こんにちは、ピコシムです。
日本では、労働環境が他の先進国に比べて悪いことが知られています。
長時間労働、サービス残業、非人権的な労働が問題になっています。先日も、NHKで『社畜』について取り上げられました。労働は私たちの身近な問題です。
今日は、サラリーマンや学生に読んで欲しいオススメの1冊、ジェリートナー、橘明美訳の作品『奴隷のしつけ方』を3回シリーズで紹介します。
『奴隷のしつけ方』は、2000年前の古代ローマ時代の、奴隷の労働環境と21世紀の経営者と従業員の関係性と、対比することができる良書です。
この本は、現代におけるドラッカーのマネジメントに非常に似ています。
- いかに奴隷のパフォーマンスを上げて、農場経営を成功させるか。
- いかに奴隷に奴隷を管理させる仕組みを作って、主人は楽に資産を保全するか。
が本書で触れられています。
これを読むと、労働とはかつて奴隷によって支えられていた事と、労働の本質は2千年もの間変わっていないことに戦慄するでしょう。
著者のトナー教授は、ケンブリッジ大学で、古代ローマ社会文化史を専門とする研究者です。
2000年前の「庶民」や「大衆文化」を切口にした、原題 How to Manage Your Slaves(奴隷管理法)を翻訳した本です。
内容の大半は紀元後一世紀から二世紀の帝政期のローマ社会。
解説者のトナー教授は伝えます。
これはまさに古代ローマ人の目から見た奴隷管理法です。奴隷制は古代ローマの全時代を通して社会の基盤でした。あまりにも当然のものだったので、そんなものはいらないという人はいませんでした。
奴隷のしつけ方 解説者挨拶より
現代で言うところの、労働者のマネジメントです。奴隷制を労働者や社員に言い換えると、現在と古代ローマとの比較が簡単で理解しやすいです。
本書は11章で構成されています。
第1章 奴隷の買い方
第2章 奴隷の活用法
第3章 奴隷と性
第4章 奴隷は劣った存在か
第5章 奴隷の罰し方
第6章 なぜ拷問が必要か
第7章 奴隷の楽しみ
第8章 スパルタクスを忘れるな!
第9章 奴隷の解放
第10章 解放奴隷の問題
第11章 キリスト教徒と奴隷
本書を読む上で、
- なぜ、日本では社会人という単語があるのか
- なぜ、労働を美徳とする思想が蔓延し、サービス残業や賃金未払いが横行するのか
- なぜ、サラリーマンの副業が禁止されているのか
- なぜ、非正規労働者の労働待遇は、正社員と差別されているのか
このような視点で、現代と古代ローマ時代を対比することで、日本の労働環境と2000年前のローマと何が違うか、同じかが見えてきます。
かつ、私たちがどのように教師や経営者、上司に教育されてきたかも見えてきます。
結果として、
- 俺らは古代ローマ時代の奴隷と同じじゃないか!とか
- むしろ、2000年前の奴隷の方が俺らより全然まし!
といった、日本の労働環境の悪さ(もしくは環境の良さ)にいかに盲目的になっているか理解できます。
この本の著者は、マルクスシドニウスファルクスとなっていますが、トナー教授が膨大な古代文献を参考にした、古代ローマ時代の架空の人物です。
奴隷とは何か?
現代の私たち日本人には、奴隷という存在が何なのか想像がつきません。
現代の奴隷の定義は、
[1]自分の労働対価を得られず、経済搾取を受けている。
[2]搾取状態に陥る際、暴力・威嚇・恐怖によって囚われている。
となっています。
最も有名な奴隷は、アメリカ合衆国で16世紀から19世紀までに、アフリカから連れてこられた推定1200万人の黒人奴隷です。劣悪な奴隷船で連れてこられ何万人も死者がでました。
タバコ農場で働く黒人奴隷 wikipedia Commons
1970年代まではアメリカでは元奴隷の黒人には選挙権もなく人種差別されてきました。
その後、徐々に差別意識は変わってきているものの、現在でも白人警官が無抵抗の黒人に発砲して死亡させる事件が度々ニュースになります。
現在でも世界中に推定1200万人から2980万人の奴隷状態に置かれている人々がいるとみられています。
古代ローマの奴隷と日本の労働者の比較
では、古代ローマの奴隷と現代の労働者では何がどう違うでしょうか。
古代ローマ時代
- 自由身分の使用人は『人間』として認められた
- 奴隷は使用人の『道具』『資産』として所有
- 奴隷の反対は自由身分の『ローマ市民』
- 待遇の良い都市部の奴隷と、劣悪な環境で足枷をつけた農村の奴隷がいた
- 待遇の良い奴隷は、自由身分になることを拒否し奴隷であり続けることを望んだ
- 奴隷の解放はファミリアの主に税金がかかるため解放することは少なかった
現代
- 日本国憲法で定める『基本的人権の尊重』で、誰にでも人権はある。
明治以降日本では奴隷は存在しないことになっている - 日本では正社員は多くの場合、その身分が終身雇用で保証され解雇規制で守られる
- 非正規社員、派遣、パート、アルバイトは、時に帳簿上の物品費、雑費(道具)として扱われ問題になる
- 非正規社員は、正社員と比較して低賃金、福利厚生の薄さ、有期雇用で雇用契約を解除しやすいことが問題になっている。
- 残業代未払いの労働者は、『自分の労働対価を得られず、経済搾取を受けている』状態→現代の奴隷
- 不当にパワハラ、モラハラを受けている労働者は、『搾取状態に陥る際、暴力・威嚇・恐怖によって囚われている』状態→現代の奴隷
この構図は人類の歴史上2000年が経ってもあまり変化していません。
格差社会が問題になっていますが、経済が拡大して奴隷(労働者)の価値が上がらないかぎりは、奴隷の待遇も改善しない点が、現代と類似しています。
古代ローマと現代の日本と似ている点
若い奴隷の購入
私の友人に奴隷を買うなら若い戦争捕虜と決めている男がいるが、これも理由は同じで教育しやすいからだ。
奴隷のしつけ方 第1章 奴隷の買い方
新卒一括採用で、若くい労働者を囲い込みをするところは21世紀になっても変わりません。
古代ローマでは奴隷の相場は決まっていて、子どもや老人は若い奴隷よりも価値が下がります。
現代の中高年の非正規雇用報酬が低く、労働環境が悪いことは2000年前と何ら変わっていないことを示唆します。
やる気のある奴隷の扱い方
むしろ初めは好きなだけ食べさせてやったほうがいい結果がでる。また気前よく褒めてやること。特に仕事に欲を見せている奴隷は、褒められることでますますやる気を出す。
奴隷のしつけ方 第1章 奴隷の買い方
やる気に満ちあふれている若い奴隷を、褒めてもっとやる気にさせて、会社の利益を出してもらおうという経営者の心理は、昔も今も変わりません。
現代ではマネジメントという言葉で表現されて使われています。
褒賞と罰、ムチばかりでは奴隷は絶望する
人は希望があればどんな苦しみにも絶えれれるが、絶望すれば自暴自棄になり、何をしでかすかわからない。
奴隷のしつけ方 第9章 奴隷の解放
奴隷にムチばかり与えると、奴隷は疲弊します。奴隷を従業員に言い換えると、現代でも全く変わりません。
罰や規制ばかりしても、従業員のパフォーマンスは上がりません。
ブラック企業に勤める労働者を彷彿させます。彼らは自らのことを社畜と言っています。
また自暴自棄になって事件を起こす人も出てくるところは、現代も変わりません。
外出禁止
主人が許可した場合を除き、奴隷たちを領地の外に出さないこと。
奴隷のしつけ方 第2章 奴隷の活用法
現代日本では、本来労働者は休憩時間を自由に過ごせると、労働基準法に定められています。
しかし、正当な理由がなく、社内規則で休憩時間の外出禁止や、許可制にしている場合が多く存在します。
また、本人の意思に反して仕事を辞めることができない(強制労働)などの状態は、労働者の行動の自由が極端に制限されていることが奴隷の特徴の一つです。
副業禁止
(奴隷は)片手間で自分の商売をしないこと。それを許せば注意散漫になるだけだ。
奴隷のしつけ方 第2章 奴隷の活用法
現代では、労働契約によって、就業時間以外は自由身分のはずですが、日本では民間企業の7割ので副業を禁止されています。
世界の先進国では、労働契約で就業時間後は個人の行動を規制できないことになっていますが、日本の労働環境は、2000前の古代ローマの奴隷の扱いと類似していることに、驚きを隠せません。
(アメリカの場合殆どの公務員や民間人は副業規制を受けていない)
(日本の場合公務員が副業で営利活動禁止と人事院が勧告しているが、裁判では不起訴になることが多い)
奴隷は劣っている存在か
マルクスシドニウスファルクスは、現代の私たちに問いかけます。
奴隷の社会的地位が低いからといって道徳的にも地位が低いことになるのか、もし奴隷が主人より道徳的に劣るわけでないとしたら、奴隷制を正当化できるのかといった疑問をなげかけた人々もいました。
奴隷のしつけ方 第4章 奴隷は劣っている存在か
文中の『奴隷』を『非正規社員』や『派遣・パート・アルバイト』に置き換えたら、現代の労働問題と違和感がありません。
古代ローマでは、戦争捕虜や奴隷が産んだ子供を、奴隷として扱うことは倫理的に正しいことなのか問題になりました。
現代で言い換えるなら、
非正規労働者の父親と母親の間に生まれた子ども、もしくはシングルマザーに育てられた子どもは、経済的貧困から間接的に高等教育が受けれません。
非正規労働者の間に生まれた子どもが、社会システムの問題によって非正規労働者にならざるを得なくなることは、倫理的に問題はないのでしょうか。
(子どもの6人に1人が相対的貧困、シングルマザーの相対貧困率は52%)
では、なぜ2千年前と同じ問題が繰り返されているのか。
これを理解するには、奴隷制度の仕組みを学ぶ必要があります。
次回は、『なぜ奴隷制度が誕生したのか』を探ります。
最後までお読み頂きありがとうございました。次回もお楽しみに!
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