大分県警の監視 順法精神を欠いている
大分県警別府署が、参院選公示日の直前の6月、民進党候補を支援する連合大分などが入居する労働福祉会館の敷地に無断で隠しカメラを設置し、撮影していた。敷地内の斜面と木の幹につけられた2台のカメラは、会館の出入り口に向けられ、人の出入りを監視していたという。
県警は、署員が無断で敷地に入り込んだことを認めた。建造物侵入罪に問われ得る極めて不適切な行為であり、十分な説明が必要だ。
隠しカメラは、6月22日の参院選公示日の4日前に設置され、23日に発覚した。連絡を受けた同署幹部が謝罪し、カメラを撤去したという。
県警は、カメラの設置は別府署の判断に基づき、特定の人物の動向を把握するためだったと説明した。ただし、対象者や参院選に絡む捜査かは明らかにできないとしている。
一方、設置された側の関係者は「選挙活動、政治運動への介入だ」と批判する。設置時期、場所からみて、そう受け取られても仕方ない。
憲法が保障する政治活動の自由は、民主主義社会の土台となる大切な権利だ。不特定の人たちが多数出入りする政党の活動拠点に対する警察による監視は、こうした憲法の精神に反する。しかも、今回のケースでは、署員は無断で敷地に忍び込んでカメラを設置した。適正な刑事手続きの原則にも反する。
「過去にもやったのではないか」「他の署でもやっているのでは」。そういった声も出ている。監視された施設には、地区の平和運動センターなども入居している。政治活動のみならず、思想・信条の自由など憲法の他の基本的な権利を侵されたと感じた人もいるかもしれない。
また、労働福祉会館には、勤め先とトラブルになり労働相談に訪れる人がいるという。プライバシーの面からも見過ごせない。
設置した署員は「私有地だとは思わなかった」と話したという。だが、私有地以外ならば警察の思うがままに監視できるわけではない。
かつて大阪市西成区で、警察の街頭監視カメラ設置の是非が争われた訴訟がある。大阪地裁は1994年、公道から労働運動にかかわる施設の出入りを撮っていたカメラ1台について撤去を命じた。その際、カメラ設置に当たっては、目的の正当性、必要性、設置状況の妥当性などが検討されるべきだと指摘した。この判決は最高裁で確定している。
いまや監視カメラは高精度で、容易に個人の識別が可能だ。市民のプライバシーを侵害する恐れが高まっている。警察など公権力による活用は、より慎重であるべきだ。市民の自由な政治活動を萎縮させることがあってはならない。