参院選で野党候補を支援した労組の運動拠点で、建物に出入りする人々を大分県警が数日間ひそかに撮影していた。そのために捜査員が敷地への出入りを無断で繰り返していた。

 明らかに行きすぎた行為というほかない。政治活動に使われる場を公権力が何のために監視していたのか。重い権利侵害につながりかねない問題だ。

 県警は撮影の目的や経緯などを検証し、責任の所在を明らかにすべきである。

 労組の関係者が、箱形の隠しカメラ2台を「別府地区労働福祉会館」の敷地内で見つけたのは、参院選が公示されてから2日後の6月24日。

 建物への人の出入りが映っており、個人が判別できるほど、はっきりした映像だったという。「どこかの陣営に監視されている」と別府署に通報したところ、張本人は当の別府署であることが分かった。

 県警は、無断で敷地内に入ったことは「不適切だった」として謝罪したものの、カメラの設置は「必要性があった」と弁明している。

 問題の本質が分かっていないのではないか。別の場所にカメラを据えていれば問題なかったというのだろうか。

 捜査の狙いが何であれ、思想や信条に基づく市民の活動がひそかに監視されていたこと自体が問題なのである。正当な必要性があったというなら、県警は丁寧に説明するべきだ。

 1980年代にも、公安調査庁が共産党本部への出入りを隠し撮りし、「政治結社の自由」が問題になったことがある。

 今回カメラを設置したのは、警備・公安部門ではなく、刑事部門の捜査員だという。

 犯罪捜査のためであっても、みだりに人を撮影することが公権力に許されるわけではない。犯罪が実際に行われていたり、犯罪の恐れが高かったりする場合などに限られる。それがこれまでの司法の判断だ。

 大分県警は「個別の容疑事案で特定の対象者の動向を把握するためだった」と説明するが、実際には、不特定多数の人の出入りを無制限に記録しつづけていた。県警の説明はあまりにあいまいで、納得できない。

 大分選挙区は、九州で唯一、民進党が議席を持っていた1人区だったため、公示前から激戦が予想されていた。

 選挙違反事件の検挙を狙ったのか。それとも、政治や労組活動にかかわる人々を対象にした別の狙いがあったのか。監視の疑問を解かねば、警察活動全体への不信を招きかねない。