■象徴天皇のあり方 西村裕一さん(憲法学者・北海道大学准教授)

 「象徴としてふさわしいあり方」を果たせないのであれば退位もやむを得ない、というのが天皇の意思だと報じられ、一連の議論の出発点になっています。前提には、天皇は象徴である以上「象徴としての務め」を果たすべきだという考えがあるのでしょう。

 しかし、日本国憲法4条は「天皇は、この憲法の定める国事に関する行為のみを行ひ、国政に関する権能を有しない」と定めています。したがって、天皇には国事行為以外を行う「能力」を求めてはいけない、というのが憲法の立場だと解することもできます。

 にもかかわらず、現天皇は積極的に「象徴としての務め」の範囲を広げてきました。とくに先の大戦にまつわる「慰霊の旅」のように、「平成流」に好ましい効果があることはたしかです。しかしそれは、民主的な政治プロセスが果たすべき役割を天皇にアウトソーシングするものともいえます。

 まず問われるべきは、天皇に一定の「能力」を要求するような、現天皇が行ってきた「象徴としての務め」のあり方でしょう。

 生前退位の可否については、天…

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