こういう人間になりたいと心から思う、
理想の人。
このメッセージが公開されるときには、花組『ME AND MY GIRL』東京公演が開幕しています。大劇場では通常の1ヵ月の公演期間よりも1週間ほど長かったのですが、役替わりもあって注意力と集中力がより必要だったので、あっという間でした。
ビルは2008年の新人公演以来、好きな役に挙げてきました。いつも明るくふざけている下町っ子というイメージがあると思いますが、実はとても賢く、人の気持ちに敏感で誠実。暗い気持ちになりそうになったら、周囲をしんみりさせないようにおもしろいことを言って平気な素振りをしたり、人のことを思い遣れる人です。きっとランベスの貧しい暮らしでも、周りの人を笑顔にしながら生活していて、皆が頼りたくなる存在だったのではと想像しています。そんな彼だからこそ、周りが引き込まれて愛される。下町育ちだからと卑下することもないですが、マリア公爵夫人が必死に教育しようとする気持ちに応えようと、自分なりに楽しんでレッスンを重ねます。それというのも、根底にサリーと一緒に暮らしたい、彼女を幸せにするのだという、サリーへのまったく揺るがない思いがあるからではないでしょうか。
執事のヘザーセットをすぐに愛称で呼んだり、どんな人にも垣根を作らず、すぐに関係性を作れてしまう。最初はビルにいい印象をもっていなかったジョン卿とも、愛して止まない人がいることで意気投合し、ビルのみならずサリーをも影から見守ってくれる存在になる。道で出会った警官とも心を通わすことができたりと、人の良いところを見付けて愛することができる、本当にすごい人です。亡き父の伯爵がジェントルマンでその血を引いていることと、女手1つで育ててくれた母親が亡くなるなど苦労してきたからこそ、人にやさしいのかなと思います。私もこういう人間になりたいと心から思う、理想の人ですね。
ナンバーのなかで、特に意識しているのは、さまざまな気持ちが込められた「街灯によりかかって」です。最初は、懐かしい下町に帰ってサリーとの幸せな日々を思い出して甘く切ない気持ちになり、でもいま彼女が側にいないことで、体半分がなくなったような痛みを覚える。そこから、「サリーは素晴らしい僕の女の子」で、自分はここで彼女の帰りを待つのだという気持ちを強く取り戻し、笑顔で歌い切る。悲しくなってバラードになりすぎてもビルではないですが、気持ちはたっぷりと伝えたい。そのバランスを考えて歌っています。
それまでビルは自分の感情を表に出さず我慢しているので、この場面をどう表現するかで、ビル像が現れてくると思います。これまで上級生の方々が演じてこられて、元のメロディは一緒ですが、1つ1つの単語にどういう思い入れがあり、どんなイメージがあるか、どこの歌詞を強調するかで歌い方がまったく違います。私の場合は、さきほどのようなサリーへの思いのほかに、下町育ちのビルらしさを取り戻したような歌い方を少し入れてみたり、教育を受けてジェントルマンになったオーラや、でもやはり中身は変わっていないというようなところも出したいな、と。それをお客様がご覧になって、ビルが素敵になったことをうれしく思ったり、逆に寂しく感じたりと、さまざまな感情を抱いていただけるような場面になっていたらいいなと思います。

サリーへの思い、そして退団者への思い。
おもに絡むキャストがほとんど替わる役替わり公演のなか、まりあちゃん(花乃まりあ)演じるサリーはずっと一緒だったので、安心感がありました。これまで組んできて癖もわかってきましたし、話し合う前から細かい反省点や修正点を大体共有しているので、次の公演をどうするかなど短い話し合いで解決できます。特に何もないときでも1度は顔を合わせて、もう少しこうしたらどうかなど、より良いものを探っています。そうやって2人で試行錯誤して役を作っていくことで、良いコンビネーションに繋がるのではないかなと思っています。これまでは、上級生の私が指摘することが多く、まりあちゃんはガッツをもってそれをクリアしようとしてきたのですが、だんだん自分のことを客観的に見て、私の息を感じて演じようとしてくれているなと感じています。
ビルはサリーが次に何をするのか、顔を見なくても泣いているのがわかったり、笑顔とは裏腹な気持ちも感じていて、大きなところでサリーを包んでいるような気がします。お互いが本当に相手のことを思って行動する、本当にいいコンビ。東京公演でも、最高の相性をもったビルとサリーを演じられるよう、頑張りたいと思います。
また、今作でPちゃん(鳳 真由)とミユちゃん(七輝かおる)が退団します。Pちゃんは普段から素直で真面目なのですが、ちょっと抜けていて天然なのでいつもミラクルを起こし(笑)、みんなを笑顔にしてくれる人です。でも舞台に立つとバリッと2枚目もできる正統派で、『ベルサイユのばら』でお芝居したときにもすごく楽しかったですし、今作のパーチェスターでも人柄がにじみ出ていて、とても魅力的。『リンカーン』を観たときも、息使いや間が上手で、何より生きた感情が流れる温度のある台詞だったので、もっといろいろな役で一緒にお芝居をしてみたかったです。ミユちゃんも、学年は若いですがとても落ち着いていて、男役の渋みのある声が素敵な人です。2人とも新しいことにチャレンジしていくうえで決断したことだと思うので、最後まで宝塚の舞台を楽しんでもらって、笑顔で送り出したいです。
※このメッセージは、6/17(金)に届いたものです。