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老朽原発の延命 「40年廃炉」の骨抜きだ

 老朽原発の運転延長が、立て続けに認められようとしていることに、大きな危惧を抱かざるを得ない。あくまでも「例外」とされた措置が、普通のことになってしまった。

     福島第1原発事故を教訓に見直された原子力安全規制は事実上、大きく方向転換したことになる。

     関西電力が40年を超えた運転を目指す美浜原発3号機(福井県)について、原子力規制委員会は新規制基準への合格証となる「審査書案」を了承した。11月末までに追加の審査に合格すれば、最長で2036年まで運転が延長できる。

    「例外」が普通のことに

     老朽原発の運転延長は、今年6月に認可を得た関電高浜原発1、2号機(同)に続き3基目となる。

     福島第1原発事故後、原発の運転期間を原則40年とする法改正がなされた。老朽化による原発のリスクを低減するためだ。福島第1原発で炉心溶融した1〜3号機は運転開始から約35〜40年が過ぎていた。

     導入当時の民主党(現民進党)政権は、40年の根拠を「圧力容器が中性子の照射を受けて劣化する時期の目安」と説明し、法改正には野党だった自民、公明両党も賛成した。

     規制委が認めれば1度限り、最長で20年間の延長を認める規定が盛り込まれたが、あくまで「例外的」な措置のはずだった。日本は地震と火山の国だ。原発に依存し続けるリスクは大きい。多くの国民も、40年原則を当然だと受け止めたはずだ。

     原発の安全性を向上させるためにも、脱原発依存を進めるためにも、政府と電力会社は40年廃炉の原則を厳守すべきだ。

     老朽原発の部品は新品に交換できても、施設の配置などは古い設計を変えづらく、安全性向上には限界があるとされる。古い技術をどうやって継承していくのかも、大きな課題となっている。

     こうした老朽原発のリスクを重く見るのなら、運転延長の審査は、通常の原発に比べても、格段に厳しいものであるべきだ。

     ところが、高浜、美浜両原発の運転延長に関する規制委の一連の審査では、むしろ、関電を手助けしているようにすら見える。

     高浜原発は今年7月が認可の期限だった。美浜原発は運転開始40年の前日となる11月末が期限となる。

     審査期間が限られる中、規制委は担当者を両原発に集中させ、安全審査を申請済みの他の原発よりも優先して審査してきた。

     しかも、審査が時間切れになるのを避けるため、重要な機器を実際に揺らして耐震性を確認する試験を、運転延長の認可後に先送りした。

     認可後の試験で耐震性に問題ありと判定された場合でも、認可は取り消さず、追加対策をして確認をやり直せばよいという。この問題については、規制委の一部委員からも「確認のやり直しは社会の理解を失う」との批判が出たほどだ。

     老朽原発では、燃えやすいケーブルを使っていることが問題視されていた。新規制基準は全ケーブルの難燃化を求めているが、すべて難燃性ケーブルに交換するには膨大な費用と時間がかかる。規制委は、交換が難しい箇所を防火シートで覆うという関電の代替策を認めた。難燃性ケーブルを使う場合と同等の安全性が保てるのか、疑問が残る。

    疑問募る委員長の発言

     規制委の田中俊一委員長は就任当初、原発の40年超運転について「延長は相当に困難」と述べていた。しかし、最近では「費用をかければ技術的な点は克服できる」という言い方に変わった。電力会社の代弁者のように聞こえはしまいか。

     福島第1原発事故後に廃炉が決まった老朽原発は、東電分を除くと6基ある。ただ、出力は30万〜50万キロワット級と小規模なものばかりだ。

     一方で、美浜3号機や高浜1、2号機は出力が80万キロワット級と、廃炉が決まった原発に比べれば大きい。関電は安全対策費として、高浜1、2号機で2000億円超、美浜3号機で1650億円を見込む。それでも延長に踏み切るのは、火力発電の燃料費削減など収益改善効果があるからだ。高浜1、2号機の場合、1カ月当たり約90億円に上るという。

     国内では今後10年間で、美浜3号機を含めて15基の原発が運転開始から40年を超える。関電の原発がお手本となり、安全対策費をかけても採算が見込める一定規模以上の原発の運転延長申請が続くだろう。

     廃炉の選択は、経済原理に基づく電力会社の判断に託され、例外規定の形骸化が更に進む。

     40年廃炉原則には、こうした電力会社の経済原理よりも、安全性を重視する意味があったはずだ。

     しかし、安倍政権は30年度の電力供給における原発比率を20〜22%とする計画を掲げる。これも、老朽原発の延命を後押しする。40年原則を徹底すれば、既存と建設中の原発がすべて稼働したとしても、比率は15%程度にとどまるからだ。

     これでは、原発に依存しない社会をできる限り早く作りたいという多くの国民の声には応えられない。原発の過酷事故を経験した国として、進めるべきは、老朽原発の延命ではなく淘汰(とうた)のはずだ。

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