トップ > 中日スポーツ > スポーツ > 首都スポ > 記事

ここから本文

【首都スポ】

チャンピオンベルトより金メダル アマボクシングの新星・森坂嵐

2016年8月5日 紙面から

東京農大名物の大根踊りを意識しながらポーズをとる森坂嵐=東京農大世田谷キャンパスで(武藤健一撮影)

写真

 アマチュアボクシングの名門から若きファイターがリオデジャネイロ五輪に挑む。男子バンタム級代表で東農大の森坂嵐(2年・奈良朱雀)だ。6月にアゼルバイジャンのバクーで行われた世界最終予選で3位となり五輪出場権を獲得、アマの誇りと東京への夢を抱き、リオでは世界の強豪と拳を突き合わせる。 (川村庸介)

 オリンピック代表は森坂とライト級の成松大介(自衛隊)を含めこれまでに7名、全日本大学王座に輝くこと8度、プロでは元WBA世界スーパーフライ級王者清水智信、元WBC世界フライ級王者五十嵐俊幸(帝拳)、中退し世界最速3階級制覇王者となった井岡一翔(井岡)…。そうそうたるボクサーを輩出した名門東農大からまた1人、新たなファイターが誕生した。森坂は「リオではオリンピックを重荷に感じることなく、リラックスして金メダルを取りたい」と柔和な笑顔で意気込んだ。

 高校では全国高校選抜、全国高校総体(インターハイ)、国体で3冠を達成、大学でも1年生ながら全日本選手権を制するなど同世代のみならず今や日本のトップランカー。最大の持ち味は「最後まで負けないぞという気持ち。最終予選でも1ラウンドを取って2ラウンドを取られてという接戦を最後は気持ちで行けた」と自己分析する。さらに中学時代は陸上の1500メートルで近畿大会入賞したスタミナ、空手で培った体幹の強さも持ち合わせる。東農大の山本浩二監督(47)は技術面で「距離感を取るのがうまいので、ダメージのあるパンチをもらわない技術がある」と分析する。

 ボクシングを始めたのは、小1から姉の影響で通っていた空手道場にボクシングのトレーナーが訪れたことがきっかけで、程なくしてグローブをはめるようになった。「空手はパンチと蹴りが両手両足の4つあるけど、ボクシングは2つのパンチだけ。その中でいかに相手に当ててかわすかという奥深さがある」と徐々に拳と拳の戦いであるリングにのめり込んでいった。

 ボクサーとして成長するに連れ、当然悩みも出てきた。アマチュアを続けるのか、プロになるのか−。迷いが生じた頃に2つの出来事が立て続けに起こった。2012年のロンドン五輪で村田諒太(当時東洋大)がミドル級で金メダルを獲得。さらに翌13年には東京五輪開催が決定し「村田さんの決勝戦を見て、自分もここで戦って勝って金メダルを首に掛けたいと思い、悩んでいた時期に東京が決まり、『行くしかない』という思いが強くなった」とアマ続行を決断した。プロのジムから声がかかったこともあったと言うが「日本人でプロの世界チャンピオンは何人もいるけど、オリンピックの金メダルは村田さんが取るまで48年間いなかった。日本人が取れていない壁に挑戦したいと思った」とチャンピオンベルトよりも金メダルを選んだ。

 現在は数々のボクサーや格闘家を育てた野木丈司トレーナーや大橋ジムにも出稽古にも赴き、WBC世界スーパーフライ級王者の井上尚弥らともスパーリングすることもある。プロとの手合わせの中でも「今はジャブが当たるだけで終わっているけど、つなぐパンチを出していけば突破口になると思う。距離感は負けていないと思う」と手応えをつかんでいる。リオ五輪はプロもリングに立てるが「プロの選手は12ラウンド制で戦ってきているのでアマとはリズムが違う。アマのルールだったらトップレベルではない選手相手なら苦戦せずに勝てると思う」とまで言い切る。12ラウンドの1戦のみで決まるプロとは違い、五輪などのアマは3ラウンドでしかもトーナメントを勝ち抜いていく長丁場。戦い方も異なる。森坂にとってリオはアマとしての意地、プライドを見せる場でもある。

 自らを「控えめでおとなしい性格」と表現する一方、「内に秘めて表に出さないけど負けず嫌い。しょうもないことでも勝負意識を持ってしまう。ゲームアプリでも負けていたらスコアを抜くまでやってしまう」とも苦笑いする森坂。負けず嫌いの気持ちとアマの意地を込めたパンチを武器にリオ、そして「最終目標は東京で金メダルなので、リオが終わっても気を抜かず頑張りたい」と意気込む2020年東京五輪のリングに立つ。

     ◇

 首都圏のアスリートを全力で応援する「首都スポ」。トーチュウ紙面で連日展開中。

 

この記事を印刷する

PR情報

閉じる
中日スポーツ 東京中日スポーツ 中日スポーツ 東京中日スポーツ 中日スポーツ購読案内 東京中日スポーツ購読案内 中日スポーツ購読案内 東京中日スポーツ購読案内 中日新聞フォトサービス 東京中日スポーツ