前所属事務所による巧みな囲い込みでアダルトビデオ(AV)に出演させられたと告発した現役AV女優の香西咲さん(30)が、毎日新聞の動画インタビューで、事務所社長A氏らから受けたという“洗脳”の内容を詳細に語った。
【動画】AV出演を続ける理由について語る香西咲さん
事務所関係者と特定の占師以外、家族や友人であっても連絡は遮断され、「考え方がポジティブになるノート」を繰り返し書かされたという。香西さんは「A氏は自己啓発セミナーに通い、そのノウハウを私たちで実践していた」とも証言した。
A氏は取材に対し、「(AVに)出る意思がない人を出すことはない」と反論。香西さんが刑事告訴や損害賠償訴訟を準備していることを踏まえ、「事実は裁判で明らかになる」と語った。【AV問題取材班】
◇出来過ぎた「偶然」
--前所属事務所による「洗脳・囲い込み」とはどのようなもの?
香西さん 家族や友達とも遮断され、ずっと「(経営者になる)夢のために」と聞かされてきました。相談できるのは事務所と(A氏が紹介する)占師だけで情報が完全に偏っていた。洗脳は具体的にされてみないと分からない、というか、されている時も気付かない。まだ完全に解けていないのかもしれません。
--事務所の見極めは難しい?
香西さん 今はネットで所属女優や代表者を確認できますが、私の時は判断材料がありませんでした。事務所の名前も(聞かされていたものと)違ったし、「エロ」が一切書いてない芸能の契約書にサインしただけ。事務所を決める際はネットの反響や書き込みもチェックし、「1回入ったら辞められない」という覚悟でとことん調べてください。あと、スカウトには気を付けた方がいい。都合のいいことしか言ってくれませんから。
--どのようにスカウトされた?
香西さん (週刊誌で一緒に告発した)佐藤さん(仮名)と私は、実は同じスカウトに声を掛けられています。有名アイドルがいる超大手事務所の名刺を出してきました。佐藤さんもちょうど事務所を辞めたところで、私も前の事務所が解散したところ。何か情報を聞きつけていたのかもしれません。偶然にしてはちょっと…。五反田駅でスカウトされて六本木ヒルズのレンタルオフィスに通され、そこで8カ月(A氏らと)話しました。時間も手間もすごくかけられていた。15人くらいに囲まれ、ずっと環境を変えさせられて。さすがにそこまでされると判断がつかなくなります。
◇まるで自己啓発セミナー
--事務所について自分で調べましたか?
香西さん 社名を(ネットで)検索しても出ませんでした。まず、デビューするまでAVということを知らなかった。出演するのはイメージビデオだと聞いていたので、AV事務所をあまり調べていません。事務所のサイトがないことを問いただすと、A氏には「女の子を抱えるのは初めてだから」と言われました。
--疑わなかった?
香西さん 知り合いの弁護士に相談したところ「この事務所には実体がない」と言われました。それをA氏に伝えると、「あるだろう。ほら」と、登記簿と印鑑証明を目の前にたたき付けられた。契約書の内容も直してくれて、「やりたいようにやっていい」と言うので、信用してしまったんです。
--当初から弁護士に相談するくらい慎重だった?
香西さん そうですね。すごく慎重にやっていたつもりでした。所属事務所は一生もので、移籍するのも大変ですから。
-- それでも見抜くのは難しかった?
香西さん 難しい。最後の最後にはやっぱり信じたくなってしまった。納得いかない部分、なんとなく怪しい部分があっても(だまされていないと)思い込みたい。そこが洗脳なんだろうなと。精神安定剤を飲んで不安をかき消していました。(A氏の指示で)「ビジョンブック」という「ポジティブになるノート」も書いていました。ブログにも「今、楽しくてしょうがない」とか、自分に言い聞かせるように書いていたんです。A氏は自己啓発セミナーによく通っていて、もともと心理学やカルトの好きな人。私たちを使って(ノウハウを)実践するのが楽しかったみたい。
アメとムチを使い分けるんです。基本的に優しいのですが、「このままババアになって一生誰にも相手にされないぞ。それでいいのか」などとたまに脅す。(AVデビュー作の)発売直前に「やっぱり嫌です」と言うと、「ふざけるな。ここまでお前にどれだけ(金が)かかっているんだ」と言う。一方で、たまに泣き出して「お前が必要なんだよ」と言ってみたり、すごく人の心を操るのが上手でした。
--A氏から「AVに出て」と直接は言われていない?
香西さん その通りで、ビジョンブック(に書くこと)を詰める時に「俺だったら『女』を最大の武器にする」と言うんです。過去にヌードになった女優や議員を引き合いに出し、「こういうポジションを俺だったら目指す」とずっと言われ、私はメモしていました。いつも「ストーリー仕立てのイメージビデオを3本作って起爆剤にする」と言っていましたが、今になってみると、AVは3本契約が多いので「そういうことだったんだな」と分かります。
◇後輩たちも「夢の中」
--名前も顔も出して告発すれば、業界内の反発も予想されます。もしかしたら、AV女優としての生命を絶たれるかもしれない。
香西さん 覚悟の上です。既に「SEXY-J」という(AV女優が歌う)ユニットのメンバーからは外されました。
--なぜそこまで覚悟を決められた?
香西さん AVが夢にはつながらないことに気付き、ダラダラやっているのはよくないと思ったんです。「続けてもあと1年ぐらいかな」「その間にAVで失った人間関係や健康状態を取り戻そう」と思っていたタイミングで、出演強要が社会問題化しました。フラッシュバックにもずっと悩まされてきたので、いつか決着をつけなければいけないと思っていた。この(被害の)連鎖はもう止まらない。(A氏が)どんどん新しい子を入れているのも分かっていたので、世の中のためにもなると思いました。
--今も同じような目に遭っている女優がいる?
香西さん いますね。(被害に)気付いていないと思います。「夢の真っ最中」の子もいます。
<A氏は25日、毎日新聞の電話取材に応じた。一問一答は以下の通り>
◇女優との契約「見直す」
--最初の撮影がAVだと香西さんに言わなかった?
A氏 私は立ち会っていないが、制作会社のプロデューサーが事前に本人に撮影内容を説明したと聞いている。
--香西さんと2人で「今回はAVデビュー作だよ」と確認し合ってはいない?
A氏 しているとは思うが、説明と同意がないと撮影はできないので、(確認の有無は)うちの問題というより制作会社(の問題)。撮影できなくなれば、制作会社の損害も大きい。
--デビュー作発売直前に香西さんから「やっぱり辞めたい」と言われた?
A氏 それはないと思う。
--その時に「お前にどれだけかかったと思っているんだ」と言ったのでは?
A氏 一切、言ったことがない。
--事務所スタッフで取り囲んで情報を遮断し、洗脳したのか?
A氏 本人が「提訴する」と言っている。そういう事実があるのなら、そこ(法廷)で明らかになる。
--香西さんに占師を紹介した?
A氏 芸名をつける時に。画数のことなどがあるので。
--はじめは出る意思がない人を出させるために(囲い込みなどは)必要な過程だった?
A氏 出る意思がない人を出す気はないし、出すことはない。
--「出る気になるようにサポートする」ということか?
A氏 そういうことはない。
--香西さんは「(A氏が)自己啓発セミナーに通ったり、カルトに強い興味を持ったりしていた」と話しているが。
A氏 特にない。
--自己啓発セミナーには行っていない?
A氏 いや……。本を読んだりはする。「やる気を出す」とか、自分のためにも必要だから、勉強したいとは思っていた。
--そのノウハウを使って女優に働きかけたことは?
A氏 それは特に……。そういうことをレクチャーできるわけではないので。
--香西さんに取引先の社長の性接待をさせたのか?
A氏 「大人のおもちゃ屋をやりたい」と希望していたので、いろいろな人に会わせた中の1人。性接待させる気はなかった。2人がどういう関係になるか、制限する気はない。
--出演強要が社会問題化している。事務所の運営や女優との契約について見直しは?
A氏 当然やっていく。今、弁護士と話して、きちんとしていこうとしている。
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