■サンライズ
荻窪からのバスを降りた正面には、ガンダムの銅像が晴れた空に手を伸ばしています。駅のホームから「翔べ!ガンダム」の発車メロディが聞こえてくることも。上下線で、別の部分が使われているのでお時間ある方は聴き比べてみては。
商店街を歩いていると、いたるところにサンライズ作品のポスターやシャッターのペンキ絵があって、上井草のサンライズ愛を感じずにいられません。
写真:著者撮影
■初めての打ち合わせ
メールで届いた地図を見ながらサンライズのスタジオへ。おそるおそるドアを開けると、プロデューサーの松村圭一さんと設定制作の泉英儀さん。直接お会いするのは初めてなので名刺交換。よろしくお願いします。そして会議室には下田正美監督とデザインディレクターのハタイケヒロユキさん。お二人にはちょっと前に御挨拶しました。これから一緒に仕事をすることになるみなさんです。本連載でもお世話になっています。
監督は作品のすべてを把握し、各パートからの意見をまとめ、どのアイデアをどう使うかなど次々に判断していきます。そのスピードには初日から驚かされました。議論が混乱し始めても、すぐに監督によって速やかに論点が整理されるのです。デザインディレクターのハタイケさんの話では、下田監督くらい思考の速い監督は会ったことがないとのこと。そういうハタイケさんも、作品内のデザインがより効果的に見えるためのアイデアをいくつも提案していきます。
プロデューサーは製作の日程や予算を管理して、「作品のどこにどれくらいのカロリーをかけられるか」を調整します。より良い作品になるよう、製作全体を統括するのが松村プロデューサーなのです。設定制作の泉さんは各種打ち合わせが円滑に進むよう、ありとあらゆる手配をします。設定資料の整理や各パートの進捗状況の管理、打ち合わせの議事録作成など、設定制作の仕事は膨大です。
■SF考証の領域
SF考証は作品世界の法則そのものを決定する仕事です。たとえば年代設定は、その世界の科学力や社会基盤のレベルを決めるという意味で、SF設定の典型であり根幹であると言えるでしょう。登場人物の衣食住から思想まで、あるいは作品の世界観や物語の構造についても、SF考証はできるかぎり細部まで理解した上で、世界を設定しなければならないのです。
©サンライズ・プロジェクトゼーガ
■SF考証になるまで
ぼくは創元SF短編賞を受賞した翌年から、東京創元社のWebミステリーズ!で、取材エッセイ「想像力のパルタージュ 新しいSFの言葉をさがして」を毎月連載しています。そのなかで去年の夏、AI研究者の三宅陽一郎さんにお話をうかがうことができました。このときはゲームAIがテーマでしたが、『ゼーガペイン』でもAIは不可欠の要素です。
今年の一月、三宅さんがAI勉強会を兼ねた新年会を開催し、そこにぼくを招待してくれました。勝間和代さんやライゾマティクスの真鍋大度さんがいらした会で、たまたま席が隣りだったのが『ゼーガペイン』デザインディレクターのハタイケさんでした。自己紹介として取材エッセイのことを話すと、新しいSFを作りたいですよねと意気投合して、話が盛り上がっていきました。ハタイケさんは『ゼーガペイン』の世界観を広げるため、精力的に最先端テクノロジーのリサーチをされていて、AI研究者の三宅さんともお知り合いだったのです。
その会のあと、二月くらいでしたか、ハタイケさんと荻窪の喫茶店で会うことになりました。ありがたいことに拙作「ランドスケープと夏の定理」や「わたしを数える」を読んでくださっていました。ぼくとしては『ゼーガ』製作時のエピソードやハタイケさんが進めているAIやVR関係のリサーチのことをうかがうだけで楽しかったのですが、何度目かにお会いしたとき劇場公開作『ゼーガペインADP』のお話になり、SF考証として参加してほしいと言われたのでした。
■そしてSF考証に
ぼくは、もし機会がありましたら是非と返しましたが、さすがに新人作家のぼくがSF考証になることにはならないだろうと思っていました。ところがその数日後には下田監督に紹介していただいて、これはどうも本当にSF考証になれるのかなと期待しつつ、とはいえ半信半疑のまま数日が過ぎ、ぼくは初の打ち合わせに行きました。
「ランドスケープと夏の定理」での受賞から「想像力のパルタージュ」の連載、AI研究者の三宅陽一郎さんからハタイケさん、そしてSF考証に——という一連の展開は、小説に書いたら「ご都合主義だ」と批判されそうですが、実際にこの二年間ぼくが体験したことなのです。
©サンライズ・プロジェクトゼーガ
■初仕事とその日の後で
初めての打ち合わせでは、ある場面の背景デザインについて話し合いました。『ゼーガペイン』は情報工学や生物学、数学や物理学など、多彩な学問領域のエッセンスを取り込んでいますが、このシーンのデザインは数学系でいこうということになり、アイデアや画像を集めてくるのがSF設定としての初仕事になったのです。
この日はみなさんのタイミングが合い、じゃあせっかくだからと、急遽ぼくの歓迎会をしていただくことに。魚民上井草店で他のスタッフの方々もいらっしゃって大変楽しい夜になりました。
■???
荷物を取りにスタジオに戻ると、小さな女の子が会議室の机のうえに立っています。
「初日はどうだったかナ」
よく見ると、彼女のつま先は机に触れておらず、ふわふわと浮いているのでした。
「えっと、きみは?」
会議室にはいつのまにかハタイケさんも。ハタイケさんは彼女が見えているのか見えていないのか、謎の笑みを浮かべています。
「アタクシは支援AI。挨拶だけしようと思って。でも今日はもう文字数がないみたいです。またこんど手伝ってあげるんだナ」
ということで次回もよろしくお願いします。