天皇陛下、生前退位の希望を示唆

  • 2016年08月8日
今年1月に国会開会式でお言葉を述べる天皇陛下。 Image copyright AFP
Image caption 天皇陛下が「退位」と直接発言すれば、禁止されている政治行為とみなされる可能性がある。写真は今年1月に国会開会式でお言葉を述べる天皇陛下。

天皇陛下が異例のお気持ちを表明するビデオメッセージが8日午後3時、公表された。「天皇もまた高齢となった場合どのようなあり方が好ましいか」を長年考えてきたと語り、天皇が高齢となった場合に国民の象徴としての公務を滞りなく遂行するにはどうするのが良いか、国民の理解を得たいと求めた。

天皇陛下のお言葉を受けて、安倍晋三首相は記者団に、「どのようなことができるのか、しっかり考えていかなくてはいけない」と述べた。

天皇陛下は、「現行の皇室制度に具体的に触れることは控えながら」と前置きをした上で、「社会の高齢化が進むなか、天皇もまた高齢となった場合、どのような在り方が望ましいか、天皇という立場上、現行の皇室制度に具体的に触れることは控えながら、私が個人として、これまでに考えて来たことを話したいと思います」と切り出した。

さらに、「2度の外科手術を受け、加えて高齢による体力の低下を覚えるようになった頃から、これから先、従来のように重い務めを果たすことが困難になった場合、どのように身を処していくことが、国にとり、国民にとり、また、私のあとを歩む皇族にとり良いことであるかにつき、考えるようになりました」と説明した。

その上で天皇陛下は、「既に80を越え、幸いに健康であるとは申せ、次第に進む身体の衰えを考慮する時、これまでのように、全身全霊をもって象徴の務めを果たしていくことが、難しくなるのではないかと案じています」と懸念を示した。

さらに、天皇が「終焉」した後の皇室の葬儀行事には時間がかかる一方で、その間にも新しい天皇は国事行為を行わなくてはならないことの難しさに言及。「行事に関わる人々、とりわけ残される家族は、非常に厳しい状況下に置かれざるを得ません。こうした事態を避けることは出来ないものだろうかとの思いが、胸に去来することもあります」と述べ、「これからも皇室がどのような時にも国民と共にあり、相たずさえてこの国の未来を築いていけるよう、そして象徴天皇の務めが常に途切れることなく、安定的に続いていくことをひとえに念じ、ここに私の気持ちをお話しいたしました」と説明した上で、「国民の理解を得られることを、切に願っています」と理解を求めた。

「退位」という言葉は使わなかった。現行の皇室典範に既定のない生前退位をするためには法改正が必要となり、それを天皇陛下自らが希望することは国事行為にあたるとみられるためと考えられる。

天皇陛下の「お気持ち」公表受けて、安倍晋三首相は記者団を前に、「天皇陛下が国民に向けてご発言されたことを、重く受け止めている」と述べた。

さらに、公務のあり方について天皇陛下の年齢や負担の現状をかんがみ、「天皇陛下のご心労に思いをいたし、どのようなことができるのか、しっかり考えていかなくてはいけないと思っている」と述べた。

NHKによると、これまでに心臓の冠動脈バイパスや前立腺がんの手術を受けている天皇陛下は、公務の多くを皇太子殿下や美智子皇后陛下に託すことになるという。

天皇陛下がビデオメッセージで国民に語りかけるのは、東日本大震災直後の2011年3月16日の「おことば」以来、2度目。

NHKなど日本メディア各社は7月、82歳になる陛下が現代日本では前例のない「生前退位」を希望していると伝えた。

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Image caption 皇太子殿下

共同通信の世論調査によると、回答者の90%が天皇陛下の公務が多すぎると答え、85%が譲位を選択肢として法制化すべきだと答えた。

日本で最後に譲位(生前退位)した天皇は1780年に即位した第119代の光格(こうかく)天皇。1817年に退位し、仁孝天皇に譲位して太上天皇(上皇)となり、1840年に死去した。

第2次世界大戦の終戦まで、日本の天皇は「現人神」とみなされた。昭和天皇が1946年1月に初めて「人間宣言」をし、日本国憲法第1条が規定する「日本の象徴かつ日本国民統合の象徴」となった。


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Image caption 2001年に伊豆諸島の新島を訪れて地元の子供たちと歓談する天皇・皇后両陛下

天皇陛下について5つのこと

・より現代的なスタイルを取り入れ、皇室と国民の距離を縮める努力を重ねた。

・1959年に華族出身ではない正田美智子さんと結婚。「テニスコートのロマンス」と呼ばれた恋愛物語に国民は夢中になった。夫妻には子供が3人いる。

・第2次世界大戦による傷跡を癒そうと努力を重ねてきた。昨年8月の全国戦没者追悼式では、「ここに過去を顧み、さきの大戦に対する深い反省と共に、今後、戦争の惨禍が再び繰り返されぬことを切に願い、全国民と共に、戦陣に散り戦禍に倒れた人々に対し、心からなる追悼の意を表し、世界の平和と我が国の一層の発展を祈ります」と述べた。

・2002年には日韓共催のサッカー・ワールドカップについて質問され、「私自身としては、桓武天皇の生母が百済の武寧王の子孫であると、続日本紀に記されていることに、韓国とのゆかりを感じています」と述べ、韓国出身の祖先がいることを認めた。日韓両国には朝鮮半島をめぐる歴史的な対立があるだけに、この発言は多くの日本人を驚かせた。

・海洋生物学の研究を深く愛している。ハゼの研究が専門。

(英語記事 Japan's Emperor Akihito to make rare public address

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