ここから本文です

水辺の事故で生き抜く「浮いて待て」をプールで実践

日経DUAL 8月2日(火)11時55分配信

■恐怖をなくすことで、浮きやすい体になる

 実際にやってみて難しかったのは、「顎を上げる」こと。顎を上げ過ぎて、目が水の中につかってしまい、パニックになったこともありました。どのくらい顎を上げればいいかは、実際にやってみて体で覚える必要があります。

 ちなみに、「顎を上げる」理由について田村さんに聞くと、「水の比重は1ですが、人が空気を吸ったときの比重はおおむね0.98。つまり、人は空気を吸うと水より0.02だけ軽くなるため、身体の2%が水面上に出て浮くことになる。顎を上げて背浮きをすれば、鼻と口がその2%になり、呼吸を続けられる。反対に、助けを求めるため身体を起こすと水面上に出ている手や頭頂部がその2%になり、鼻や口は水の中に沈んでしまう」とのこと。




 もう一つ怖いのは、浮いている間、耳が水面下に沈んでしまい、水が顔のすぐそばまで迫ってしまうということ。水中の音は聞こえるのですが、周りの音は聞き取りにくくなります。ここで、気持ちが焦ったり、恐怖を感じたりすると、身体に力が入り、うまく浮けなくなります。
 水中にある物体は、その物体が押し出した水の体積と等しい浮力を受けるという「アルキメデスの原理」から分かるように、水中に沈んでいる体の重さと同じ大きさの浮力を受けます。つまり、口と鼻以外のなるべく多くの部分を水中に沈めることにより、浮力が増し、浮きやすくなります。

 背浮きすると、どういう状況になるか、ということをあらかじめ体験しておくことで、緊急時に焦ってパニックになることもなくなるでしょう。

 「この恐怖をなくすには、練習を重ねるのが一番。何度も試しているうちに、焦りや恐怖心も消えていく。浮き続けるためには、身体を常にリラックスさせ、ゆっくりと呼吸し続けること。気持ちが落ち着けば、長く浮けるようになる」(田村さん)



 水難事故は、毎年、夏から秋の今の時期に起きています。その被害に遭わないためには、水辺に行くときに必ずライフジャケットを装着することが重要です。

 しかし、準備のないまま、津波や堤防の決壊による洪水といった水災害に巻き込まれることもあります。
 そのときに役立つのが、今回体験した「背浮き」で救助を待つことです。2011年3月11日の東日本大震災時に津波が侵入してきた体育館で助かった少女のケースや、2014年7月下旬に伊豆でシュノーケリングしていた男性が遭難し生還したケースなど、背浮きができたことにより、命が助かった例もあります。伊豆の男性の場合、背浮きのまま20時間、40kmも漂流していました。背浮きは万が一の際、命を救う可能性を高める技術なのです。
 プールや海水浴を楽しむ前に、浮き具などを使って背浮きを練習し、そのコツをつかんでおくといいでしょう。

(文/秋葉けんた 撮影/大橋宏明)

3/3ページ

最終更新:8月2日(火)11時55分

日経DUAL

記事提供社からのご案内(外部サイト)

日経DUAL

日経BP社

働くママ&パパに役立つノウハウ情報サイト
小島慶子さん、岸谷香さんなど著名人コラム
保育園検索や共働き夫婦のノウハウも提供
大好評!共感マンガ

TEDカンファレンスのプレゼンテーション動画

史上最高の幼稚園
建築家・手塚貴晴設計の、世界一可愛らしい幼稚園へようこそ。東京にあるこの幼稚園では、5才児が交通渋滞を引き起こしたり、木に登って教室に入ったり。子どもが子どもらしくいられるように設計された構造を手塚氏自ら案内する、魅力あふれるトークです。 [new]