特集

インタビュー

天下人・秀吉の死を演じきった小日向文世さん。
秀吉として生きた思い出を語っていただきました!

 

欲望への我慢がない人

「今までにない秀吉を」というプレッシャーはありましたが、秀吉を演じるのは本当に楽しかったです。こんなに喜怒哀楽がはっきりとして、両極の感情を行ったり来たりする役を生きるのは、役者にとっての醍醐味(だいごみ)でした。
天下統一を果たしてもなお、何か満たされていない部分が常にあり、子どもが出来たことで、更なる欲が生まれる。人間の業なのかもしれませんが、秀吉はとどまるところを知らない欲望を持った人だったのだと思いました。

『真田丸』で描かれた秀吉は、自分の欲望を我慢しない人のような気がします。欲望に対して立ちはだかる障害へのいらだちが、怒りとなる。描かれてはいませんが、木下藤吉郎と名乗っていた頃から、ずっとイライラしがちな人だったんじゃないかな。その一方で、欲が満たされればニコニコしている、子どもみたいな人です。大人だったら理性で抑えられるけれど、秀吉の場合は最初からその辺りのたがが外れているような気がします。ただ、人のことを見抜く能力は優れている人だから、もしかしたら秀吉のことを怖いという人は、見抜かれていると感じていたのかもしれないですね。

さらに、感情がどうも安定していません。捨(鶴松)の死でがっくりと落ち込み、甥(おい)である秀次に関白を譲って退きますが、その直後に出兵を推し進めます。そして、その最中に拾(秀頼)が生まれると大はしゃぎ。僕自身はついていけません(笑)。穏やかに暮らしていけない人なのだと、なんだかかわいそうになります。もし武士になっていなければ、老後をもう少しのんきに暮らせたかもしれませんが、秀吉のことだから歯がゆさに地団駄を踏んでいたかも。きれいな着物を着て周囲からかしずかれても満たされない秀吉を演じて、そう感じました。

最大の脅威、家康

亡くなる直前まで「秀頼を頼む」というセリフを繰り返していましたが、秀吉にとって一番の不安材料は、やはり家康だったのでしょう。幼い秀頼を残して死ぬことになって、改めて家康の影に怯えていました。別格だと思っていたのでしょうね。秀吉は天下統一を果たすくらいの人物だから、そういう感覚は鋭かったのだと思います。だからこそ家康を江戸に追いやり、上杉に移転させて北から見張らせました。きっとこれから「出てくる」という勘が働いたのでしょう。

真田家に関しては、駆け引きは楽しんでいるけれども、そんなに目をかけていなかった気がします(笑)。やはり家康の方が脅威です。だから北条攻めの総大将を秀次にしたり、合戦が終わった後には「家康の与力から外れてもいい」と本人がいる前で昌幸に告げたり。真田は、家康を意識するうえでうまく利用しているだけのように思えました。気の回る信繁は、自分の若い頃を彷彿とさせるから、かわいいとは思っていたでしょうけれど。

それにしても、第26回「瓜売(うりうり)」で昌幸と秀吉は同じ瓜売りの格好をしましたが、草刈さんと僕とのあまりの違いに、思わず写真を撮らせていただきました(笑)。草刈さんは何をやっても格好いいです。

それにしても、第26回「瓜売(うりうり)」で昌幸と秀吉は同じ瓜売りの格好をしましたが、草刈さんと僕とのあまりの違いに、思わず写真を撮らせていただきました(笑)。草刈さんは何をやっても格好いいです。

無様な死をしっかりと

第28回「受難」での秀次の死から、秀吉はさらに精神的に不安定になります。そして第29回「異変」から第31回「終焉(しゅうえん)」までの4回をかけて、正気と忘却の間を行ったり来たりしながら死へと向かう秀吉の姿を、しっかり描いていただきました。

印象に残るシーンはたくさんありますが、特に印象的なのは、第14回「大坂」で屏風(びょうぶ)の陰で信繁と初対面を果たす場面。そして、第30回「黄昏(たそがれ)」でそのやり取りを再現した場面です。醍醐の花見の際に桜の木から落ちた後、足腰が弱り、ぼけてしまった秀吉に、屏風の裏で控えていた信繁が後ろから寄り添い、出会いの時と重なりました。とてもいいシーンを作っていただき、嬉しかったです。

それから、第20回「前兆」で、茶々との間にできた子どもが自分の子ではないという落書に、腹の底から怒りを見せたシーンも、秀吉の怖さが如実に現れていて印象的でした。僕は怒りを意識して表情を作るだけなのですが、きっと視聴者の皆さんは秀吉の裏側をご存じで想像してくださるから、怖いと思われたでしょう。それに、僕がドラマや映画に出演し始めた時は優しい役が多かったですから、そのギャップも効いていたと思います。

それから、第20回「前兆」で、茶々との間にできた子どもが自分の子ではないという落書に、腹の底から怒りを見せたシーンも、秀吉の怖さが如実に現れていて印象的でした。僕は怒りを意識して表情を作るだけなのですが、きっと視聴者の皆さんは秀吉の裏側をご存じで想像してくださるから、怖いと思われたでしょう。それに、僕がドラマや映画に出演し始めた時は優しい役が多かったですから、そのギャップも効いていたと思います。

僕は今、62歳ですが、秀吉の子どものような無邪気さを表現した時は「こんなにはしゃいだ秀吉でいいのだろうか」と不安になりました。その落差も視聴者の皆さんに感じていただけたのかもしれません。劇団時代、即興などで心を無防備な状態に解放する訓練をずいぶんしましたから、そういったことも役に立ったと思います。

寧に対しては無邪気に。茶々に関することには恐ろしいほど嫉妬するけれども、政治に関しては非常に冷静。秀吉を演じる際には、この3つの要素を意識しました。けれども秀頼が生まれてからは、愛情は茶々から秀頼に移っていきました。それは寧もわかっていると思います。こんなに素敵な寧が最期を看取ってくれて良かったです。また、秀吉にとって、性格の違う茶々と寧が寄り添ってくれたことも嬉しかったと思います。
死の直前、自分が死を命じた茶々の兄・万福丸の幻を見るなど、死へと向かう秀吉は無様です。もう少し生きていたかったという無念もあったと思いますが、案外すっと息を引き取っているように見えるように演じました。秀吉ですから、ベルを手に取れなかった即物的な悔しさも、死に際の思いの中にはあったかもしれませんけどね。

インタビュー一覧へ戻る

特集一覧へ戻る