2016年3月26日に、異常回転から分解事故を起こした宇宙航空研究開発機構(JAXA)・宇宙科学研究所(ISAS)のX線天文衛星「ひとみ」の事故調査は、6月14日に、文部科学省・宇宙開発利用部会に「X線天文衛星ASTRO-H『ひとみ』 異常事象調査報告書 」(リンク先はpdfファイル) を提出し終了した。現在は同報告書に基づき、JAXA内の体制改革を議論している段階にある。詳細は、来年度の予算要求が出そろう8月半ばまでには公開されることになるだろう。
開発・打ち上げ費310億円が失われた今回の事故。調査報告では、ひとみの事故原因を「プロジェクトの計画管理体制の不備」とみており、現在JAXA内の議論は計画管理体制の強化の方向で進んでいる。具体的には、きれいに整理された計画管理体制を持つ筑波宇宙センターの管理方式を、相模原のISASに導入するというやりかただ。
が、ひとみの事故の底に潜む問題は、単なる計画管理体制の強化で済むものではない。日本の宇宙技術の研究開発体制と、宇宙関連人材育成――つまり技術とヒトと継続性に関係してくる、大変重大なものだ。
現在進行中のこの問題を考えることは、企業や研究所の組織文化が持つ光と闇を具体的に知る手がかりにもなるだろう。今回から2回に分けて、ひとみ事故の“根”を解説していく。
属人的、コンパクト、高速の「宇宙研方式」
ひとみ分解事故の、具体的な経緯と原因については、本連載の「JAXA、X線観測衛星『ひとみ』の復旧を断念」(2016年5月2日掲載)と、「かなり“攻めている”『ひとみ』事故報告書」(2016年5月27日掲載)にまとめた。ごく簡単に書くと、衛星姿勢を検出するスタートラッカー(STT)と慣性基準装置(IRU)の判断基準に問題があり、衛星が「自分は回転している」と誤認。これを停めようとして、逆に必要の無い回転を始めてしまった。
最終的にスラスター(姿勢制御を行う小さなロケットエンジン)噴射で、「セーフホールドモード」というもっとも安全な姿勢に入ろうとしたところ、コンピューターに記憶させてあった噴射パターンが間違っていたために、高速回転状態に陥ってしまい、太陽電池パドルと、センサーを積んだ伸展式光学ベンチ(EOB)がちぎれて、衛星機能を喪失してしまったのだった。事故調査報告では、そうなるに至った開発時の意思決定の問題点や、内部の情報流通の悪さが指摘されている。
JAXAから宇宙開発利用部会に6月14日に提出された事故調査報告では、事故の根本にある問題を、以下の図のようにまとめている。
ここで注目すべきは、「ISASプロジェクトに関わる実施要領、管理方法は、すべてJAXAで定めた全社プロジェクト関連規則、規程類に準拠することを徹底する。」という文章だ。
ということは、ISASのプロジェクト管理はJAXAの定めた方式ではなかったのか。その通り。ISASはその前身である東京大学・宇宙航空研究所の時代から積み上げた独自の計画管理方式を持っていた。通称「宇宙研方式」という。