合うというか。

(宇多丸)ああー、そうか。じゃあ炭坑節とかを乗せても合うかもしれないと。なるほど、なるほど。

(大石始)だからそれをもしかして、無意識のうちでこの曲をセレクトした人はかなりの天才だと思いますね。

(宇多丸)たしかに、たしかに。しかし、大石さん。これって感慨深いんじゃないですか? だって世界のいろんなダンスカルチャーみたいなのを追っていった中で、グルッと回ってつながっちゃったよ! みたいな。

(大石始)そうそう。音頭でつながるっていうね。いや、本当そうなんですよ。感慨深いんですよ。本当に。

(宇多丸)えっ、でもそのマツリダンスっていうシーンがまた興味深いですね。これね。

(大石始)そう。これね、まあ「Matsuri Dance」ってYouTubeとかで検索していただくと、もう膨大な数の動画が出てくるんですけども。結構すごいですよ。もうスタジアムでグワーッ! とか盛り上がっていたりとか。

(宇多丸)えっ? そんな規模なんすか?

(大石始)もう数万人。

(宇多丸)えっ、そうなの? 小さな日系人コミュニティーとかじゃないんだ。

(大石始)もうすごいことになっていますよ。本当に。

(宇多丸)全然レイヴだ。ああ、そう。

(大石始)レイヴです。

(宇多丸)これは映像がまたあるんですか? これは。

(大石始)ですね。これはマツリダンス。あと、これは恐らくその日系人の団体だと思うんですけど。「Kyoushin」ってアルファベットで入れていただくと、YouTubeで引っかかるものです。

(宇多丸)ルーツ・オブ・マツリダンスの様子を……



(大石始)はいはい。

(宇多丸)まあ、和太鼓が置いてありますね。で、割と男女が、これは体育館みたいなところで。えっ? すげえ。結構めんどうくさい踊りをしてますけども。あれっ?

(大石始)これで始まって。

(宇多丸)ああ、これだ。でもさ、手の手刀を作ってシャッシャッていう動きと、ちょっとクイッとおじぎをするような動きと、パパンパパンって、やっぱり見よう見まねかもしれないけど盆踊り感みたいな。

(大石始)そうなんですよ。あと実際に炭坑節の、スコップで地面を掘るアクションっていうのもちゃんと残っているんですよね。



(宇多丸)ああ、そうかそうか! そういうことか。スコップか。いいね。これはそれがちゃんと残っている感じがグッとくる感じですね。これ、でもさ、実質踊られている人数から言えばナンバーワンじゃないの? じゃあ、そのね。

(大石始)まあ、そうなんですけども。ある意味またこれを超える衝撃度のがありまして。

(宇多丸)じゃあ一位はそちらということで。行かせていただいてよろしいでしょうか? じゃあルーツ・オブ・マツリダンスを超える音頭の曲じゃないのに音頭で使われている曲ベストヒッツ、記念すべき第一位は、こちら!

第一位 『とんちんかんちん一休さん』



(宇多丸)なんでだよ! はい。アニメ『一休さん』主題歌、『とんちんかんちん一休さん』(笑)。1975年から82年まで放映されたテレビアニメ、ご存知『一休さん』の主題歌。レコード売り上げミリオンセラーを超える大ヒット曲ということでございます。私もそりゃあもう、リアルタイム世代でございますので。しかし、もうなんだかわからない。

(大石始)ですよね(笑)。

(宇多丸)なんでしょうか、これは?

(大石始)これはですね、この間に行われた神奈川県横浜市鶴見区の総持寺というお寺さんがあるんですけども。そこで今年、69回目を迎えた御霊祭り盆踊り大会というのが毎年7月17日から19日まで行われるんですね。で、そこで踊られているのが、いろいろな歌が踊られるんですけども、いちばん盛り上がるのがこの『一休さん』なんですね。

(宇多丸)(笑)。いちばん盛り上がるのが?

(大石始)いちばん、もうめちゃくちゃ盛り上がるんですね。

(宇多丸)もちろん、結構ちゃんとしたと言っちゃあれですけども、ちゃんとした盆踊り大会で?

(大石始)そうです。そうです。

(宇多丸)大規模ですもんね。

(大石始)そうなんです。で、その総持寺というのも、曹洞宗の本山で非常に由緒正しいお寺で。で、櫓があって、総持寺の広大な駐車場の真ん中に大きな櫓を立てて。そこの周りを踊りの輪が作られるという形なんですけども。その櫓に上がっているのが、修行僧の人たちが上がっているんですね。

(宇多丸)ほうほうほう。

(大石始)で、その修行僧の人たちがめちゃくちゃ煽りまくると。

(宇多丸)ああー! 修行僧たちにとっての、もう俺たちのアンセムっていうか。

(大石始)ですね。で、これがですね、この間も僕、取材に行ったんですけども。もう盛り上がり方がちょっと尋常じゃなくてですね。で、まあその撮影したものがありまして。

(宇多丸)これ、大石さんが撮影してきた映像ですか? これ、僕がいま拝見できるのは。ちょっとじゃあ、すいませんね。拝見しますよ。



(大石始)はい。

(宇多丸)あ、これは音声つきでございます。結構巨大な会場ですね。

(大石始)そうなんですよ。これ、最後の最後ですね。エンディングの、これで終わるぞ!っていう。

(宇多丸)まさに、ザ・アンセム。えっ……(爆笑)。ああっ、すげー! えっ、なんて言ってるの?

(大石始)「ほっぺ、ほっぺ」。

(宇多丸)ほっぺ? ええーっ! すごいな!(笑)。

(大石始)(笑)

(宇多丸)この、なんて言うんですか? いままでの他の祭と比べても、踊りのその規模とか盛り上がりぶりもさることながら、いま衝撃的だったのがコール・アンド・レスポンスっていうんですかね? これがすごいじゃないですか。

(大石始)完璧ですよね。

(宇多丸)出来上がっている。

(大石始)で、来ている人たちももう完全にわかって来ていますよね。

(宇多丸)そうですね。しかもそれが曲に合わせたコール・アンド・レスポンスじゃなくてさ、アイドルのミックスって途中で。あれみたいに、なんか勝手に唐突なことを言ってるじゃないですか。「ほっぺ、ほっぺ」とか。

(大石始)でもね、「ほっぺ」っていうのは動きなんですね。だからその修行僧のリーダーが「ほっぺ、ほっぺ」って。

(宇多丸)ああ、そうかそうか。すごいよ、このレスポンス!



(大石始)めちゃくちゃすごいですよ。盛り上がり方が。

(宇多丸)こんな盛り上がっているライブ、ないよ!(笑)。ええーっ! ああ、そうなんだ。ええと、こちらは「総持寺 一休さん」。こちらの検索で出てきます。2015、2016。今年版も出てくるという。

(大石始)そうですね。

(宇多丸)恐ろしいわー。

(大石始)で、これでかなり盛り上がっているので、ある年はもう盛り上がりすぎて中止になった時もあるらしいんですね。

(宇多丸)(笑)。『一休さん』で?

(大石始)やりすぎちゃって。だからこの修行僧のリーダーの人たちも非常に、これでもコントロールしながらうまーく進めているわけです。

(宇多丸)マイクロフォンコントロールしているわけだ。

(大石始)そうなんです。危なく盛り上がりすぎるなっていうと、ちょっと落ち着かせる感じがあったりとか。途中でトークがあって、「曹洞宗の総本山である永平寺さまはどこにあるか、ご存知ですか?」みたいな話をしたりとか。そこらへんがちょっと、普通の野外フェスとは違うところで。

(宇多丸)でも、MCですよ。マスター・オブ・セレモニーですね。

(大石始)もう見事なコントロールでしたね。素晴らしいです。

(宇多丸)この盛り上がり。すごいですよね。N.W.A.とかじゃないですよね?(笑)。



(大石始)(笑)

(宇多丸)『一休さん』で盛り上がる(笑)。すごいな! 全く知らなかったですわ、これ。いやー、ちょっと驚きのシーンでございました。ということでこれね、リスナーのみなさまからもちょいちょい来てるのがあるのかな? 一通だけ、行きましょうか。(メールを読む)「宇多丸さん、こんばんは。今回、本来は音頭じゃない曲で盆踊りに興じるという謎の文化について語るということで、ついにあれを投稿するタイミングが来たと思い、メールを送ります。私の住む兵庫県伊丹市では、昭和50年ごろから田中星児さんの『ビューティフル・サンデー』で踊るという文化がついております。あの『ビューティフル・サンデー』に合わせて太鼓を叩き、みんなが踊るのです。盆踊りになった経緯は当時、伊丹市内の病院で働いていた研究医の方が余興のために作ったのが由来だそうですが、途中で腰をフリフリする独特なものです」というね。こちらも映像が見れたりするということかな?



(宇多丸)はい。ということでございます。田中星児さんご本人が登場して、今年は7月31日にやったなんていう、そんな情報も来ているということで。



(大石始)すごいですねー。

(宇多丸)日本人、やりますねー!

(大石始)いやー、やりますね。

(宇多丸)本当、大石さんのこの『ニッポンのマツリズム 盆踊り・祭りと出会う旅』という著書と合わせて読んでも、日本人、全然さ、本当パリピっすよね!


(大石始)いやー、そうなんですよね。

(宇多丸)つくづく思う。

(大石始)根っからのパリピだと思いますね。本当に。

(宇多丸)いや、でも本当にそう思いますね。しかも、なんか割と思ってるよりもその、伝統みたいなところに別に縛られているわけでもなんでもなく、割と好き勝手にめちゃくちゃな文化を生み出しているっていう意味で……

(大石始)いや、そうなんですよね。だからさっき、裏でフクタケさんとも話をしていたんですけども。やっぱり音頭って、本当に音楽の様式とかじゃなくて、もうスピリットとかアティテュードみたいな、そういうものにもなっているんじゃないかな?っていう感じがしますよね。

(宇多丸)本当、そうですよね。まさに、ルーツ・オブ・マツリダンスじゃないけど。なんかそういうのがつながってさえいれば……みたいな感じの力強さを感じます。さあ、ということで大石さん、最後にちょっと告知をお願いします。

(大石始)はい。『ニッポンのマツリズム 盆踊り・祭りと出会う旅』、発売中ということなんですけども。あとですね、この本の出版記念イベントを8月13日(土)に浅草のカフェ村のバザールというところでやります。

(宇多丸)はい。

(大石始)で、僕の撮影してきたお祭りの映像であるとか、あとアラゲホンジという非常にかっこいいバンドのライブがあったりとか、やりますんで。このへんの詳細は旅と祭りの編集プロダクションB.O.Nという自分がやっているプロダクションのホームページのブログに書いてありますんで、チェックしてみてくださいという感じでございます。


(宇多丸)もう旅行もしながら、取材もしながら文章も書いて。大変ですね、本当ね。あと、もちろん昨年のね、『ニッポン大音頭時代:「東京音頭」から始まる流行音楽のかたち』。こちらもね。


(大石始)ありがとうございます。そして雑誌『サイゾー』で『マツリ・フューチャリズム』という連載もいまやっておりますので。そちらの方も、『ダンシング・ヒーロー』のこととかを書いています。


(宇多丸)はい。ということで、素晴らしかったです。もう、びっくりしました。目からウロコ落ちまくり。衝撃を受けまくりの特集でございました。ありがとうございます。今年もライド・音頭・タイム。音頭最前線2016でした。大石さん、そしてフクタケさん、ありがとうございました!

(大石始)ありがとうございま下。

(宇多丸)また来年、よろしくお願いします!

<書き起こしおわり>

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