ショートスリーパーと呼ばれる人がおるらしいが、私には理解出来ない。基本的に起きている時間ずっと睡魔に襲われっぱなしの私は、寝るという事が大好きなロングスリーパーである。そしてなんといっても『毛布』である。あの触り心地、かわいいかわいい小動物をタンクローリーでぺしゃんこにして引き伸ばしたようなふわふわ、それをさわさわする、その為だけに私の五感のうちの一つ、触感は存在するのだ。
嗚呼、毛布と結婚したい。毛布になら巻き付かれ窒息して死んでもいい。そう思いながら寝たのが昨夜の3時であった。
そう、今日は珍しく休日であったのだ。
浅くなった眠り、その鼓膜にカラスの鳴き声が、その網膜に鮮やかなオレンジが刺し、目を覚ますとすでに夕刻。
なんてことだ。昨日あれこれ考えていた予定が全て実行出来なかった。これが低学歴、これが低年収、これが低身長の堕落したファッキンサタデー。
こんな時間から外出する事などできようか、いやできない。御飯を食べて、嫌いなお風呂は華麗にスルー、そして寝るだけ。そんなヴェルヴェットなサタデー。
妻の拵えた鰻丼、私のスペックの低さを遠回しに皮肉るその鰻の少なさ、性欲の少なさを補うにはあまりにも少ない鰻と、両足の付け根を交互に見ながら、晩御飯を終える。
これは最後の晩御飯なのだ。嫁と娘との最後の晩餐なのだ。
明日から彼女らはいない。
鰻を与えても『シシ神』が『ダイダラボッチ』に変化しない旦那の夜の諸事情に愛想を尽かしたわけではなく、妻の妹に赤ん坊が生まれたので、その応援へと駆け付けるのである。
期間にして約二週間と強。私はその間ひとりぼっちで過ごさなくてはならない。一人暮らし歴の長さと全く比例しない私の生活力は皆無。かと言って、毎日外食するようなお金は絶無。詰んだ。チェックメイト。ウノ。
寂しいよう。ひもじいよう。私は兎のような顔面で路傍に生えている雑草を貪り食らうしかないのか。
大丈夫、この状況を癒してくれる唯一の存在が『毛布』である。妻と娘がいないので、彼女らに気を使う必要は、もう無い。
クーラーの設定温度を下げるボタンをファミコンのハイパーオリンピックのように連打して、真冬のような環境を作り上げ、毛布に包まって生活するのだ。
例え、私が愛した毛布が寝ている間に首に巻き付いてチョークスリーパーされ、私が永遠のロングスリーパーになったとしても本望である。
私の事を嫌いになっても、毛布の事は嫌いにならないでください。
そんなナイトがフィーバーしない土曜日であった。