「ゲイだ」とばらされ苦悩の末の死 学生遺族が一橋大と同級生を提訴
この事件でいう、グループチャットにいた9人の側の立場に近かった経験を話す。今回はあくまでも、アウティングを聞かされた側としての意見だと思って欲しい。
忘れもしない。高校一年生の秋頃のこと。放課後の渡り廊下で、私と友人A子と友人B子の三人で他愛もない話をしてた。
けど、突然A子がB子の携帯を奪って、B子と知らない女の子がふたりで写った写メを見せつけながら言った。
「B子付き合ってる人いるよ!しかもこいつレズなんだよwで、これ彼女w」
いやーーーー、ほんとねーーーー、私あの瞬間を一生忘れられない。
”w”なんて下品かもしれないけど、ほんとそんな感じで笑いながら言われたんだよ。
なーんの悪気もなく無邪気に笑ってるA子の顔。その向こうで、直前まで和やかに話していた名残の笑顔のまま引きつってるB子の顔。
明らかに冗談の類ではないマジな雰囲気。渡り廊下の端っこだったこと。B子の携帯の色。見せられた写メとふたりの顔。窓から差し込んでた夕日の角度までよーく覚えてる。フィクションの表現の中に「永遠の様な一瞬」系の表現があるけど、正にそれを体感されられた。
言われたことを理解した瞬間、パニックになりながらも「B子の今後の人生が、私の反応にかかってるかもしれない」と思った。
A子とは中学の頃からの友人だったけど、B子はA子を介して知り合って数回話した程度の関係で、B子がどんな子なのかまだ全然知らなかった。でも、こんなプライベートな事を勝手に友人に暴露されて、それだけでショックなのは視界の端に入った表情だけでわかった。その上で、まだ他人の私が軽率な反応をすれば、絶対にB子の心に一生ものの傷を付けると思った。どうすればいいかとにかく考えた。変な間すら傷つけるかもしれないと思って凄く焦った。私に与えられた時間は一瞬だった。
身近に同性愛者がいた事、信じられない程のA子の無神経さ、そんなA子への怒り、いきなりよく知らない子の人生の重大(になるかもしれない)局面に晒されたこと、とにかくあらゆるショックを押し込んで、出来る限り普通に言った。絞り出した。A子はそのままペラペラとB子のことを勝手に喋り続け、B子もその流れに押されてあぁとかうんとか言ってた。その後、B子と個人的にちゃんと仲良くなってから、その日のことについて改めて聞いた。私の反応は彼女を驚かせはしたものの、傷付けはしなかったと聞いてほっとしたよ。
私がなぜ、瞬時にでもB子の気持ちを考えられたかといえば、本当に偶然だ。
偶然、中学の頃にオタクになってBLや百合をよく知っていたこと。偶然、フィクションから興味が広がって、同性愛を始め性的指向に纏わる現実の問題についても手を出していたこと。偶然、セクシャルマイノリティの人権や心の問題にまで踏み込んでいたこと。だから、「思春期に同性愛者は自分の性的指向について悩みやすい」程度のことを、本当に偶然ぼんやりと知っていた。ただそれだけ。
まさか、現実の同性愛者を目前にしていきなり自分を試されることになるとは、夢にも思わなかったけどね。いや本当に。冷や汗かいた。
同性愛者でも男性と女性じゃ違うと言われるかもしれないけど、告白されたから、同性愛者だと教えられたからって、本人の目の前で勝手に暴露するなんて、聞かされる側からしたってあり得ないよ。
個人間の信頼や好意のやり取りは、人と人の距離感によって全く違うものじゃん。その距離感を無視して、本人の見てる場所で、そんなプライベートな情報を暴露される側の気持ちを考えてもみてよ。私は、知り合って間もないB子とのまだ浅い関係を、A子の暴露によって、突然A子・B子間の信頼関係の場にまで無理矢理引きずり出された。それは、私とB子の関係性と意志に対する完全な「無視」なんだよ。言ってることがわかってもらえるかな?
本人の目の前で行われる勝手な暴露は、知らなかった側の人間に心の準備をする暇も与えず全てを無視して、「その瞬間」に相手との関係を精算することを強要する行為なんだ。
例えば、ゲイの友人を受け入れられない人がいたとして、ゲイだと知った友人とどんな風に関係を精算していくかは、各人の自由であるべきだ。受け入れられるかどうか悩む時間だってあるべきだと思うし、どうでもいい人や知りたくなかった人は、何も知らない振りをして友人関係を続ける選択肢があるべきなんだ。(そりゃ、カミングアウトしても誰もが普通に受け入れられる社会がいいけど、少なくとも今はそうじゃないから割愛)
それなのに突然その事実を知らされて、LINEという公の場だから見なかった振りもできない。特定の情報を「知ってしまう」ということは、取り返しがつかない行為なんだ。知らなかった状態には戻れない。Aくんがゲイであるとみんなが知ったことも、ゲイであることをみんなが知ってしまったとAくんが知ったことも。
あまりにも酷すぎると思わない?
ライングループにいた他の同級生全員が、ゲイのAくんを即軽蔑する程のホモファビアだったとは断言できないと思う。
公開されているやり取り以上のことは知ることができないけど、顔をつき合わせて察することもできないLINE上で、暴露した人のノリも、本人のノリも、本人と暴露した人との関係も、みんながその事についてどう思ったかも、実はどのくらい知ってるのかも、情報が少ない状況で、AくんZくん以外はどう思っただろう?下手を打てば誰かを傷つけるかもしれないのに、詳しいことも知らないまま核心だけ伝えられて、何を言えばいい?「もうおまえがゲイであることを隠しておくのムリだ、ごめん」って、明らかに何かあった感じだけどいきなり何?って思わないかな?
変な形で知らされたせいでどうしたって気まずくなるしかない状況を、なんで他人の都合で急に押し付けられなきゃいけないの?
当時、なんとかあの場をやり過ごした私でも、現代の環境のライングループで同じことをされたら、同じ様に乗り切れた自信はない。私の人徳じゃなくて、本当に偶然上手くいっただけだから。もし下手なことしてB子を傷つけて、B子が泣きながら逃げ去るような結果になっていたら、私は一生後悔し続けたと思う。
LINEだから駄目だったって話じゃなくて、コミュニケーション自体の話なんだ。人と人との距離感についての話で、信頼関係の話で、黙っていられないからって個人間の関係を他者に擦り付けるなという話なんだ。
周りの気持ちを無視して、わざわざAくんの見える場所で情報を暴露する行為は余りにも勝手すぎる。相談や愚痴だけなら個人的に話したんであろう三人だけで充分だったろうに、なぜ本人が見てる場所で、そのコミュニティ全体に公表する必要があったんだろう?どんな偏見を持っていようと、どんな理由があろうと、吊るしあげるような真似をして関係性の精算を周囲の人間にも強要する権利は誰にもない。
じゃ影でこっそり広めることなら許すのかといえば、そういうことじゃない。ただ、本人の目の前で暴露するのは余りにも酷すぎるって言いたいんだ。
B子は誰にでも同性愛者であることを言うタイプではなかった。あんな形じゃなくて、ちゃんと仲良くなってB子の方から話してくれた時に、私は「へー」と言いたかった。