東京新聞のニュースサイトです。ナビゲーションリンクをとばして、ページの本文へ移動します。

トップ > 社会 > 紙面から > 8月の記事一覧 > 記事

ここから本文

【社会】

過労死なき希望の社会に ワタミ自殺の遺族が基金設立へ

 「過労死に追い込まれる前に声を上げて」−。居酒屋チェーン「和民」などを経営するワタミグループの元社員で、二〇〇八年に過労自殺した森美菜さん=当時(26)=の両親が七日、ブラック企業などで不当に働かされている人たちを支援しようと基金を設立する。過労死を無くすことが娘の遺志と信じ、裁判でワタミ側から支払われた和解金一億三千万円を充てる。

 美菜さんの過労自殺をめぐっては、ワタミ創業者の渡辺美樹参院議員らの責任を求めた民事訴訟が昨年十二月、両親の主張をほぼ全面的に認めるかたちで和解に至った。

 基金の名称は「ブラック企業と闘う望(のぞみ)基金」。「望」は美菜さんが生前、書道で書き残していた文字で、墓碑にも刻まれた。美菜さんの父、豪さん(67)は「希望のある社会になってほしいという娘の願いを込めた」と明かす。長時間労働などを強いられた人たちが会社を訴える際、訴訟費用などを援助する。

 基金は、過労死撲滅のために活動してきた別の遺族の思いも引き継いでいる。外食大手「すかいらーく」の店長だった夫=当時(48)=を過労で亡くした中島晴香さん(60)は、〇七年から毎年、過労死をなくすために活動した団体や個人を表彰してきた。目標だった十年目を迎える今年、終了する。中島さんは「過労死撲滅という夫の遺志は森さんに託したい」と話す。

 政府の動きは鈍く、長時間労働の是正など働き方の見直しにようやく動きだしたばかりだ。豪さんは「望基金が『こんな働き方はおかしい』と声を上げる助けになれば」と願う。 (中沢誠)

    ◇

 最後となる中島さんの表彰式は七日午後一時から、東京都葛飾区のかつしかシンフォニーヒルズ別館で開催。美菜さんの両親も交えてシンポジウムも行う。望基金や労働相談の問い合わせは、全国一般東京東部労組=電03(3604)5983=へ。

<ワタミ過労自殺> ワタミの子会社が運営する神奈川県横須賀市内の居酒屋「和民」で働いていた森美菜さんが、入社2カ月後の2008年6月に自殺。4年後、過労が原因として労災認定された。連日の深夜勤務に加え、休日は課題リポートの作成などに割かれた。残業は最長で月141時間に上った。昨年12月、両親がワタミや渡辺美樹氏らに損害賠償を求めた訴訟が和解。残業時間の上限引き下げなど再発防止策も盛り込まれた。

 

この記事を印刷する

PR情報