防衛白書 宣伝よりも説得力を
昨秋に安全保障関連法が成立してから初めてとなる2016年版の防衛白書が公表された。
白書は、防衛政策についての透明性を高めることで、政策への国内外の理解と信頼を得ることを目的として、防衛省が毎年刊行している。新しい安保法制のもとで日本はどういう方向を目指すのかを政府として説明する機会のはずだが、白書はその役割を果たしているとは言い難い。
今年の白書は、北朝鮮や中国の動向について、昨年よりも記述を増やし、批判を強めた。また、安保関連法に一つの「章」を割き、解説コラムを多用して必要性や正当性を強調しているのが特徴だ。
北朝鮮の核・ミサイル開発について「重大かつ差し迫った脅威」と警戒感を示し、中国について、東シナ海や南シナ海での活動を念頭に「既成事実化を着実に進め、強い懸念を抱かせる」と批判した。
こうした安全保障環境についての認識は理解できる。中国の国防省による「中国軍に対する悪意に満ちている」との批判は当たらない。
だが、北朝鮮の脅威や中国への懸念を強調するだけでは、防衛政策について国内外の信頼を得るという目的は果たせない。
例えば白書は、安保関連法について次のように解説する。
「平和安全法制により、日米同盟は一層機能するようになる。抑止力は更に高まり、わが国が攻撃を受けるリスクは一層下がっていく。世界は平和になっていく」
これでは一方的な説明で、説得力に欠ける。3月に安保関連法が施行された後、果たして日米同盟の抑止力は高まり、日本が攻撃を受けるリスクは下がったと言えるだろうか。
政府は否定するが、日米同盟の強化により、戦争に巻き込まれるリスクが高まっている面もある。
政府に求められているのは、安保関連法の宣伝ではない。
北朝鮮は弾道ミサイルを頻繁に発射している。先日も「ノドン」と見られる中距離弾道ミサイルを秋田県沖の日本の排他的経済水域(EEZ)に撃ち込んだが、日本は発射の兆候を察知できなかった。
中国は、南シナ海で人工島を造成して軍事拠点化をはかり、東シナ海でも海軍の艦艇が尖閣諸島周辺の日本の接続水域に入るなど緊張を高める行動を取っている。
北朝鮮や中国の動向に、外交と防衛のバランスを取りながらどう対応していくのか。政府が安保関連法が必要というのなら、新しい法制が具体的にどう寄与するのか、わかりやすく説明するのが責務だろう。
そうでなければ、国民の理解と支持にはつながらない。