8万人以上の警戒要員に守られて、リオデジャネイロ五輪が5日夜(日本時間6日朝)、開会式を迎える。

 経済の低迷や大統領の職務停止など、ブラジル国内は様々な不安を抱えてきたが、いよいよ祭典の開幕である。

 南米で史上初となる五輪だ。ブラジルと中南米諸国がともに祝福し、自信を深める歴史的な契機となるよう期待する。

 大会組織委員会は「トランスフォルマ」と呼ばれる教育活動を繰り広げてきた。スポーツ競技を通じて、子どもたちにルールを守る健全な社会の意識を根づかせ、国の内外でリーダーとなる人材の育成をめざす。

 元学校職員のオリベイラさんにとっても、特別な舞台だ。08年、地元のスラム街に体育館を完成させた。自ら土を運び、屋根をかけ、子どもたちにバドミントンを教えた。この五輪で、ここから2選手が出場する。

 「スポーツは責任感と努力の大切さ、計画性や達成できたときの喜びを教えてくれる」

 若い世代が今後、国際社会の一員として活躍してほしい、とオリベイラさんは願う。五輪は、子どもたちが世界を一つと感じる、またとない機会だ。

 しかし、その国際社会は国家間の溝が深まっている。米国では排他的な言動をとる大統領候補が現れ、英国は欧州連合からの離脱を決めた。難民をめぐる各国の足並みもそろわない。

 国々の垣根を高めようという主張が勢いづく。そんな残念な傾向はスポーツ界にもある。

 ロシアの国家ぐるみのドーピングをめぐり、米国やカナダなどとロシアが対立した。東西冷戦時代を思い出させるような事態だ。スポーツで国家の勢いを示そうという考えも根強い。

 相手への敬意を忘れず、公平なルールに沿って競う。スポーツの原則を確認し、国際社会の垣根を低くすることにつなげたい。スポーツが国家対立を助長することがあってはならない。

 国際オリンピック委員会は初めて、難民10選手による選手団を結成した。シリアから海を渡り、ドイツに逃れた競泳のマルディニ選手は記者会見で、苦境を乗り越える決意を示した。

 大会には難民選手団と206の国・地域が参加、1万を超す選手が集う。誰もが対等であり、スポーツを通じた仲間だ。

 身近な選手には声援が自然と出るだろう。なじみのない国の選手も、これまでにない驚きを見せてくれるかもしれない。

 垣根を越えて、人間のスピードとパワーをたたえ、競技が織りなすドラマを楽しもう。