彼ら彼女らに憎悪を植え付けるのは、ネットで流布される怪しげな情報だけではない。執拗(しつよう)に近隣国の脅威を煽(あお)るメディアがあり、特定の民族を貶(おとし)める書籍が流通する。テレビのバラエティー番組で、ヘイトデモに理解を示す“識者”もいた。憎悪の種が社会にばらまかれる。そして人々は差別を“学んで”いく。無自覚のうちにヘイトスピーチを自らの中に取り込んでいく。

 憎悪と不寛容の空気は、さらに新たな「敵」を生み出していった。国への補償を求める公害病患者や、震災被害で家を失い、仮設住宅で暮らす人々、生活保護受給者などに、「反日」「売国奴」といったレッテルが貼られる。私はこの数年間、そうした現場ばかりを見てきた。

 そればかりではない。差別主義者、排外主義者にとって、沖縄もまた「敵」として認知されるようになった。

 私の網膜には、あの日の光景が焼き付いている。2013年1月、沖縄の市町村長や県議たちが東京・銀座でオスプレイ配備反対のデモ行進を行ったときのことだ。日章旗を手にして沿道に陣取った集団が、沖縄のデモ隊に向けて「非国民」「売国奴」「中国のスパイ」「日本から出ていけ」と、あらん限りの罵声をぶつけた。彼ら彼女らは、日ごろから外国人排斥運動に参加している者たちだった。

 沖縄の人間を小ばかにしたように打ち振られる日章旗を見ながら、沖縄もまた、差別と排他の気分に満ちた醜悪な攻撃にさらされている現実に愕然(がくぜん)とした。

 「戦後70年近くにして沖縄がたどり着いた地平がこれなのか」

 デモ参加者の1人は悔しさをにじませた表情で話した。

 外国籍住民へのヘイトスピーチと沖縄バッシングは地続きだった。

 実は、銀座の沿道から罵声を飛ばしていた者たちの一部は、その前年、辺野古にも出向いている。新基地建設反対派のテントに踏み込み、「日本から出ていけ」「ふざけんじゃねえよ」などと拡声器を使って悪罵の限りを叩きつけた。しかもこれを「愛国運動」などと称しているのだから呆(あき)れるばかりだ。地域を破壊し、分断し、人々の心を傷つけているだけじゃないか。

 このような“沖縄ヘイト”は、いま、社会の中でさらに勢いを増している。

「沖縄ヘイトを考える(下)偏見生むデマ、次々と 事件被害者も攻撃」に続く